三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん

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サンタさん、トレジャーハンターになる

16 サンタさん、デビューする?

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 今度は魔術師のファーズさんが、チーフとサブチーフを睨みながら喧嘩を始めてしまった。
 
 ファーズさんは、私がまだ幼いからトレジャーハンターは危険だと反対する。
 協会所属の魔術師として認め、もっと魔術の勉強をしたり、新しい魔術を協会所属の魔術師に広めるべきだと主張する。

 ……新しい魔術を広めるって何? 魔法のこと?

 一方のチーフとサブチーフは、本人がトレジャーハンターを望んでいるんだから、望みを叶えてやるべきだと主張している。

「現在ゲートルで活躍している魔術師は、たったの2人しか居ない。
 しかも【下位・魔術師】だから、戦闘要員ではない。
 トレジャーハンターと同行する魔術師は、戦闘用の魔術を使えないんだ。
 王都で行われる【下位・魔術師】の試験では、魔法陣を使って大き目の石を砕いたり、荷物を入れた箱を移動させたり、半分の的に魔術が当たれば合格できる」

 サブチーフが、私の知らなかったトレジャーハンターに同行する【下位・魔術師】の現状と、王都で行われる魔術師試験のレベルを教えてくれた。

「えぇーっ! 的に当てるだけ? 魔術師は戦闘に参加しない? なんで?」

 思わず大声を出してしまった。
 だからファーズさんが、あり得ん!とかって叫んでたんだ。
 私、魔法陣を使ってないし。

「今見たサンタさんの攻撃的な魔術は、恐らく【中位・魔術師】でも半数以上が使えないと思う。もちろん、魔法陣無しで岩なんて砕けない。
 だから是非、我がゲートル所属の魔術も使えるトレジャーハンターとして登録し、新しいロード探索に加わって欲しい。もちろん銅級スタートだ」

 チーフが真剣な顔をして、幼女の私に頭を下げる。
 サブチーフは、本部に掛け合って特例を作ってもらうからと、切羽詰まった感じで私に手を合わせてお願いしてくる。

 ……さっきまでの態度と、あまりにもギャップが・・・
 ……なんでここまで低姿勢? なんでそこまで必死なの?


 そこで私は、現在【下位・魔術師】がしている仕事内容を訊いてみた。
【下位・魔術師】には、邪魔な岩を魔法陣で砕いたり、ロードの土を横に退けて通りやすくする仕事を任せていて、最も重要な仕事は、古代都市で発見された魔術具に魔力を注入し、可動できる魔術具かどうかを調べることらしい。

 ……魔術具に魔力を注入? 何それ、凄く楽しそうなんだけど。

 そもそも人数も少ないから、ゲートル所属の魔術師は金級パーティーに所属していて、新しいロードを発見した銀級パーティー【最速踏破者】には、魔術師が居ないという。
 
「実は、新しいロードには未確認の地底生物がいて、昨日戻ってきた【最速踏破者】リーダーのカーリンが、【中位・魔術師】を同行して欲しいと依頼してきたんだ。
 未確認生物の大きさは、3メートルを超える巨大なトカゲのようだったらしい」

「いやいやチーフ、君はそんな危険な場所に、私の可愛い孫を、まだ3歳の幼児を向かわせる気なのか!
 そんなもん、絶対許さん! サンタ、これ以上話を聞くな。魔術師合格証明書を受け取ったら帰るぞ」

 ああ、お爺様が完全にキレちゃたった。
 確かに幼女に頼むことじゃない気もする。でも、私は行ってみたい。

「お爺様、それじゃあ、ファーズさんも同行したら大丈夫?
 ついでだからホッパーさんもお爺様も、安全な後方でサブチーフに護衛してもらうのはどう?
 そして私が同行する見返りとして、今回私が発見した遺物や倒した地底生物は、お爺様とホッパーさん限定で売る権利をください」

「サンタや、お前は本当に3歳か?」

 お爺様が困惑した表情で問うけど、私はお爺様が新しい遺物に目がないことを知っている。これで行くなとは言い難くなったよね。

「サンタさん、貴女には商業神までもが才能を与えておられるようです。ホッパー商会は、これからもサンタさんを全力でお支えします」

 なんだかホッパーさんの商人スイッチを押しちゃったみたい。うんうんと感心しながら満面の笑顔だわ。
 新しいロードで発見される遺物のことを考えると、確かに心が弾むよね。
 だって有用な魔術具でも発見したら、家どころじゃなく大きな屋敷だって買える可能性があるもの。
 

「いやいや皆さん、おかしいとは思わないんですか?
 サンタさんが使った魔術は、どれもこれも魔術師の常識から掛け離れた攻撃だったんですよ? 空中に飛び上がる魔術なんて、存在さえしていません。
 あれはいったい何なのですか? あんな詠唱は聞いたことがありません。
 それに、手を当てただけで巨岩を破壊するなんて・・・信じられません」

 ……あっ、ファーズさんを忘れてた。

 私が破壊した天井の的を見ていたファーズさんが、再び目の前にやって来て、あれはどういう原理なのかとか、誰に教わったのですかと尋問のように問い質してくる。
 そしてやはり、トレジャーハンターじゃなくて、魔術師として登録すべきだと力説し始めた。
 
 そんなファーズさんの姿を見たサブチーフは、ちらりと私に視線を向け、右手親指を上に向け、ニヤリと笑って階段を駆け上がっていった。

『ありゃぁ、会員証を作りに行ったな。いったいどうなっとる? 魔術師試験に合格したのは良いが、なんで銅級スタートなんじゃ?
 7歳から見習い、次は助手、10歳で新人登録じゃなかったのか?』

『あっ、そう言えば魔術師は、銀級以上のパーティーに所属するのが普通だから、銅級からスタートできるって、トレジャーハンター入門に書いてあった』

 このままだと私、3歳にして銅級デビューしちゃう。


「ちょっとサンタさん、聞いてますか? 
 説明が難しいなら、あの岩を砕く魔術を、もう一回見せてください」

 ……おっと、またファーズさんを忘れてた。

「え~っと、私が使っているのは魔術ではありません。正式には魔法というもので、超古代文明紀に使われていた先人の技です。
 それに私の職業は【魔術師】ではありません。学ぶ気があれば、アンタレス君と一緒にやってみますか?」

 ……あっ、ファーズさんが固まった。
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