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73 シークレットライブ(1)
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校長と担任からシークレットライブの許可が下りたのは、期末試験3日目の6月30日㈯の朝だった。
音楽室を使う部活の時間調整や、学級活動としての承認を取るために、安浦先生が頑張ってくれた。
デジ部の3年には原条が根回し済で、クラスメートにはライブ当日7月3日㈫の朝、クラスラインで連絡することになっている。
情報が洩れてはいけないので、俺も原条も何事もない振りで過ごし、細心の注意を払って用心する。
順調にことを運んでいたけど、7月2日㈪、期末試験4日目の3時限、数学の試験が残り10分になったところで頭痛が始まった。ここのところ頭痛の回数が減っていたので油断した。
3分もすると我慢できない痛みになり、俺は試験官になっている田端先生に向かって手を挙げた。
「すみません先生、具合が悪いので薬を飲んできてもいいでしょうか?」
「君は……ずっと休んでいた四ノ宮だな。試験中はロッカーの使用を許可できない。あと7分くらい我慢できないのか?」
まるでカンニングでもするかのように思われてる気がしてして、俺はもやっときたが、それどころではない痛みに顔が歪んでいく。
「は、はい。カンニングなんてしません。答案用紙を提出するので、た、退室……させてください」
痛みで叫び声を上げそうになるのをなんとか我慢し、先生の許可なんて待っていられそうにないので、勝手に立ち上がって歩き始める。俺の席は廊下側の列の一番後ろなので、移動距離は少ししかない。
……まだだ! まだ早い。あと少し、あと一日なんだ……薬を飲めば大丈夫。
「四ノ宮、勝手に席を立つな!」
田端先生が教壇の所から、教室を出て行こうとする俺を呼び止めるが、その声さえ頭に響いてしまう。
頭を両手で押さえながら、廊下に出ると自分のロッカーを震える手で開け、カバンの中から薬袋を見付けて握ったところで、俺の意識は暗転した。
◇◇ 安浦(春樹の担任)◇◇
四ノ宮が試験中に倒れて保健室に運ばれたと連絡を受け、俺は血の気が引くのを感じながら、廊下を走って駆け付けた。
頭痛の原因が判らず、救急搬送すべきかどうかを判断するため、学生に持病や特別な事情があれば確認したいということで呼ばれた。
「四ノ宮、大丈夫か?」と言いながら保健室のドアを開けると、養護教諭に「お静かに、声が頭に響くようです」と注意を受けてしまった。
養護教諭が一緒に廊下に出るよう手招きし、出たところで静かにドアを閉めてから、春樹の個人情報を青い顔をして訊いてきた。
「顔色も表情も普通じゃなかったし、痛みによる軽い痙攣も見られました。何か事情をご存知ですか?」
「ええっと、四ノ宮は脳の病気だと聞いています」
流石に末期の脳腫瘍だとは言えず、俺は言葉を濁した。
26日に春樹から病気のことを聞き、大袈裟に話した可能性が高いと思った俺は、半信半疑で母親に電話をして病状を確認した。
普段ニコニコしている奴の涙には驚いたが、そんな重病なら親が学校に連絡してくるはずだと思ったのだ。
電話に出た母親は、腫瘍ができたことは知らされていたが、余命宣告を受けていたことを、本人が家族に黙っていて、絶対に希望を捨てたくないから、好きなことをさせて欲しいと訴えられ、親は息子の希望を了承し、東京行きを認めるしかなかったと言った。
動けるうちは誰にも病気を知られたくない、心配かけたくない、悲しませたくないというのが本人の願いだったので、大学病院に入院後、病状説明と休学届を学校に提出する予定だったと母親は説明した。
