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37 2年生のスタート
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春休みはあっという間に終わり、2年生の1学期がスタートした。
デジ部にも新入生が10人入部してきたので、益々活気が出た気がする。昨年全国大会のファイナルまで行った実績が大きかったようだ。
そして俺は、裏方と音担当で何故か副部長になり、悠希先輩はそのまま部長をやっている。
今年の新入生は美男美女が多いので、無理矢理役者をさせられることはなさそうだ。良かった良かった。
2年7組のクラスも、殆どクラス移動した者もおらず、相変わらず元気で騒々しい。新たに女子が2人増えたくらいで、隣の席はやっぱり原条だった。
担任の先生も持ち上がりで、なんだか代わり映えしない。
今年から理系と文系で教室移動することが増えて、文系にした俺は、医学部を目指す原条とは、違う教室に向かうことが増えた。でも、部活は一緒だ。原条は昨年準主役を演じて、すっかり演劇に目覚めていて、今年こそは入賞すると燃えている。
俺個人はというと、髪の毛の5分の4が群青色になり、瞳は完全に青に変わった。そのせいで、1年生からはハーフだとか帰国子女だとか噂されている。
こんな外見だから、啓太と伯が電車通を却下し、ずっとバス通を続けている。
病気の方は、先日の検査で変わりなしとの診断が出たので、検査に行く間隔が5か月後でよくなった。
沢木先生も安堵の息を吐き、何か変化があれば何時でも診察を受けるようにと言ってくれた。
……これはもしかして、本当に60歳まで生きられるのかも知れない。
そんな楽観的な気持ちと、そんなはずはないという予感がせめぎ合うけど、できるだけプラスに考えておこう。
伯との付き合いは、毎日ラインか電話をしている程度で、まだデートらしいデートはしていない。週末は悠希先輩のスタジオでバンドの練習をするので、見学をしたり一緒に曲を作ったりしている。
明らかに悠希先輩と過ごす時間の方が長いので、伯は時々やきもちを焼くが、決して束縛しようとはしない。
伯は部活をしていないので、ゴールデンウイークには一緒に遊ぶ約束をしているが、バンド活動によっては時間が取れないかもしれない。
5月1日、俺の作った【恋の音を聴いた朝】を収録した、ミユウさんのアルバムの発売日がやってきた。
事務所からも何枚か送ってくる予定だが、やっぱりこういうものは自分で買うことが大切だと思う。
今日は日曜なので、朝から啓太と一緒に本屋に向かい、伯とも待ち合わせをしている。伯の家の方が本屋から近かったが、今日は俺の家に遊びに来ることになっている。
伯の家と俺の家は、新山駅を挟んで二駅の距離だから、自転車でも楽勝の距離である。
俺たち3人は、ドキドキしながら予約していたアルバムを購入し、途中のコンビニでおやつや飲み物を買って、少し汗ばむくらいの晴天の空のもと、爽やかな5月の風を受けながら自転車をこいだ。
初めて来た俺の家に緊張している伯に向かって、まるで自分の家のように俺の部屋まで案内する啓太を見て、思わず笑ってしまう。
早速買ったばかりのアルバムを開封し表紙を見ると、ミユウさんが森のような場所で倒木の上に座って、木漏れ日を浴びながら本を読んでいた。まるでエルフの国の風景のようで、キラキラと輝く光が神秘的というか幻想的にミユウさんに降り注いでいる。
「凄い美人って訳じゃないけど、ミユウさんって独特の雰囲気がある女性だな」
「うん、そうなんだよ伯。俺は一緒に歌ったりしたんだけど、とても素敵な大人の女性だった」
俺はミユウさんのレコーディングの様子を思い出しながら、2人に自分の体験を話した。
「おおっ!ちゃんとラルカンドの名前が入ってる!やったな春樹。いっぱい売れたらいいな。印税で俺を海外旅行に連れて行ってくれよ」
「啓太、残念だけど印税なんて少ないと思う。アルバムの中の一曲だから、東京くらいなら連れて行けるかも」
「それじゃあ俺たちが頑張って、アニソンとして【絡んだ糸】をヒットさせるよ。こっちはシングルだし直ぐにカラオケにもなるから、ばんばんカラオケを歌いに行こう!発売は9月になりそうだけど、先行するYouTubeで発売枚数が決まるらしいから、皆で視聴回数を上げる!」
