前世の僕は、いつまでも君を想う

杵築しゅん

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46 嵐のあと

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 12月24日、東京に行っていた伯たちが夕方帰ってくる。
 今夜は、第2回歌うクリスマス会&ドラマ鑑賞会だ。
 当然会場は悠希先輩のスタジオ。メンバーは昨年より一人多い8人。
 誰が増えたのかというと、クラスメートの原条である。原条を招待しようと言い出したのは悠希先輩で、俺に対する嫌がらせ行為の時の原条の活躍を認め、スタジオ入りを許可し仲間として認めることにしたらしい。


 実は悠希先輩、俺の机に悪戯書きされる前日から、こっそりと教室に隠しカメラを仕掛けていた。
 本人曰く、【2年7組の学生がいじめにあっている。酷い言葉で貶められネットで悪口を拡散されている。このままでは机やロッカー、荷物に嫌がらせをされる可能性がある。学校は学生を守るべきだ!】という投書があったので、不在の理事長に代わり、校長、学年主任と協議し、投書が真実かどうかを確かめるという名目で、カメラを仕掛けておいたらしい。

 その投書を出したのは原条だった。他にもデジ部の数人が、いじめや困りごとを学生が相談する、学校SOSというサイトに投書という形で訴えを起こしてくれていたらしい。
 俺には内緒で、それを主導したのは悠希先輩である。
 悠希先輩は、リゼットルのサイトのことなど何も知らない振りをして、原条や部員からの相談を受けて、学校に投書するという手段をとったようだ。
 その時に、実は自分が副理事長であると悠希先輩は皆に告げ、あとは任せておけと言ったらしい。

 結局、17日(土)の落書き犯人は直ぐに判明し、放課後教員室に呼び出された。
 生徒指導の安浦は、停学2日プラス反省文と、19日(月)の朝に落書きを消すのでは、どちらがいいかと聴いたそうだ。
 犯人の2人はニヤリと笑い、「落書きを消します」と即答し、クラスの友人や悪口を言い合う仲間に、停学にならなくてラッキーとペラペラ喋ってしまった。

 月曜の朝、落書きを落とす作業をするため、犯人の女子生徒2人は、早めの午前8時に2ー7のクラスにこっそりとやって来た。
 そして教室で作業を始めた直後、俺以外のクラスメートが全員登校してきた。
 犯人2人が落書きを消し終わるまで、全員が自分の席に座り、無言で犯人を睨み付けていたらしい。なんて恐ろしいことを!と思ったが、クラスメートの怒りはちっとも収まらなかった。
 恐怖のあまり泣きながら「すみません」と謝っていたらしいが、「謝るのは俺たちにじゃない!」って原条が叱ったらしい。

 月曜は仕事で休むと、土曜にクラスメートに告げていたのだが、本当は深く傷付いたから休むのだと、皆は勘違いしていた。だから怒りは直ぐには消えなかった。
 この落書き消しという学校が与えた罰は、クラスメートによって昼休みには学校中の学生の知るところとなり、青虫と悪口を堂々と言っていた学生たちを震え上がらせた。
 その上、ネットの書き込みが虚言だったと広がり、放課後には俺のことを悪く言ったり、青虫と噂する者もぱったりと居なくなった。

 ……これはやり過ぎ? いや、罰は学生が選んだんだからセーフだよな。



 午後5時、最初にやって来たのは啓太だった。

「悠希先輩、先輩の書き込み19日㈪の午前8時40分でしたよね。わざと他校の学生が確認できない時間を狙ったんですか?反響が凄かったですね。削除される直前の書き込みは俺だったんですよ。【謝れ!噓つき女!】って昼休みに書いた瞬間に消されて・・・間に合って良かった」

啓太がちょっと嬉しそうにニヤニヤしながら、悠希先輩に確認する。

「悠希先輩、いったいどんな文章を書いたんですか?」
「春樹、お前見てないのか?」
「いや、だって啓太、お前も先輩も伯も、絶対に見るなって言ったから、俺は全然見てないし、関わってないから」
「そうだった。俺、スクリーンショットで残してあるから見る?」