そして最後に言葉を詰まらせながら「生きているのが奇跡に近いと、先日担当医から説明されました」と、泣きながら病状を話してくれた。
俺は電話を切って、信じられない、信じたくないという思いで首を何度も横に振りながら、これまで交わした春樹との会話の内容を思い出してみた。
6月1日に学校を休む理由を訊いた時、『秘密厳守できなかったら騒動になる。そうなったら学校を訴える』なんて暴言を吐いたから、俺は春樹に『お前何様だ!』とか『高校生の分際で図に乗るな……世間を甘く見てたら仲間からも嫌われるぞ!』と諭すつもりで叱っていた。
……春樹は本当のことを言っただけだったのに・・・
そして春樹は『これでも命を懸けて仕事をしているつもりだ』と言い、俺は『大袈裟な』と鼻で笑った・・・
『期末試験で欠点だったら笑い者になるのは自分自身だ』と俺が言うと、春樹は『2学期の期末試験の時も、同じように大袈裟な奴、図に乗るなって言ってください』と生意気な顔をして言った。
……なんてことだ! あの時春樹は、既に自分の余命を知っていたんだ。
二学期の期末試験を受けるのは難しいと、分かっていたから言った台詞だったんだ。
……なのに春樹の態度が普通過ぎて、俺は春樹の苦しみも痛みも、何も、何も分かってなかった。噓偽りなく、命懸けで自分の仕事を全うしていたのに・・・
俺は教師として、春樹を世間知らずの甘ちゃんだと思っていた。
あの時の自分を、俺は殴り倒したい。
それでも担任なのか!と罵倒し、生徒が頑張っていることを、何故応援してやらないんだ!と叱り飛ばしたい。
「保健室に運ばれて来た時、彼が薬を飲もうとしていたと聞き、意識が朦朧としている彼に、私はその薬を飲ませました。
ただ、その薬は非常に特殊な薬で、医療用のモルヒネだったんです。薬袋に大学病院名と、本人の名前が書いてなければ、恐ろしくて服用させられませんでした。
何故……彼は、四ノ宮君は、学校に登校しているんでしょうか?」
養護教諭は信じられませんとポツリと言って、少し間をあけてから「相当な痛みを伴う状態なのでしょう。可哀想に」と泣きそうな声で付け加えた。
結局春樹は、迎えに来た父親の車に乗って帰っていった。
明日は期末試験の最終日。そして、春樹が泣きながら願ったライブの日だ。
どうか、最後の願いが叶えられますようにと祈りながら、俺は職員室の椅子に座り、溢れてくる涙を懸命に堪えた。
……俺には泣く資格なんかないし、泣いてる場合でもない。
◇◇ 春樹 ◇◇
7月3日、目覚まし時計よりも早く目覚めた俺は、何か重要な夢を見たような気がして、懸命に夢の内容を思い出そうとした。
夢の中の主人公は女性だった。ただそれだけしか思い出せないけど、絶対に忘れてはいけないと思って日付を書いてメモに残した。
両親は学校に行くのを止めたかったみたいだけど、今日が本当の意味で登校最終日になるかも知れないと分かっているので、頑張った笑顔で「行ってらっしゃい」と送り出してくれた。
いつものようにバス停で伯にラインしてから、バスに乗った俺は、クラスメート宛のラインを送る。
**** 3年7組の親愛なる皆さんへ ****
おはよう! 突然ですがお願いがあります。
実は今月25日に、俺の作った曲のDVDが発売されることになりました。
そのDVDの中に、学生服姿の高校生が必要なシーンがあり、クラス全員に協力して欲しいんです。(顔出しがダメな人は事前にお知らせください)
撮影については学校の許可はとってありますが、撮影のことが他の学生に漏れると、騒ぎになる可能性があり、撮影できなくなります。
テレビ出演……とまではいきませんが、俺と一緒に、ぜひDVDに出演してください。
撮影日は7月3日、今日です。
時間はホームルーム終了後で、会場は音楽室。