伯は張り切ってヒットさせたいと言ってくれるけど、【絡んだ糸】はコンテストの作品だから、印税は少なめだ。
なんだかんだと夢を語りながら、ミユウさんが歌う【恋の音を聴いた朝】を俺たちはじっくりと聞いた。
やっぱり俺が歌う【恋の音を聴いた朝】とは、全くの別物のように感じる。この曲は、女性が歌う方が深みを増す。
昼前に啓太は部活のために帰っていった。
帰り際、「伯、自重しろよ。家にはおばさんも居るんだからな」と余計なことを言った。啓太の余計な一言は、却って俺を意識させるのに・・・
「啓太が認めてくれて良かった。俺は、啓太にも悠希先輩にも感謝している。そして、春樹が俺を選んでくれたことが本当に嬉しい。だから、付き合ったことを春樹に後悔させないよう、俺自身が後悔しないように努力する」
伯は真っ直ぐ俺を見て、真剣な顔で誓うように言った。
相変わらず優等生で真面目なところは、前世のエイブとそっくりだ。
「うん、そうだな。これからは、伯との時間をもっと大事にするよ」
俺はにっこりとほほ笑むと、背伸びをして伯の頬に優しくキスをした。
ちっとも恋人らしい雰囲気にならないから、俺から不意打ちをかけた。
驚いたように目を見開いた伯は、嬉しそうに口元をほころばせると、お返しとばかりに俺を優しく抱きしめた。
「キスしていい?」
「そんなこと……恥ずかしいから聞くな」
俺は照れて伯を軽く睨むけど、心臓はドキドキと煩くて、顔が火照る。
「分かった」と答えた伯の瞳に熱がこもる。
左手でグッと抱き寄せ、右手で俺の髪を触りながら「好きだ春樹」と呟いて、ゆっくりと唇を重ねてくる。
軽く触れるだけのキスから始まり、チュッと音を立てながら唇を吸うと、両手で俺を強く抱きしめて、は~っと深く熱い吐息を漏らす。
俺は伯の温もりを感じながら、とても懐かしい気がする伯のキスを受けて、両手を伯の背中に回しギュッと抱きしめる。
「俺も、伯が大好きだよ」と呟いて、再び目を瞑った。
当然のことながら、伯のキスは次第に激しくなっていく。
この時点で俺と伯は、啓太の言葉など忘れて、自重なんて何処かへ投げ捨てようとしていた。
が、しかし、運よくなのか悪くなのか、ベッドに倒れこみたい衝動を踏みとどまらせたのは、「ご飯ができたわよー」と階段下から聞こえてきた母さんの声だった。
凄く残念そうに身体を離した伯は、おまけのように俺の頬にキスをして、これまで見たことがない程の幸せそうな顔で笑った。
やっと恋人らしい関係になれた?ような俺たちは、なんだか可笑しくなって笑い出す。
「どんだけ余裕がないんだよ伯」
「その言葉、そっくり春樹に返すよ」
「じゃあ、昼からは、約束通り伯の歌詞に曲をつけていこう。……キス禁止で」
「勿論だ。前世でも俺は、お預けを食らいながら耐えていただろう?」
「ごほごほ……悪かったよ。……来年くらいには頑張ってみよう」
「は~っ、長いよ!せめて夏休みで」
「考えとく」と答えて、俺は伯を連れてキッチンに向かった。
今日の昼ご飯は、オムライスとスープとサラダだ。卵大好きな母さんの、得意な料理の一つである。
「こんにちは。山見高校2年の夏木 伯です。ご馳走になります」
「母さん、伯は俺の作った曲を歌うバンドのメンバーなんだよ。そんで、俺の彼氏。啓太の許可は出てるから」
俺はいつもの席に座ると、さらりと伯を紹介した。
「ちょっ、春樹」と、伯は慌てて俺を見てから、恐る恐る母さんに視線を向けた。
「あら、じゃぁアニソンを歌ってくれるバンドのメンバーなのね。そう・・・これからも春樹をよろしくね。さあさあ、冷めないうちに食べてね」
母さんは何か言葉を飲み込んだ気がしたが、笑顔を伯に向けてコップに冷水を注いでくれた。
うちは姉貴が腐りまくった腐女子だが、母さんも影響を受けて、BL好きになっている。元々我が家は少数派にも寛大だし、生れた時から啓太がべったりナイト的な存在で側に居たので、姉貴も母さんも、冗談のように女の子が隣に並ぶ姿が想像できないとか言っていた。
それに母さんもイケメン好きである。きっと伯は合格点を獲得しただろう。
和やかに昼食は終了し、母さんはわざとらしく「ちょっと買い物に行ってくるね。帰るのは夕方かな」とか言いながら、俺に向かってウインクをした。