啓太はそう言いながら、自分のスマホをポケットから取り出し、画面操作して俺の目の前に差し出した。

*****
《@あーちゃん》  もう直ぐ冬休み。忙しい彼は東京かな。青虫と同じ学校の優しい友達が、リゼットルに近付くな!って言ってくれた。嬉しいです。
《るいるい》    良かったね。害虫は駆除しなきゃ。

《リゼットルPV担当》 @あーちゃん、もう気が済んだかな?2年前に告白してフラれた腹いせは。相手にしてもらえなかったのに、彼女を気取って楽しかった?リゼットルを苦しめる作戦は上手くいったみたいだね。君の虚言で、関係の無い友人を貶めて気持ち良かった?俺はリゼットルのPV製作をしている者だが、君の悪意ある虚言のせいで、リゼットルは学校に行けなくなるだろう。

《リゼットルPV担当》 3年の三人は、残りの高校生活を友人と楽しむことが出来なくなった。ベース担当の彼は、転校することになった。ざまあみろって笑っているんだろうね。【@あーちゃん】の書き込みで、ファンを装った者が学校に押し掛けた。リゼットルは迷惑を掛けたくないから、登校を自粛するだろう。君は自分の腹いせと、目立ちたいというだけで、リゼットルの大切な友人を攻撃した。ベース担当の彼は傷付き、友人に泣いて謝った。俺はお前を許さない!

《みーこ》  騙された?私たち騙されてたんだ・・・ショック!
《のぶろう》 まじか!スゲー女。怖すぎる。フラれた腹いせ?最悪!
《青の友》  友人は、机の上に【リゼットルに近付くな青虫】と、油性マジックで落書きされた。@あーちゃん、お前はいじめをする人間を作り出した。俺はお前の正体を知っているが、決してバラしたりしない。お前と同じに見られたくないからな! 
《しりしる》 リゼットルがかわいそう。ターゲットになった人は被害者だね。警察に訴えられないの?
《ぷんすか》 友達と過ごせないなんて……転校しなくちゃいけないなんて……酷すぎる!シークレット活動してたのに、本当のファンならもう止めて!迷惑かけないで!

*** 以降約40件の書き込みは、スクリーンショットなし ***

《友人1》  俺はボーカルやってるヤツのクラスメートだ。リゼットルは明日から学校に来ない。残念だ。低俗ないじめをするな!
《友人A》  あたしはベース担当君と同じクラス。学校や学生に迷惑掛けたくないし、大切な友人を傷付けられて、大好きなこの学校には、もう通えないと泣いてた。
《友人23》  自慢の先輩と同級生を、これ以上攻撃するな!本当のファンなら学校に来るな!俺は友の涙を忘れないし、さようならなんて聞きたくなかった!
《友人Σ》  嘘つき女!正義のふりして苛めをするクソ野郎。お前らはリゼットルのファンじゃない!
《友人K》  謝れ!嘘つき女!
*****

 以上の書き込みを最後に、【リゼットルファン】という名の個人Twitterとブログは、12時44分に削除された。
 その後、@あーちゃんのTwitterがどうなったのか、誰も確認をしていない。興味もないし関わりたくもなかった。

 悠希先輩と一俊先輩は、最適にして最良の反撃の時を待って行動したのだ。そしてシナリオ通りに解決し、学園の不穏な空気は払拭され、山見高と西川高の校門の野次馬は激減した。
 悠希先輩によると、《青の友》は原条、《のぶろう》《しりしる》《ぷんすか》はデジ部のメンバーで、うちの高校が9時から授業開始なのを最大限に活かし、その時間帯を狙ったらしい。

 ……今度、テレビ局のお土産でも渡しておこう。みんなありがとう。




 午後5時40分、原条が恐る恐るという感じでやって来た。
 誰でも初めて中川家の門を潜る時は緊張したり驚いたりする。原条の家は祖父の代から医院を経営しているが、やはりこの屋敷と庭には驚いて当然だろう。