協力してくれた友達には、特注のカツサンドかハンバーガー、飲み物がついてきます。
もちろん、約束した俺からのお土産は人数分あるけど、協力者には特別プレゼントも用意してあります。
所要時間は1時間から2時間くらいなので、どうしても用事のある人は、途中で帰っても構いません。
校長から学級活動として認めてもらえたので、15分でもいいから撮影に協力してください。
中止にしたくないので、絶対に極秘でお願いします。 春樹
俺は文面を何度か読み直し「よし」と呟いて送信した。
当然教室に到着したら、どういうことかと質問攻めにあったが、詳しいことは音楽室に到着してから説明するから、期末試験に集中するようお願いした。
ちなみに俺の試験内容は……まあまあそれなりだった。
クラスメートから毎日ノートを写メで送ってもらっていたし、暇な時間に勉強していた。とは言っても、俺のまあまあは、欠点ではないと思うくらいの点数である。
試験終了後のホームルームで、クラス行事で許可をとったから、出来るだけ全員協力し、DVDデビューするようにと安浦先生が言ってくれた。
◇ ◇ ◇
12時15分、音楽室に移動したクラスメートと安浦先生、デジ部の3年生8人は、売店を通して特注していたサンドイッチやハンバーガー、紙パックのジュース各種を手に取り、和気あいあいと昼ご飯を食べ始めた。
期末試験が終わった解放感もあり、全員がいい笑顔だ。このシーンだって、実は内緒で録画中である。
人数分より多めに頼んだ食料も、食べ盛りの男子高校生の胃袋を満足させるには至らなかったが、取りあえず小腹は満たされた。
「撮影に入る前に、悪いけど全員スマホをサイレントのマナーモードにして、後ろの棚に置いて欲しい。映像にスマホをいじってる絵面があると使えなくなるし、これから春樹が行うプレゼントを撮影されると、著作権的に問題になる」
司会進行役の原条が、食べ終わってワイワイ騒いでいる皆に向かって、注意事項を大声で叫んでいく。
「えぇ~っ!」とブツブツ文句を言う者も多かったが、「春樹はプロのシンガーとしてデビューしたんだよ!」って原条が追加情報を叫んだので、「まじかよ!」とか「キャー、うそ~!」と言いながら、全員が付箋に名前を記入しスマホに貼って、指示に従い棚に置いてくれた。
デジ部の8人には朝早目に登校してもらい、原条がカメラ位置とか照明の段取り等を整えてくれていた。
残っているのは音合わせくらいで、マイクテストは一曲目で行うことにした。
副社長に学校でライブを行うことを告げたら、プロの音声さんと映像スタッフを送り込んできた。教頭先生が立ち会って、午前中から準備をしてくれていた。
もちろん、デジ部はプロの邪魔にならない位置で頑張ってもらう。
レコーディングで使用した音源も持って来てくれたので、指が痺れてきてもなんとかなりそうで安心した。
俺は椅子とギターを持って教壇に上がり、準備を始める。
願うは最後まで笑顔で歌いきることだ。
普通の頭痛薬を事前に飲み、発作的な痛みがこないよう予防もした。
「え~っと、15分くらいで退場する予定の人は手を上げてもらっていい?」
俺が呼び掛けると、10人くらいが手を上げた。突然の集合にも拘わらず、全員が集まってくれただけでも良しとして、2曲目に【友へ】を歌うと決める。
2曲歌ったところで全員で記念写真を撮って一旦解散し、あとは希望者に残ってもらって1時間くらいのライブをやればいいだろう。
「それじゃぁ、撮影は最後まで続けるけど、2曲目をメインに撮影しまーす。2曲目が終わったら、学級活動だから全員で写真を撮って、残ったメンバーは席を前に詰めて座ってください。よろしく」
俺は簡単な段取りを全員に伝えて、大きく深呼吸をする。