まあ俺の場合は病気を抱えてるから、母さんは俺のやりたいことは応援してくれる。音楽活動も恋愛も、俺を信じて好きにさせてくれる。
それに、うちの家族は俺よりも啓太を信用している。だから、啓太の公認なら大丈夫だと判断したのだろう。
母さんは30分後には出掛けて行った。元々買い物に行くと言っていたので、決して気を使ったのではないと思いたい。そうでないと恥ずかしすぎる。
「良かった。お母さんに認めてもらえたみたいで……」
「うん、まあ、兄さんと父さんは渋い顔をすると思うけど、きっと俺が本当に好きになったのなら反対しないと思う。だから、これからも遠慮なく来ればいいよ。姉貴が県外の大学に行って良かったよ。姉貴が居たら煩いことになっていた」
「えっ?凄く反対されたりした?」
「まさか。大賛成で伯を弟に認定して、キラキラギラギラした瞳で観察され、小説のネタにされたに違いない。怖い怖い……」
俺は我が家の事情を暴露しながら、伯の家はどうなんだろうと質問してみた。
「うちの母親は……保守的な考え方だから、ストレートに伝えるのは難しいかもしれない。でも、絶対に認めてもらうよ。前世のエイブの親は、ラルカンドとの関係を家の恥だと言って、俺を騎士学校から辞めさせようとした。そして強引に婚約者と結婚させようとした。・・・あの時俺は、ラルカンドを深く傷付けた」
伯は前世を思い出しながら項垂れ、今度は春樹を傷付けないようにするからと、俺の手を握って、信じてくれと頭を下げた。
俺は別に無理しなくてもいいと思う。伯の家族には、友達として紹介してもらえばいい。親と喧嘩して欲しくないし、来年から伯は東京の学校へ行く。
俺たちは、いわゆる芸能人みたいな立場になるんだから、スキャンダルはよろしくない。こっそりだって、付き合えるのなら構わない。
「伯、前世とは時代が違うんだ。寮生活でもないし、会おうと思えば毎日だって会える。だから焦らなくていいよ。それに、今は応援してくれる仲間だっている」
「フッ……そうだな。よし!曲を作ろう。蒼空先輩をあっと言わせる曲にしてやろう。俺たちの初めての合作だな」
伯はそう言うと、ギターをケースから取り出して調弦を始める。今日のギターはベースではなく、俺とお揃いのメーカーのフォークギターだった。
デジ部にも新入生が10人入部してきたので、益々活気が出た気がする。昨年全国大会のファイナルまで行った実績が大きかったようだ。
そして俺は、裏方と音担当で何故か副部長になり、悠希先輩はそのまま部長をやっている。
今年の新入生は美男美女が多いので、無理矢理役者をさせられることはなさそうだ。良かった良かった。
2年7組のクラスも、殆どクラス移動した者もおらず、相変わらず元気で騒々しい。新たに女子が2人増えたくらいで、隣の席はやっぱり原条だった。
担任の先生も持ち上がりで、なんだか代わり映えしない。
今年から理系と文系で教室移動することが増えて、文系にした俺は、医学部を目指す原条とは、違う教室に向かうことが増えた。でも、部活は一緒だ。原条は昨年準主役を演じて、すっかり演劇に目覚めていて、今年こそは入賞すると燃えている。
俺個人はというと、髪の毛の5分の4が群青色になり、瞳は完全に青に変わった。そのせいで、1年生からはハーフだとか帰国子女だとか噂されている。
こんな外見だから、啓太と伯が電車通を却下し、ずっとバス通を続けている。
病気の方は、先日の検査で変わりなしとの診断が出たので、検査に行く間隔が5か月後でよくなった。
沢木先生も安堵の息を吐き、何か変化があれば何時でも診察を受けるようにと言ってくれた。
……これはもしかして、本当に60歳まで生きられるのかも知れない。
そんな楽観的な気持ちと、そんなはずはないという予感がせめぎ合うけど、できるだけプラスに考えておこう。
伯との付き合いは、毎日ラインか電話をしている程度で、まだデートらしいデートはしていない。週末は悠希先輩のスタジオでバンドの練習をするので、見学をしたり一緒に曲を作ったりしている。
明らかに悠希先輩と過ごす時間の方が長いので、伯は時々やきもちを焼くが、決して束縛しようとはしない。
伯は部活をしていないので、ゴールデンウイークには一緒に遊ぶ約束をしているが、バンド活動によっては時間が取れないかもしれない。
