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64 ゴールデンウィーク(3)

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 バスルームに移動して、なんだかドキドキしながら服を脱いでいく。
 バスタブは二人でもゆったりと浸かることができる広さがあり、窓から海が見えるようになっているけど、今は夜だから遠くに船の灯りが見えるだけだ。

 完全に初心者用だと思われるDVDを見て、衛生面とか感染症とか、如何に下準備が大事なのかを学んだ俺たちは、初心者同士で苦労していた。
 初心者用の教育DVDは、俺にとっては有り難い内容だったけど、見れば上手くいくというものではない。
 元々真面目な伯は、テキスト通りにしなければと思ったのか、「これでいいのかな?」と呟いたり「大丈夫か春樹?」と度々声を掛けてくる。

 正直ムードなんて欠片もない感じで、雰囲気に流されたい俺は、流されることもなく懸命にミッションをこなしていた。
 痛いとか苦しいとかの感情が先にきて、楽しむ余裕なんて俺にはなかった。
 それでも、俺の体を優しく気遣ってくれる伯のために、なんとか感じなければと意識しながら下準備を終える頃には、少しずつ体が変化してきた。


 伯は上機嫌で何度もキスをして「好きだ春樹」と言って抱きしめてくる。
 バスローブを羽織った俺は、急かされるように手首を伯に掴まれて寝室へと移動する。
 寝室に戻ると伯は直ぐに次のDVDを再生する。
 確かに最初に見たDVDでも、結構興奮してセックスする気持ちが高まったが、今度のDVDはそんなもんじゃなかった。

 
  初めて見る男同士のセックスシーンを、俺は思わずガン見してしまった。
 画面の中の20歳くらいの美青年は、多分フランス人で、30歳くらいのがっちり体型のイケメンに、立ったままゆっくりと服を脱がされていく。
 脱がしながら、舐めるように体を見ているがっちりイケメンの瞳に、何故だかぞくりとする。
 裸になった金髪で青い瞳の美青年の体は、白くて華奢でとても綺麗だった。
 少し恥ずかしそうにしている金髪美青年を、がっちりイケメンが優しく抱き締めてキスをしていく。
 キスは次第に激しくなり、がっちりイケメンの手が、金髪美青年の体を撫でていく。

 キスは首筋から肩へ、そして右手は乳首へと移動し、左手は秘所に向かって伸びていく。
 伸びた手の指が、つぷりと1本差し込まれ、美青年は体をピクリと震わせた。
 その反応を見たイケメンのモノが大きく立ち上がり、それに気付いた美青年は首を振りながら何か呟く。

 ……きっと「無理!」って言ってる気がする。俺ならそう言う。あれは無理な大きさだ。

 思わずごくりと唾を飲み込みそうになったけど、根性で平静な振りをする。それなのに、隣に座っている伯が、俺の肩に手を回して抱き寄せてきたから、俺の体もびくりと反応してしまった。
 

 ちょっと怖がっている感じの美青年を、イケメンが優しくベッドへと導き、一緒にベッドの縁に腰掛けて再びキスをしていく。
 美青年の瞳はとろんと溶けてきて、イケメンの背中に回していた腕がだらりと下がる。感じているのか息が次第に乱れてくる。
 イケメンの手はいつの間にか美青年の前をゆるゆるとしごき始め、美青年は「あぁっ」と甘い声を漏らした。
 
 イケメンはニヤリと笑うと、美青年をベッドの上に移動させ、四つん這いになるよう命令する。
 そして用意していたローションを、美青年の秘所に垂らし、自分の指にもならして、秘所を擦ったかと思ったらつぷりと指を入れて、後ろから美青年の乳首をくりくりと刺激していく。
 再び美青年が甘い声を上げたところで、指の数が増やされてクチュクチュと音がする。