クラスメートと安浦先生、デジ部の6人が席に着いたのを確認し、立ってスタンバイしているプロスタッフさん、デジ部のカメラ担当の2人と原条に視線を向け、ゆっくり頷いてOKを出した。
音楽室を使う部活の時間調整や、学級活動としての承認を取るために、安浦先生が頑張ってくれた。
デジ部の3年には原条が根回し済で、クラスメートにはライブ当日7月3日㈫の朝、クラスラインで連絡することになっている。
情報が洩れてはいけないので、俺も原条も何事もない振りで過ごし、細心の注意を払って用心する。
順調にことを運んでいたけど、7月2日㈪、期末試験4日目の3時限、数学の試験が残り10分になったところで頭痛が始まった。ここのところ頭痛の回数が減っていたので油断した。
3分もすると我慢できない痛みになり、俺は試験官になっている田端先生に向かって手を挙げた。
「すみません先生、具合が悪いので薬を飲んできてもいいでしょうか?」
「君は……ずっと休んでいた四ノ宮だな。試験中はロッカーの使用を許可できない。あと7分くらい我慢できないのか?」
まるでカンニングでもするかのように思われてる気がしてして、俺はもやっときたが、それどころではない痛みに顔が歪んでいく。
「は、はい。カンニングなんてしません。答案用紙を提出するので、た、退室……させてください」
痛みで叫び声を上げそうになるのをなんとか我慢し、先生の許可なんて待っていられそうにないので、勝手に立ち上がって歩き始める。俺の席は廊下側の列の一番後ろなので、移動距離は少ししかない。
……まだだ! まだ早い。あと少し、あと一日なんだ……薬を飲めば大丈夫。
「四ノ宮、勝手に席を立つな!」
田端先生が教壇の所から、教室を出て行こうとする俺を呼び止めるが、その声さえ頭に響いてしまう。
頭を両手で押さえながら、廊下に出ると自分のロッカーを震える手で開け、カバンの中から薬袋を見付けて握ったところで、俺の意識は暗転した。
◇◇ 安浦(春樹の担任)◇◇
四ノ宮が試験中に倒れて保健室に運ばれたと連絡を受け、俺は血の気が引くのを感じながら、廊下を走って駆け付けた。
頭痛の原因が判らず、救急搬送すべきかどうかを判断するため、学生に持病や特別な事情があれば確認したいということで呼ばれた。
「四ノ宮、大丈夫か?」と言いながら保健室のドアを開けると、養護教諭に「お静かに、声が頭に響くようです」と注意を受けてしまった。
養護教諭が一緒に廊下に出るよう手招きし、出たところで静かにドアを閉めてから、春樹の個人情報を青い顔をして訊いてきた。
「顔色も表情も普通じゃなかったし、痛みによる軽い痙攣も見られました。何か事情をご存知ですか?」
「ええっと、四ノ宮は脳の病気だと聞いています」
流石に末期の脳腫瘍だとは言えず、俺は言葉を濁した。
26日に春樹から病気のことを聞き、大袈裟に話した可能性が高いと思った俺は、半信半疑で母親に電話をして病状を確認した。
普段ニコニコしている奴の涙には驚いたが、そんな重病なら親が学校に連絡してくるはずだと思ったのだ。
電話に出た母親は、腫瘍ができたことは知らされていたが、余命宣告を受けていたことを、本人が家族に黙っていて、絶対に希望を捨てたくないから、好きなことをさせて欲しいと訴えられ、親は息子の希望を了承し、東京行きを認めるしかなかったと言った。
動けるうちは誰にも病気を知られたくない、心配かけたくない、悲しませたくないというのが本人の願いだったので、大学病院に入院後、病状説明と休学届を学校に提出する予定だったと母親は説明した。
そして最後に言葉を詰まらせながら「生きているのが奇跡に近いと、先日担当医から説明されました」と、泣きながら病状を話してくれた。
俺は電話を切って、信じられない、信じたくないという思いで首を何度も横に振りながら、これまで交わした春樹との会話の内容を思い出してみた。