5月1日、俺の作った【恋の音を聴いた朝】を収録した、ミユウさんのアルバムの発売日がやってきた。
事務所からも何枚か送ってくる予定だが、やっぱりこういうものは自分で買うことが大切だと思う。
今日は日曜なので、朝から啓太と一緒に本屋に向かい、伯とも待ち合わせをしている。伯の家の方が本屋から近かったが、今日は俺の家に遊びに来ることになっている。
伯の家と俺の家は、新山駅を挟んで二駅の距離だから、自転車でも楽勝の距離である。
俺たち3人は、ドキドキしながら予約していたアルバムを購入し、途中のコンビニでおやつや飲み物を買って、少し汗ばむくらいの晴天の空のもと、爽やかな5月の風を受けながら自転車をこいだ。
初めて来た俺の家に緊張している伯に向かって、まるで自分の家のように俺の部屋まで案内する啓太を見て、思わず笑ってしまう。
早速買ったばかりのアルバムを開封し表紙を見ると、ミユウさんが森のような場所で倒木の上に座って、木漏れ日を浴びながら本を読んでいた。まるでエルフの国の風景のようで、キラキラと輝く光が神秘的というか幻想的にミユウさんに降り注いでいる。
「凄い美人って訳じゃないけど、ミユウさんって独特の雰囲気がある女性だな」
「うん、そうなんだよ伯。俺は一緒に歌ったりしたんだけど、とても素敵な大人の女性だった」
俺はミユウさんのレコーディングの様子を思い出しながら、2人に自分の体験を話した。
「おおっ!ちゃんとラルカンドの名前が入ってる!やったな春樹。いっぱい売れたらいいな。印税で俺を海外旅行に連れて行ってくれよ」
「啓太、残念だけど印税なんて少ないと思う。アルバムの中の一曲だから、東京くらいなら連れて行けるかも」
「それじゃあ俺たちが頑張って、アニソンとして【絡んだ糸】をヒットさせるよ。こっちはシングルだし直ぐにカラオケにもなるから、ばんばんカラオケを歌いに行こう!発売は9月になりそうだけど、先行するYouTubeで発売枚数が決まるらしいから、皆で視聴回数を上げる!」
伯は張り切ってヒットさせたいと言ってくれるけど、【絡んだ糸】はコンテストの作品だから、印税は少なめだ。
なんだかんだと夢を語りながら、ミユウさんが歌う【恋の音を聴いた朝】を俺たちはじっくりと聞いた。
やっぱり俺が歌う【恋の音を聴いた朝】とは、全くの別物のように感じる。この曲は、女性が歌う方が深みを増す。
昼前に啓太は部活のために帰っていった。
帰り際、「伯、自重しろよ。家にはおばさんも居るんだからな」と余計なことを言った。啓太の余計な一言は、却って俺を意識させるのに・・・
「啓太が認めてくれて良かった。俺は、啓太にも悠希先輩にも感謝している。そして、春樹が俺を選んでくれたことが本当に嬉しい。だから、付き合ったことを春樹に後悔させないよう、俺自身が後悔しないように努力する」
伯は真っ直ぐ俺を見て、真剣な顔で誓うように言った。
相変わらず優等生で真面目なところは、前世のエイブとそっくりだ。
「うん、そうだな。これからは、伯との時間をもっと大事にするよ」
俺はにっこりとほほ笑むと、背伸びをして伯の頬に優しくキスをした。
ちっとも恋人らしい雰囲気にならないから、俺から不意打ちをかけた。
驚いたように目を見開いた伯は、嬉しそうに口元をほころばせると、お返しとばかりに俺を優しく抱きしめた。
「キスしていい?」
「そんなこと……恥ずかしいから聞くな」
俺は照れて伯を軽く睨むけど、心臓はドキドキと煩くて、顔が火照る。
「分かった」と答えた伯の瞳に熱がこもる。
左手でグッと抱き寄せ、右手で俺の髪を触りながら「好きだ春樹」と呟いて、ゆっくりと唇を重ねてくる。
軽く触れるだけのキスから始まり、チュッと音を立てながら唇を吸うと、両手で俺を強く抱きしめて、は~っと深く熱い吐息を漏らす。
俺は伯の温もりを感じながら、とても懐かしい気がする伯のキスを受けて、両手を伯の背中に回しギュッと抱きしめる。
「俺も、伯が大好きだよ」と呟いて、再び目を瞑った。
当然のことながら、伯のキスは次第に激しくなっていく。
この時点で俺と伯は、啓太の言葉など忘れて、自重なんて何処かへ投げ捨てようとしていた。
が、しかし、運よくなのか悪くなのか、ベッドに倒れこみたい衝動を踏みとどまらせたのは、「ご飯ができたわよー」と階段下から聞こえてきた母さんの声だった。