「いらっしゃい原条。今日はスタジオ側から入ってくれ」
「悠希部長、何ですかこの屋敷は?純和風なのにスタジオが在るんですか?」
「いらっしゃい原条。スタジオあるよ。今日はゲストだから、ゆっくり寛いでくれ。先に泊まる部屋に案内する。今日は俺と啓太と同じ部屋だ。他にも4人来るけど部屋は隣だよ」

 原条を泊まる部屋に連れていき、荷物を置いたところで、スタジオに案内する。
 間もなく午後6時。今夜は7時から俺が作った曲が主題歌のクリスマス特別ドラマがある。ソウエイミュージックからデビューする4人組【アルブート】が歌い、メンバーの一人はドラマにも出演している。CD【今夜こそ君と】は今日が発売日だった。

 18・19日に事務所に寄り、副社長と再びソウエイミュージックに行って、【アルブート】の4人に会った。
 やっぱりというか嫌な予感通りというか、先日エレベーター前でぶつかり舌打ちした奴がメンバーに居た。俺がラルカンドだと分かると驚いた顔をしていたが、悪びれる様子もなく、まるで挑むかのような視線を向けてきた。なんでだ?
 不機嫌な顔をした副社長から、帰りの車の中で気を付けるよう注意された。
 何を気を付けるのでしょう?と尋ねると「たぶんアイツはゲイだ。しかも暴力的なタイプだろう」って・・・いやいや、もう会うこともないと思うけど、一応用心だけはしておこうと心の中にメモしておく。


「そろそろ残りの4人が来るんで、スタジオ見学しながら待つことにして、来たら客間に移動してご馳走を食べる」

 原条と移動しながら、ご馳走準備係の悠希先輩と啓太に声を掛け、一緒にスタジオに向かう。

「今夜はドラマ鑑賞会と歌うクリスマス会って言ってたけど、カラオケは無いのか?……って・・・なんじゃこりゃ!なんでこんなに本格的なスタジオなんだよ!」

スタジオの中に入って驚きの声を上げる原条は、ドラムやキーボード、アンプなどの機材が揃っている様子に驚き、「俺、楽器は無理だぞ」と言いながらビビっている。

「心配するな。俺も楽器は全くだ。このスタジオは普段プロが使ってるから」

スタジオに入って、きょろきょろと見回している原条に、啓太が笑いながら声を掛ける。同類が増えて嬉しそうだ。

「悠希先輩、今日の会費はいくらですか?」
「啓太も原条も今日はゲストだからタダでいいよ」
「いやいやいや、あのご馳走ですよ!今回こそは5,000円払いますから」
「啓太、今回は俺と伯たちの奢りだ。俺もようやく小金持ちになったから」
「小金持ち?蒼空先輩が都内のマンションくらい買えるって言ってたぞ!」

ニヤニヤしながら啓太は俺を見て、じゃあ遠慮なくご馳走になると言って笑った。

「俺もタダ?いや、それはダメだろう!そう言えば、春樹は時々仕事で休んでるけど、いったい何の仕事してるんだ? 担任の山野は自営業だって言ってたけど、親父さん弁理士だったよな?そんなに忙しいのか?跡を継ぐとか?」

「ドラマを見終わったら分かるよ。ドラマに関係あるから」
「えっ!も、もしかして、お前俳優やってんの?ヘタレの人見知りなのに?」
「フッ、違うよ。ヒントはエンドロールに関係がある。まあ直ぐに分かる」

訳が分からないという表情の原条を見て、悠希先輩が腕を組んでニヤリと微笑みながら言う。

 本日の必要経費はラルカンドとリゼットルが負担することにした。
 いつものケータリングサービスに加え、スタジオで使う折りたたみ椅子を10脚ほど新調した。座っても音が出ない木製の椅子で、学校の近くにある工房で特注し、昨日納品されたばかりだ。
 ケータリングはリゼットルが負担し、椅子は俺がスタジオにプレゼントする。
 悠希先輩にはお世話になりっぱなしだし、何かプレゼントしたいと考えていたところ、録画中に椅子の軋む音が入るのが気になると先輩が言ったので、先輩と一緒に工房に行ってデザインも考えた合作である。

 時刻は午後6時、ギターを背負った伯たちが到着し、スタジオに入ってきた。 
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