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82 伯との時間
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午後7時、打ち上げと夕食を終えて、伯と啓太と原条がホテルに到着した。
俺は副社長とルームサービスで軽食を食べ終えていたので、皆を自分の部屋に呼んでお茶することにした。
「おい春樹、客室付きってことは、ここはスイートルームだよな?」
同じ階の自分たちの部屋に荷物を置いて、俺の部屋に来た啓太が、部屋中をチェックしながらぶつぶつ言う。
「そうだよ啓太。啓太たちの部屋はプチスイートだけど、仕事の打ち合わせもあったからさ。こんな時じゃないとお金を遣うこともないし」
「いや、自分たちの部屋だって、どんだけ金持ちって感じの部屋で驚いたけど、この部屋を見たら春樹が芸能人って実感が湧いた」
うんうんと頷きながら、原条は勝手に納得してテーブルの上に置いてあるメニュー表を開く。今食べてきたばかりなのに、まだ食べる気だろうか。
スイーツは別腹だって皆が言うので、数種類のケーキと好きな紅茶を頼んで、今日のライブの話でワイワイと盛り上がった。
午後8時、啓太と原条がニヤニヤしながら「おやすみ」と言って自分たちの部屋に戻っていった。
本当は俺の体調が心配で仕方ないと思うんだけど、最後になるかもしれない恋人との時間を、邪魔しないように……そして頑張れと、応援する気持ちで笑って手を振ったのだろう。
……ありがとう。啓太、原条。俺は親友に恵まれたよ。
二人をドアの所で見送ってドアが閉まった途端、伯が後ろから抱き締めてきた。
「会いたかった春樹。本当に凄く会いたかった」
「俺も会いたかったよ伯。なかなか東京に来れなくてごめんね」
「いいよ。体調は大丈夫? 啓太がここに来る途中で、春樹に絶対無理させるなって脅すんだ。原条まで怖い顔して睨んでくるし・・・頭痛が酷いのか?」
俺の体を正面に向け直し、心配そうな表情で俺の瞳を覗きながら、困ったような不安そうな声で質問する。
「うん、なかなか合う薬が見付からなくて、飲む薬の副作用もあるから、暫く食欲が落ちて少し痩せた。啓太は元々過保護で心配症だから」
「確かに痩せた……な。春樹、本当に大丈夫? 俺に心配掛けないようにって、何か隠したりしてないか?」
今度は正面から俺を優しく抱いて、背中をさすりながら訊いてくる。
「実は、前世に関する新しい夢を見たんだけど、それはまだ秘密。フェスとテレビの仕事が終わって帰ってきたら教えるよ。模試があるからフェスに行けないけど、帰ってきたらいっぱい話そう」
俺は話題を前世のことにすり替えて、大した問題なんてないように誤魔化した。
「分かった。じゃあ、一緒にお風呂に入ろう」
「いいよ。でも、今夜はエッチなことは禁止」
凄く嬉しそうにお風呂に行こうと腕を引っ張る伯に、俺はさらりとエッチ禁止を告げる。
「えっ? それは冗談? それともマジ?」
立ち止まって振り返った伯が、目をパチパチさせながら訊いてきた。
「感じちゃうと頭痛がくる可能性が高いんだよ。伯が感じるのはいいけど、俺は・・・挿入はムリかな」
「・・・さ、触るのはいい? キスは大丈夫だよな?」
「ええっ? キスだって感じるし、伯に触られたら体も感じちゃうと思うけど」
信じられない……って感じで無表情になった伯に、俺はにっこりと微笑んでダメ押しをする。
「じゃっ、じゃあ、抱き合うのはいいだろう?」
「ふふ、キスはちょっとだけ、抱き合うのは大丈夫。大好きだよ伯」
ショックを受けて半泣きになっている伯を俺から抱き締めて、大好きだと甘えて言ってみる。
一緒にお風呂に入って体を洗いっこし、広いバスタブに一緒に浸かって、今日の伯がどれだけカッコ良かったか俺は力説する。