凄く残念そうに身体を離した伯は、おまけのように俺の頬にキスをして、これまで見たことがない程の幸せそうな顔で笑った。
やっと恋人らしい関係になれた?ような俺たちは、なんだか可笑しくなって笑い出す。
「どんだけ余裕がないんだよ伯」
「その言葉、そっくり春樹に返すよ」
「じゃあ、昼からは、約束通り伯の歌詞に曲をつけていこう。……キス禁止で」
「勿論だ。前世でも俺は、お預けを食らいながら耐えていただろう?」
「ごほごほ……悪かったよ。……来年くらいには頑張ってみよう」
「は~っ、長いよ!せめて夏休みで」
「考えとく」と答えて、俺は伯を連れてキッチンに向かった。
今日の昼ご飯は、オムライスとスープとサラダだ。卵大好きな母さんの、得意な料理の一つである。
「こんにちは。山見高校2年の夏木 伯です。ご馳走になります」
「母さん、伯は俺の作った曲を歌うバンドのメンバーなんだよ。そんで、俺の彼氏。啓太の許可は出てるから」
俺はいつもの席に座ると、さらりと伯を紹介した。
「ちょっ、春樹」と、伯は慌てて俺を見てから、恐る恐る母さんに視線を向けた。
「あら、じゃぁアニソンを歌ってくれるバンドのメンバーなのね。そう・・・これからも春樹をよろしくね。さあさあ、冷めないうちに食べてね」
母さんは何か言葉を飲み込んだ気がしたが、笑顔を伯に向けてコップに冷水を注いでくれた。
うちは姉貴が腐りまくった腐女子だが、母さんも影響を受けて、BL好きになっている。元々我が家は少数派にも寛大だし、生れた時から啓太がべったりナイト的な存在で側に居たので、姉貴も母さんも、冗談のように女の子が隣に並ぶ姿が想像できないとか言っていた。
それに母さんもイケメン好きである。きっと伯は合格点を獲得しただろう。
和やかに昼食は終了し、母さんはわざとらしく「ちょっと買い物に行ってくるね。帰るのは夕方かな」とか言いながら、俺に向かってウインクをした。
まあ俺の場合は病気を抱えてるから、母さんは俺のやりたいことは応援してくれる。音楽活動も恋愛も、俺を信じて好きにさせてくれる。
それに、うちの家族は俺よりも啓太を信用している。だから、啓太の公認なら大丈夫だと判断したのだろう。
母さんは30分後には出掛けて行った。元々買い物に行くと言っていたので、決して気を使ったのではないと思いたい。そうでないと恥ずかしすぎる。
「良かった。お母さんに認めてもらえたみたいで……」
「うん、まあ、兄さんと父さんは渋い顔をすると思うけど、きっと俺が本当に好きになったのなら反対しないと思う。だから、これからも遠慮なく来ればいいよ。姉貴が県外の大学に行って良かったよ。姉貴が居たら煩いことになっていた」
「えっ?凄く反対されたりした?」
「まさか。大賛成で伯を弟に認定して、キラキラギラギラした瞳で観察され、小説のネタにされたに違いない。怖い怖い……」
俺は我が家の事情を暴露しながら、伯の家はどうなんだろうと質問してみた。
「うちの母親は……保守的な考え方だから、ストレートに伝えるのは難しいかもしれない。でも、絶対に認めてもらうよ。前世のエイブの親は、ラルカンドとの関係を家の恥だと言って、俺を騎士学校から辞めさせようとした。そして強引に婚約者と結婚させようとした。・・・あの時俺は、ラルカンドを深く傷付けた」
伯は前世を思い出しながら項垂れ、今度は春樹を傷付けないようにするからと、俺の手を握って、信じてくれと頭を下げた。
俺は別に無理しなくてもいいと思う。伯の家族には、友達として紹介してもらえばいい。親と喧嘩して欲しくないし、来年から伯は東京の学校へ行く。
俺たちは、いわゆる芸能人みたいな立場になるんだから、スキャンダルはよろしくない。こっそりだって、付き合えるのなら構わない。
「伯、前世とは時代が違うんだ。寮生活でもないし、会おうと思えば毎日だって会える。だから焦らなくていいよ。それに、今は応援してくれる仲間だっている」
「フッ……そうだな。よし!曲を作ろう。蒼空先輩をあっと言わせる曲にしてやろう。俺たちの初めての合作だな」
伯はそう言うと、ギターをケースから取り出して調弦を始める。今日のギターはベースではなく、俺とお揃いのメーカーのフォークギターだった。
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