 ……あぁ、刺激が強すぎて、体が思わず反応してしまう。

 どうやら伯も同じだったようで、俺の首筋にキスをして熱い息を吹き掛けてくる。
 
 画面の中のイケメンは、美青年を仰向けに寝かせて、乳首を舐めながら秘所に入れた3本の指を動かしながら、感じる部分を探り当てたようで、揺れ始めた美青年の腰の動きに満足そうだ。
 美青年の体が、ほんのりとピンクに色に染まって熱を帯びてくる。
 イケメンは指を抜いて、そそり立った自分のものにコンドームを装着する。


「春樹、俺、もう我慢できないんだけど」と、伯が切なそうに言って俺を抱きしめた。
「うん、俺も何だか感じてきた」と応えて、俺から伯にキスをした。
 二人で手を繋いでベッドに移動し、抱き合ってキスをしていく。
 

 いつも間にか画面の中では、イケメンが大きなものをゆっくり少しずつ、正上位で挿入していた。美青年が苦しそうに声を上げるけど、イケメンは動きを止めない。
 
「見て春樹。ああやって繋がるんだ。俺も気持ちよくなりたいな」

 しっかりと結合した画面の二人を見るように言いながら、伯は部屋の明かりを消した。



 
 あのまま伯の言う通り、もう一回頑張ったら……まだ知らない未知の世界に辿り着いたのかもしれない。
 でも、俺の体が限界だった。
 普段使わない筋肉を使ったというか、力を入れ過ぎたというか、とにかくいろいろと疲れた。
「ごめんね伯、続きは明日の夜にしよう」と謝って、バスルームに向かうためベッドから下りると、ズキズキと痛みが走った。

「いたた・・・フ~ッ」

 思わずソファーの背凭れに手をついて、痛みと違和感を逸らすように息を吐く。
 大丈夫と言って歩きだすけど、腰まで痛みが駆け上がり、まだ何かが中にあるような感じがして、ゆっくり歩いては立ち止まる。

 ……男同士のセックスが、こんなに大変だとは思わなかった・・・

 途中、何度も立ち止まって溜息をつく俺を伯が心配するから、バスルームに到着したところで伯に仕事を与えることにする。

「伯、バスローブと大判のバスタオル、洗濯に出しておいて。明日も使うだろう?」

 バスローブを脱いで伯に渡すと、バタバタと急いで寝室とランドリーに走っていく。
 伯が仕事をしている間に、髪を濡らさないようにシャワーを浴びる。そういえば髪を乾かしてなかったな……とか、どうでもいいことを考えて痛みに堪える。

 ……やっぱり俺の体は、男同士に向いてないのかもしれない。

「春樹、大丈夫? まだ痛い?」
「うん、結構痛い。先にシャワー浴びるから、伯はお風呂を洗ってくれる? 俺、しゃがむのも辛いから」

 半分泣きそうな顔をして心配する伯には悪いけど、またここで、甘いムードにはなりたくない。さっさとベッドで横になりたいのが本音だ。
 伯が文句も言わずバスタブを洗っている間に、シャワーで体を洗った俺は、先に寝室に戻ると言ってバスルームを出た。

 ベッドに横になるけど痛みが治まるわけでもなく、さっきまでのあれやこれを思い出して、恥ずかしさのあまり身悶える。そして駄目な自分に泣きたくなる。
 
「春樹、スポドリ飲むだろう? あの・・・ごめんな」

 シャワーの後でキッチンに寄ったらしい伯が、ペットボトルを俺に差し出し、謝りながら下を向く。
 俺はベッドサイドに腰掛け、ペットボトルを受け取るけど、急に込み上げてきた切なさに苦しくなり、ペットボトルをサイドテーブルに置いて立ち上がった。

「どうして伯が謝るの? 悪いのは俺だろう? 俺の体がこんなだから……伯を満足させられないし、ちゃんと……ちゃんとセックスできない。準備だって出来てなかったし……痛がってばかりで……伯は……伯は優しく……優しくしてくれたのに、俺は……感度も悪いし……ご、ごめん……こんな、うっ……こんな体で……本当に……ごめん」