我慢できない伯が、深くない軽いキスを頬に、唇に、首筋に何度も何度も落としてくる。
伯の瞳にだんだん熱が籠ってくるのを感じて、俺は喉が渇いたと言って慌てて先にバスタブからあがった。
しっかりと水分補給をし、少しでも体力を使わないよう、ベッドに寝転がって手を繋ぐ。
残念だけど、今夜はゆっくりと夜景を楽しむ余裕はなさそうだ。
「ねえ伯、去年の5月、一緒に【空の色と海の色】の映画を見に行った時、皆で余命宣告を受けたら何がしたいって話したのを覚えてる?」
「もちろん。俺は頑張ってフェスに出場したいと答えた。春樹は確か……たくさんの曲を残したいだったよな?」
「うん、そう。伯の願いはもう直ぐ叶うね。夏フェス出場おめでとう。俺の願いも結構叶ってる。思い返せば、あれからたくさんの曲を作ってる」
俺は嬉しくなってニコニコしながら、伯の頬にキスをした。
伯もニコニコしながら俺を抱き寄せ、「ラルカンドのおかげだよ」って言ってチュッと音を立て唇にキスしてきた。
伯は起き上がってバスローブを脱ぐと、俺のバスローブも脱がせて、お互い下着だけになって抱き合い始める。
「ああ、抱きたい。抱きたくて辛い」と、伯は俺の耳元で熱く囁く。
俺はぞくぞくと感じて思わず腰が逃げようとするけど、伯は俺の反応を楽しむように深く舌を絡めてくる。
重ねた体の一部が、その存在を示すように俺の敏感な部分に当たって、伯が動くたびに擦れてしまう。
……キスが上手くなってる。なんで、どうして? こんな激しいキス、俺だって感じちゃうよ! ダメなのに……理性が持っていかれそうだ。
「触って春樹。入れないから、絶対に挿入はしないから、触らせて、そして俺のも触って!」
言葉と同時に伯の手が伸びてきて、固くなってしまった俺のモノを触り始める。
「ダメだ伯。お願い。俺だって辛い・・・伯に抱かれたい。感じて気持ち良くなりたい。伯を満足させたい。・・・でもダメ。感じ過ぎると激痛が来る。だから下手だけど俺にさせて」
俺は急いで伯の手を止めて、態勢を変えて伯の足元に移動する。
「えっ? いや、でも、俺は春樹を感じさせたいんだけど・・・」
「もうキスだけで充分感じてるよ。伯、キスが上手くなったから」
「そう? じゃあ後ろは? 指を入れるくらいはいい?」
「ダメだよ。絶対に感じちゃうよ。だからお願い。今夜は俺の頼みをきいて」
困惑している伯をなんとか説得し、俺も覚悟を決めてゴールデンウィークに見たDVDを思い出していく。
伯が感じてくれるように、伯が気持ち良くなってくれるようにと願いながら、DVDの中でイケメンが美青年にしていたように、俺の精一杯で頑張る。
最初は抵抗していたけど、伯は座るように姿勢を変え、ベッドボードにすがって俺の頭を触りながら、俺の行為を熱い視線で眺めている。
伯の呼吸が次第に乱れてきて、俺の髪を触る手が不規則に動き、肩を掴んだかと思うと頬を触ったりして、感じてくれているのか腰や足がピクリピクリと動く。
「は、春樹、もう・・・」
俺の肩を掴む伯の手にグッと強が入った。
「少しは気持ち良かった?」
「春樹が悪魔に、いや、天使に見えた」
「どっち?」
「俺を気持ちよくしてくれる小悪魔だな」
「ふふん、もっと好きになった?」
「ああ、大好きだ。春樹、片方の目、本当に青じゃなくなったんだな」
「うん、きっと残った瞳も元に戻っていくと思う」
俺は伯に抱き付いたまま、愛しい伯の首筋にキスをした。
……もう片方の瞳の色が変わる時、それはきっとお別れの時だよ伯。
もう一度唇にやっと触れるくらいのキスをして、飲み物を取りに冷蔵庫に向かった。
……なんで最後なんだろう? もっと伯と愛し合いたいよ。
溢れ出しそうな涙を見せないよう鼻歌をうたいながら、ミネラルウォーターのボトルを取り出してグラスに二人分を注ぎ、溜まった涙を手で拭って深呼吸をした。