6月1日に学校を休む理由を訊いた時、『秘密厳守できなかったら騒動になる。そうなったら学校を訴える』なんて暴言を吐いたから、俺は春樹に『お前何様だ!』とか『高校生の分際で図に乗るな……世間を甘く見てたら仲間からも嫌われるぞ!』と諭すつもりで叱っていた。
……春樹は本当のことを言っただけだったのに・・・
そして春樹は『これでも命を懸けて仕事をしているつもりだ』と言い、俺は『大袈裟な』と鼻で笑った・・・
『期末試験で欠点だったら笑い者になるのは自分自身だ』と俺が言うと、春樹は『2学期の期末試験の時も、同じように大袈裟な奴、図に乗るなって言ってください』と生意気な顔をして言った。
……なんてことだ! あの時春樹は、既に自分の余命を知っていたんだ。
二学期の期末試験を受けるのは難しいと、分かっていたから言った台詞だったんだ。
……なのに春樹の態度が普通過ぎて、俺は春樹の苦しみも痛みも、何も、何も分かってなかった。噓偽りなく、命懸けで自分の仕事を全うしていたのに・・・
俺は教師として、春樹を世間知らずの甘ちゃんだと思っていた。
あの時の自分を、俺は殴り倒したい。
それでも担任なのか!と罵倒し、生徒が頑張っていることを、何故応援してやらないんだ!と叱り飛ばしたい。
「保健室に運ばれて来た時、彼が薬を飲もうとしていたと聞き、意識が朦朧としている彼に、私はその薬を飲ませました。
ただ、その薬は非常に特殊な薬で、医療用のモルヒネだったんです。薬袋に大学病院名と、本人の名前が書いてなければ、恐ろしくて服用させられませんでした。
何故……彼は、四ノ宮君は、学校に登校しているんでしょうか?」
養護教諭は信じられませんとポツリと言って、少し間をあけてから「相当な痛みを伴う状態なのでしょう。可哀想に」と泣きそうな声で付け加えた。
結局春樹は、迎えに来た父親の車に乗って帰っていった。
明日は期末試験の最終日。そして、春樹が泣きながら願ったライブの日だ。
どうか、最後の願いが叶えられますようにと祈りながら、俺は職員室の椅子に座り、溢れてくる涙を懸命に堪えた。
……俺には泣く資格なんかないし、泣いてる場合でもない。
◇◇ 春樹 ◇◇
7月3日、目覚まし時計よりも早く目覚めた俺は、何か重要な夢を見たような気がして、懸命に夢の内容を思い出そうとした。
夢の中の主人公は女性だった。ただそれだけしか思い出せないけど、絶対に忘れてはいけないと思って日付を書いてメモに残した。
両親は学校に行くのを止めたかったみたいだけど、今日が本当の意味で登校最終日になるかも知れないと分かっているので、頑張った笑顔で「行ってらっしゃい」と送り出してくれた。
いつものようにバス停で伯にラインしてから、バスに乗った俺は、クラスメート宛のラインを送る。
**** 3年7組の親愛なる皆さんへ ****
おはよう! 突然ですがお願いがあります。
実は今月25日に、俺の作った曲のDVDが発売されることになりました。
そのDVDの中に、学生服姿の高校生が必要なシーンがあり、クラス全員に協力して欲しいんです。(顔出しがダメな人は事前にお知らせください)
撮影については学校の許可はとってありますが、撮影のことが他の学生に漏れると、騒ぎになる可能性があり、撮影できなくなります。
テレビ出演……とまではいきませんが、俺と一緒に、ぜひDVDに出演してください。
撮影日は7月3日、今日です。
時間はホームルーム終了後で、会場は音楽室。
協力してくれた友達には、特注のカツサンドかハンバーガー、飲み物がついてきます。
もちろん、約束した俺からのお土産は人数分あるけど、協力者には特別プレゼントも用意してあります。
所要時間は1時間から2時間くらいなので、どうしても用事のある人は、途中で帰っても構いません。
