三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん

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サンタさん、人助けをする

43 遺跡調査(2)

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 ざわつく室内を見回し、トレジャーハンター協会の最高幹部でもある高位・鑑定士のボルロさん52歳が立ち上り、調査団をひと睨みして口を開いた。

「しかも恥ずかしがり屋で、初対面の人間には顔を見られるのを嫌がるため、常日頃からフードを被っている。なにせハンターは強面の者が多いのでな。
 高位な立場である皆さんは、まさかこんな幼児を、睨み付けたり脅すような下品なことはされないと信じていますよ。
 この子は、私も含め、協会が最も期待している準銀級ハンターですからね」

【聖なる地】へ一緒に行ったことがあるボルロさんが、私を守るために黒い笑顔で皆さんに釘を刺してくれた。
 ボルロさん自身も伯爵だけど、元々キース侯爵家の3男で、鑑定士としての功績を広く知られている生粋の高位貴族だ。
 おまけに、王立能力学園の特別講師でもあるため、調査団の副責任者に任命されている。

 ……ボルロさん大好き! いつか魔核を使った拡張型のカバンを作ってあげるね。

 まあそんなこんなの対面式だったけど、調査団の大多数はボルロさんと同年代のベテランが多いから、可愛い孫を見るような目で見てくれる人もいた。

 明日からの予定を調査団と一緒に話し合い、とりあえず1週間分の計画と、大まかな調査計画を立てた。
 問題になったのが発見された扉の件で、魔力持ちでなければ扉の先に進めないという報告に、天文・気象学を専門とするガリア教会大学のメンバーが、自分たちも扉の中に入りたいとごねたことだろうか。

 扉の件は、まだ未確認事項も多いので、魔力持ち以外が本当に入れないのかどうかは不明なのだとファーズさんが説明した。
 魔術師が入れる場所まで入って、天文・気象学者の調査が必要であると判断したら方法を考えると、調査団の責任者であるアロー公爵が約束した。

 ……あの人がアレスにいにのお爺様かぁ・・・にいにと同じ金髪にブルーの瞳だ。きっと一緒に並んだら、親族だって一発でバレちゃうな。

 ……ファイト子爵領に隠れて正解だったよ、アレスにいに。
 ……私が絶対に、お爺様を守るからね!

 そして夕食後、私は支部の3階にある要人専用の応接室で、チーフとサブチーフ、調査団の責任者であるアロー公爵と副責任者であるボルロさんと面会した。



 翌朝、私は光猫のシリスを連れ、調査団21人とポーター2人、案内人である魔術師のファーズさんとサブチーフ、そして大事な最速踏破者メンバー6人の合計32人で古代都市ロルツのゲートへと向かう。

 地底生物との遭遇を考慮し、護衛としてもっとハンターを同行させた方がいいのではないかと、出発前に学者の皆さんが心配し始めた。

是非に参加させて欲しいとしてきた王宮魔術師団の2人がいる。
 余程の自信があって参加したのだろうから、最後尾を任せても大丈夫だろう」

 アロー公爵は、少しばかり含みのある言い方で部外者の参加を拒んだ。
 現在【聖なる地】は、うち以外のパーティーは立ち入り禁止になっている。

 アロー公爵家の乗っ取りを企むヒバド伯爵は、職業選別で【中位・戦略】を授かり、魔術師ではないが【王宮魔術師団】の幹部として在籍している。
 だから王宮魔術師団から参加しているラースク子爵40歳と、要注意人物指定しているロールテン19歳は、間違いなくヒバド伯爵の手の者だろう。
 バカ息子のナックル24歳も、当然、王宮魔術師団に所属している。

 王宮魔術師団の2人は中位・魔術師で、人間と戦うことが仕事だけど、地底生物と1回戦った経験があると自慢していた。
 今回の調査団に参加するため、アロー公爵領のゲートがある町で、金級パーティーを同行させて経験を積んだらしい。

 ……たった1回で経験を積んだって言える? 死にたいのかな?

『まあ、死んでもいいような人間を選出しているんじゃろう。
 もしも死ねば、ゲートルの町に来ているバカ息子と、別行動をしている仲間と思われるもう1人の魔術師が、代替え要員として参加するんじゃろう』

 バカ息子の監視をしていたサーク爺が、蔑みを込めて言う。  

『サンタさんと遠く離れることができんのは残念や。今頃はもう1人の奴とゴソゴソしとるんやないか?』

 トキニさんの言うゴソゴソは、他のパーティーに同行させろと頼むことだ。
 調査団が来る前に金貨2枚をちらつかせて依頼したけど、誰も国の法を犯してまで【聖なる地】に行こうとはしなかった。
 でも、金級パーティーの【選ばれし勇者】は、1人金貨5枚なら考えてもいいと返事をしているらしい(パトリシアさん情報)。

 案の定というかガッカリというかゲートの直前で、【選ばれし勇者】パーティーと遭遇した。
 彼等はイオナロードの1キロまでしか入らないと書かれた、誓約書にサインをしているところだった。 


『様子見かなぁ?』と、私はフードを被ったままでリーダーのボイルを見る。

『いや、顔を売りに来たんちゃうかサンタさん』とトキニさんは言う。

『そうね。もしも地底生物に出会って退治したら、調査団に参加できるかもって話してたから、売り込みなんじゃない。
 このパーティーは、自分たちは金級パーティーなのに、何故【聖なる地】に入れないってチーフとサブチーフに度々ごねてたのよね』

 俺は伯爵家の子息で金級ハンターなんだと威張り、常に女性を侍らせて大きな顔をしているリーダーボイルのことが、大嫌いなパトリシアさんの口調は冷たい。

 ゲートを通過して、予想通り調査団の少し前を進む【選ばれし勇者】たちを見て、私を抱っこしているサブチーフは大きな溜息を吐いた。
 どうやらパトリシアさんと同じことを考えてたみたい。


 私たち調査団は、先頭を【最速踏破者】6人が務め、直ぐ後ろにサブチーフと抱っこされた私と魔術師のファーズさんが続く。
 次に魔術師チーム4人、続いて鑑定士チーム3人(チーフを含む)、歴史学者チーム2人、地質学者チーム2人、天文学者チーム2人、気象学者チーム2人、工業学者チーム6人(内2人はポーター)、最後尾は魔術師チームに所属している王宮魔術師団の2人だ。合計32人の隊列で進んでいる。

「ん? 誰か前方で戦闘中みたいだよサブチーフ」
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