「ねえ伯、今夜は俺が眠るまで手を握っていてくれる?」
「ん? いいよ。俺が先に寝たら、春樹が俺の手を握っているんだろう?」
「ふっ、そうだね。ねえ伯、フェスに出場したら、次の目標はどうする?」
できるだけ甘いムードにならないよう、悲しくならないよう話題を変える。
「来年は春樹と一緒に暮らすだろう……それから、もっとフェスに出て、海外にも進出して、大学を卒業したら曲作りを頑張ってみたい……かな」
よく冷えたミネラルウォーターを飲みながら、相変わらず優等生の伯は、出来そうなことしか目標にしない。
「俺はさ、いつか伯の子供を見てみたいよ。俺は産むことはできないけど、伯には絶対パパになって欲しい。パパになっても、俺のことを大事に思ってくれたらそれでいい」
「それは……かなり難しい目標だな」
「そんなことないよ。俺も余命宣告を受けたらって話した時の目標は殆ど叶えてしまったから、次の目標を、伯と悠希先輩の子供に逢うことにする。それが叶ったら、俺は本当に幸せになれる」
握った手にぎゅっと力を入れて、目の前の伯の瞳を真っ直ぐ見つめる。
「それって、俺に結婚しろってこと? それ、悠希先輩にも言うのか?」
いったい何を言い出すんだ?って怪訝そうな顔をして、真意を確かめるように伯は俺の瞳を見つめ返す。
「結婚するかどうかには拘らない。愛はあった方がいいと思う。俺は今、伯も悠希先輩も好きだから、伯が女性を愛しても大丈夫。でも、もしも、俺と付き合っているのに他の男を愛したら許さない」
両手で伯の頬を挟んで、男との浮気は許さないからと脅しておく。
「なんて無茶ぶり。そんな先のことはまだ考えられないよ」
「そうかもね。でも、俺の言葉は忘れんなよ!」
その後は、お互い学校の話とか、最近の洋楽の話とか、ちょっとだけ前世の話なんかをしながら、俺は午後11時頃に眠ってしまった。
だから伯が鼻歌をうたいながら、俺の寝顔を1時間も見つめていようとは、知る由もなかった。
俺は副社長とルームサービスで軽食を食べ終えていたので、皆を自分の部屋に呼んでお茶することにした。
「おい春樹、客室付きってことは、ここはスイートルームだよな?」
同じ階の自分たちの部屋に荷物を置いて、俺の部屋に来た啓太が、部屋中をチェックしながらぶつぶつ言う。
「そうだよ啓太。啓太たちの部屋はプチスイートだけど、仕事の打ち合わせもあったからさ。こんな時じゃないとお金を遣うこともないし」
「いや、自分たちの部屋だって、どんだけ金持ちって感じの部屋で驚いたけど、この部屋を見たら春樹が芸能人って実感が湧いた」
うんうんと頷きながら、原条は勝手に納得してテーブルの上に置いてあるメニュー表を開く。今食べてきたばかりなのに、まだ食べる気だろうか。
スイーツは別腹だって皆が言うので、数種類のケーキと好きな紅茶を頼んで、今日のライブの話でワイワイと盛り上がった。
午後8時、啓太と原条がニヤニヤしながら「おやすみ」と言って自分たちの部屋に戻っていった。
本当は俺の体調が心配で仕方ないと思うんだけど、最後になるかもしれない恋人との時間を、邪魔しないように……そして頑張れと、応援する気持ちで笑って手を振ったのだろう。
……ありがとう。啓太、原条。俺は親友に恵まれたよ。
二人をドアの所で見送ってドアが閉まった途端、伯が後ろから抱き締めてきた。
「会いたかった春樹。本当に凄く会いたかった」
「俺も会いたかったよ伯。なかなか東京に来れなくてごめんね」
「いいよ。体調は大丈夫? 啓太がここに来る途中で、春樹に絶対無理させるなって脅すんだ。原条まで怖い顔して睨んでくるし・・・頭痛が酷いのか?」
俺の体を正面に向け直し、心配そうな表情で俺の瞳を覗きながら、困ったような不安そうな声で質問する。