校長から学級活動として認めてもらえたので、15分でもいいから撮影に協力してください。
中止にしたくないので、絶対に極秘でお願いします。 春樹
俺は文面を何度か読み直し「よし」と呟いて送信した。
当然教室に到着したら、どういうことかと質問攻めにあったが、詳しいことは音楽室に到着してから説明するから、期末試験に集中するようお願いした。
ちなみに俺の試験内容は……まあまあそれなりだった。
クラスメートから毎日ノートを写メで送ってもらっていたし、暇な時間に勉強していた。とは言っても、俺のまあまあは、欠点ではないと思うくらいの点数である。
試験終了後のホームルームで、クラス行事で許可をとったから、出来るだけ全員協力し、DVDデビューするようにと安浦先生が言ってくれた。
◇ ◇ ◇
12時15分、音楽室に移動したクラスメートと安浦先生、デジ部の3年生8人は、売店を通して特注していたサンドイッチやハンバーガー、紙パックのジュース各種を手に取り、和気あいあいと昼ご飯を食べ始めた。
期末試験が終わった解放感もあり、全員がいい笑顔だ。このシーンだって、実は内緒で録画中である。
人数分より多めに頼んだ食料も、食べ盛りの男子高校生の胃袋を満足させるには至らなかったが、取りあえず小腹は満たされた。
「撮影に入る前に、悪いけど全員スマホをサイレントのマナーモードにして、後ろの棚に置いて欲しい。映像にスマホをいじってる絵面があると使えなくなるし、これから春樹が行うプレゼントを撮影されると、著作権的に問題になる」
司会進行役の原条が、食べ終わってワイワイ騒いでいる皆に向かって、注意事項を大声で叫んでいく。
「えぇ~っ!」とブツブツ文句を言う者も多かったが、「春樹はプロのシンガーとしてデビューしたんだよ!」って原条が追加情報を叫んだので、「まじかよ!」とか「キャー、うそ~!」と言いながら、全員が付箋に名前を記入しスマホに貼って、指示に従い棚に置いてくれた。
デジ部の8人には朝早目に登校してもらい、原条がカメラ位置とか照明の段取り等を整えてくれていた。
残っているのは音合わせくらいで、マイクテストは一曲目で行うことにした。
副社長に学校でライブを行うことを告げたら、プロの音声さんと映像スタッフを送り込んできた。教頭先生が立ち会って、午前中から準備をしてくれていた。
もちろん、デジ部はプロの邪魔にならない位置で頑張ってもらう。
レコーディングで使用した音源も持って来てくれたので、指が痺れてきてもなんとかなりそうで安心した。
俺は椅子とギターを持って教壇に上がり、準備を始める。
願うは最後まで笑顔で歌いきることだ。
普通の頭痛薬を事前に飲み、発作的な痛みがこないよう予防もした。
「え~っと、15分くらいで退場する予定の人は手を上げてもらっていい?」
俺が呼び掛けると、10人くらいが手を上げた。突然の集合にも拘わらず、全員が集まってくれただけでも良しとして、2曲目に【友へ】を歌うと決める。
2曲歌ったところで全員で記念写真を撮って一旦解散し、あとは希望者に残ってもらって1時間くらいのライブをやればいいだろう。
「それじゃぁ、撮影は最後まで続けるけど、2曲目をメインに撮影しまーす。2曲目が終わったら、学級活動だから全員で写真を撮って、残ったメンバーは席を前に詰めて座ってください。よろしく」
俺は簡単な段取りを全員に伝えて、大きく深呼吸をする。
クラスメートと安浦先生、デジ部の6人が席に着いたのを確認し、立ってスタンバイしているプロスタッフさん、デジ部のカメラ担当の2人と原条に視線を向け、ゆっくり頷いてOKを出した。
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