 ……あれ? なんで泣いてんだ俺・・・泣くつもりなんてなかったのに。

 伯に謝らせている自分が情けなくて、伯に申し訳なくて、謝りながらどんどん悲しくなってくる。ぽろぽろと涙が零れてきて止まらない。

「春樹、なんで謝るんだよ。違うよ。俺が謝ったのは、自分だけがイったからで、春樹をちゃんと気持ちよくできなかったからだよ。春樹の体は凄く良かった。気持ちよくて、だから我慢できなくて・・・自分だけイってしまった。春樹の体は綺麗で、色っぽくて、俺はどんどん余裕がなくなって・・・だから泣くなよ。好きだよ春樹。大好きだ!」

 伯は俺をぎゅっと抱きしめて、背中を撫でながら、好きだと繰り返す。そして、何度でも抱きたいし、春樹が許してくれたら、直ぐにでもセックスしたいくらいだと言って、優しくキスをした。

「本当に? 俺の体で満足できる?」
「気持ち良くなきゃイケないだろう? 春樹の中はゾクゾクするほど気持ちいいよ。だから痛くてもお願い、また抱かせて。春樹が気持ちよくなるまで、何回だって抱きたい」

 鼻をすすりながら伯の顔を見上げると、伯の瞳や言葉に熱がこもってくる。抱きしめている腕の力が増し「は~っ」と伯は熱い息を漏らす。

 ……ありがとう伯。俺の体でも大丈夫なら、俺も頑張って痛みに堪えるよ。

 俺は悲しい気持ちから解放され「俺も頑張る」と言ってしまった。
 嬉しそうに満面の笑顔になった伯の手が、俺の背中から腰、腰からお尻へと下がりながら、妙な手つきになっていく。またベッドに押し倒されるのではないかと心配になり、心の中で冷や汗が流れる。

「えっと、のど乾いたね。一緒に座って飲もう」とはぐらかし、ペットボトルを手に取ってソファーへと移動する。

 ……危ない危ない。ベッドの側は危険だ。

 ちょっと残念そうな顔をしながらも、伯は俺の隣に座ってペットボトルのキャップを回すと、ゴクゴクと一気に飲み始めた。そう言えば、最初に入浴してから全く水分を取ってなかった。俺も一気に飲んでいく。

「は~っ、生き返った」

伯がしみじみと言うもんだから、俺は可笑しくなって笑い始める。
 伯もつられたように笑いだして、始めてキスした時のことを思い出す。
「どんだけ余裕がないんだよ!」って、二人の声が重なった。
 また可笑しくなって、更にお腹を抱えて笑い合う。

 俺も伯も肩の力が抜け、それぞれのベッドに寝転がった。

「なあ伯、明日はたぶん雨だから、今日の曲が完成したら、デュエット曲を作って一緒に歌おう。今日の記念に録画して、二人の思い出にしない?」

自分のベッドに寝たまま、伯の方を見て思い出作りの提案をしてみる。

「いいねえ、副社長に頼んでみよう。そう言えば、今日の曲のタイトル決めた?」

「うん、【セレナーデ】にしようと思う。セレナーデって、夜、恋人の家の窓の下で、愛を捧げる歌曲っていう意味だから、星を見ながら愛を誓う俺の歌詞にピッタリかなって思うんだけど……どうかなぁ?」

「いいと思うけど、愛を誓って歌を捧げたいのは俺の方だと思うんだけど?」
「じゃあ、【セレナーデ】は伯が歌えばいいよ。伯が俺のために、愛を誓いながら歌ってくれたらいいんじゃないか?」

 そう言ってにっこりと微笑んだら、伯が俺のベッドに移動してきた。
 と言っても、隣に並んでいたベッドから転がってきたんだけど、「大好きだ春樹!」と叫んで俺に抱き着いてきた。
 そして「ああ~っ、幸せだ」と呟いて、頬を俺の胸に擦り付けてくる。
 こうして俺に甘えてる時の伯は可愛い。無防備で無邪気で、素の高校生になっている。「俺も幸せ」って囁いて、よしよしと伯の頭を撫でる。

 無理に背伸びをしなくても、こうやってお互いに甘えて抱き合っている時が、一番幸せなんだと感じる。
 
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