「うん、なかなか合う薬が見付からなくて、飲む薬の副作用もあるから、暫く食欲が落ちて少し痩せた。啓太は元々過保護で心配症だから」
「確かに痩せた……な。春樹、本当に大丈夫? 俺に心配掛けないようにって、何か隠したりしてないか?」
今度は正面から俺を優しく抱いて、背中をさすりながら訊いてくる。
「実は、前世に関する新しい夢を見たんだけど、それはまだ秘密。フェスとテレビの仕事が終わって帰ってきたら教えるよ。模試があるからフェスに行けないけど、帰ってきたらいっぱい話そう」
俺は話題を前世のことにすり替えて、大した問題なんてないように誤魔化した。
「分かった。じゃあ、一緒にお風呂に入ろう」
「いいよ。でも、今夜はエッチなことは禁止」
凄く嬉しそうにお風呂に行こうと腕を引っ張る伯に、俺はさらりとエッチ禁止を告げる。
「えっ? それは冗談? それともマジ?」
立ち止まって振り返った伯が、目をパチパチさせながら訊いてきた。
「感じちゃうと頭痛がくる可能性が高いんだよ。伯が感じるのはいいけど、俺は・・・挿入はムリかな」
「・・・さ、触るのはいい? キスは大丈夫だよな?」
「ええっ? キスだって感じるし、伯に触られたら体も感じちゃうと思うけど」
信じられない……って感じで無表情になった伯に、俺はにっこりと微笑んでダメ押しをする。
「じゃっ、じゃあ、抱き合うのはいいだろう?」
「ふふ、キスはちょっとだけ、抱き合うのは大丈夫。大好きだよ伯」
ショックを受けて半泣きになっている伯を俺から抱き締めて、大好きだと甘えて言ってみる。
一緒にお風呂に入って体を洗いっこし、広いバスタブに一緒に浸かって、今日の伯がどれだけカッコ良かったか俺は力説する。
我慢できない伯が、深くない軽いキスを頬に、唇に、首筋に何度も何度も落としてくる。
伯の瞳にだんだん熱が籠ってくるのを感じて、俺は喉が渇いたと言って慌てて先にバスタブからあがった。
しっかりと水分補給をし、少しでも体力を使わないよう、ベッドに寝転がって手を繋ぐ。
残念だけど、今夜はゆっくりと夜景を楽しむ余裕はなさそうだ。
「ねえ伯、去年の5月、一緒に【空の色と海の色】の映画を見に行った時、皆で余命宣告を受けたら何がしたいって話したのを覚えてる?」
「もちろん。俺は頑張ってフェスに出場したいと答えた。春樹は確か……たくさんの曲を残したいだったよな?」
「うん、そう。伯の願いはもう直ぐ叶うね。夏フェス出場おめでとう。俺の願いも結構叶ってる。思い返せば、あれからたくさんの曲を作ってる」
俺は嬉しくなってニコニコしながら、伯の頬にキスをした。
伯もニコニコしながら俺を抱き寄せ、「ラルカンドのおかげだよ」って言ってチュッと音を立て唇にキスしてきた。
伯は起き上がってバスローブを脱ぐと、俺のバスローブも脱がせて、お互い下着だけになって抱き合い始める。
「ああ、抱きたい。抱きたくて辛い」と、伯は俺の耳元で熱く囁く。
俺はぞくぞくと感じて思わず腰が逃げようとするけど、伯は俺の反応を楽しむように深く舌を絡めてくる。
重ねた体の一部が、その存在を示すように俺の敏感な部分に当たって、伯が動くたびに擦れてしまう。
……キスが上手くなってる。なんで、どうして? こんな激しいキス、俺だって感じちゃうよ! ダメなのに……理性が持っていかれそうだ。
「触って春樹。入れないから、絶対に挿入はしないから、触らせて、そして俺のも触って!」
言葉と同時に伯の手が伸びてきて、固くなってしまった俺のモノを触り始める。
「ダメだ伯。お願い。俺だって辛い・・・伯に抱かれたい。感じて気持ち良くなりたい。伯を満足させたい。・・・でもダメ。感じ過ぎると激痛が来る。だから下手だけど俺にさせて」
俺は急いで伯の手を止めて、態勢を変えて伯の足元に移動する。
「えっ? いや、でも、俺は春樹を感じさせたいんだけど・・・」
「もうキスだけで充分感じてるよ。伯、キスが上手くなったから」
「そう? じゃあ後ろは? 指を入れるくらいはいい?」
「ダメだよ。絶対に感じちゃうよ。だからお願い。今夜は俺の頼みをきいて」
困惑している伯をなんとか説得し、俺も覚悟を決めてゴールデンウィークに見たDVDを思い出していく。
伯が感じてくれるように、伯が気持ち良くなってくれるようにと願いながら、DVDの中でイケメンが美青年にしていたように、俺の精一杯で頑張る。
最初は抵抗していたけど、伯は座るように姿勢を変え、ベッドボードにすがって俺の頭を触りながら、俺の行為を熱い視線で眺めている。
伯の呼吸が次第に乱れてきて、俺の髪を触る手が不規則に動き、肩を掴んだかと思うと頬を触ったりして、感じてくれているのか腰や足がピクリピクリと動く。
「は、春樹、もう・・・」
俺の肩を掴む伯の手にグッと強が入った。
「少しは気持ち良かった?」
「春樹が悪魔に、いや、天使に見えた」
「どっち?」
「俺を気持ちよくしてくれる小悪魔だな」
「ふふん、もっと好きになった?」
「ああ、大好きだ。春樹、片方の目、本当に青じゃなくなったんだな」
「うん、きっと残った瞳も元に戻っていくと思う」
俺は伯に抱き付いたまま、愛しい伯の首筋にキスをした。
……もう片方の瞳の色が変わる時、それはきっとお別れの時だよ伯。
もう一度唇にやっと触れるくらいのキスをして、飲み物を取りに冷蔵庫に向かった。
……なんで最後なんだろう? もっと伯と愛し合いたいよ。
溢れ出しそうな涙を見せないよう鼻歌をうたいながら、ミネラルウォーターのボトルを取り出してグラスに二人分を注ぎ、溜まった涙を手で拭って深呼吸をした。
「ねえ伯、今夜は俺が眠るまで手を握っていてくれる?」
「ん? いいよ。俺が先に寝たら、春樹が俺の手を握っているんだろう?」
「ふっ、そうだね。ねえ伯、フェスに出場したら、次の目標はどうする?」
できるだけ甘いムードにならないよう、悲しくならないよう話題を変える。
「来年は春樹と一緒に暮らすだろう……それから、もっとフェスに出て、海外にも進出して、大学を卒業したら曲作りを頑張ってみたい……かな」
よく冷えたミネラルウォーターを飲みながら、相変わらず優等生の伯は、出来そうなことしか目標にしない。
「俺はさ、いつか伯の子供を見てみたいよ。俺は産むことはできないけど、伯には絶対パパになって欲しい。パパになっても、俺のことを大事に思ってくれたらそれでいい」
「それは……かなり難しい目標だな」
「そんなことないよ。俺も余命宣告を受けたらって話した時の目標は殆ど叶えてしまったから、次の目標を、伯と悠希先輩の子供に逢うことにする。それが叶ったら、俺は本当に幸せになれる」
握った手にぎゅっと力を入れて、目の前の伯の瞳を真っ直ぐ見つめる。
「それって、俺に結婚しろってこと? それ、悠希先輩にも言うのか?」
いったい何を言い出すんだ?って怪訝そうな顔をして、真意を確かめるように伯は俺の瞳を見つめ返す。
「結婚するかどうかには拘らない。愛はあった方がいいと思う。俺は今、伯も悠希先輩も好きだから、伯が女性を愛しても大丈夫。でも、もしも、俺と付き合っているのに他の男を愛したら許さない」
両手で伯の頬を挟んで、男との浮気は許さないからと脅しておく。
「なんて無茶ぶり。そんな先のことはまだ考えられないよ」
「そうかもね。でも、俺の言葉は忘れんなよ!」
その後は、お互い学校の話とか、最近の洋楽の話とか、ちょっとだけ前世の話なんかをしながら、俺は午後11時頃に眠ってしまった。
だから伯が鼻歌をうたいながら、俺の寝顔を1時間も見つめていようとは、知る由もなかった。
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