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36 春樹の想い
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……な、何が起こった?どうして、なんで俺が襲われるんだ? そりゃ確かにちょっと煽ったけど、でも、それはガレイル王子に対することだったのに……副社長はガレイル王子が好きなんだろう?やっぱり変だよ!・・・ああ、そう言えば「どうしてお前なんだ!」って言ってたな。自分は愛して貰えないのに、王子に愛されていたラルカンドが憎いとか、嫉妬とかかな……フーッ。
俺は水を飲んで、なんとか、なんとか平常心を装いながら、九竜副社長という男の人間性を確かめる。
俺に何かあった時、本当に悠希先輩を支えることが出来るのかどうか、俺にとってそれが最も重要な確認事項なのだ。
悠希先輩がコンテストにエントリーして、入賞したから九竜副社長に出会った。そのことには絶対意味があるはずだ。
悠希先輩と九竜副社長は必ず繋がっている。繋がらねばならない運命を感じる。特に目に前の男にとって、悠希先輩はなくてはならない存在であることは間違いない。
きっとガレイル王子に恋い焦がれ過ぎて、俺にあんな行動をとったのだろう。逢いたくてもまだ出逢えていない最愛の王子への気持ちが冷静さを失わせた。
……でも、そんな男じゃ駄目なんだよ九竜副社長。
肝心な悠希先輩は、ソラタ先輩の名前を出した時、微妙な態度だった。今なら、その訳というか理由がはっきりと分かる。
ガレイル王子はラルカンドの死後、ソラタ先輩の手をとったことを悔いていた。だから、ソラタ先輩を敬遠しているのだろう。
でも俺たちは、前世の失敗や後悔を、現世でやり直すために覚醒した。そうであるならば、九竜副社長が望んでいる、ガレイル王子を幸せにするという願いも叶えられるべきだ。
「ガレイル王子は、君の、ラルカンドの側に居て、ラルカンドに必要とされているのなら、王子は今、幸せなのだろうか?王子は、笑って過ごされているのだろうか?」
九竜副社長は、俺の望む回答をする前に、王子の現況を質問してきた。その表情はどこか寂しそうだ。
「そうですね。王子は俺に嫌われることを極端に恐れています。だから、懸命に尽くしてくれています。ガレイル王子、いえ、俺の大事な先輩は、俺のためにエイブごと受け入れてくれています。現世では、仲の良い友人関係にあります。きっと幸せだと思いますよ。前世よりはずっと」
「では私は、必要ない存在だ。なのに……どうして、何故、生まれ変わってきたんだ」
副社長は、ソラタとして現世に存在する意味など、何処にもないのではないかと、絶望にも似た表情で絞り出すように言って下を向いた。
あれほど俺様的というか、できる大人の男にしか見えなかった副社長が、1つ年上のソラタ先輩に見えてしまう。
「それは、これから必要になるからだと思います。
俺が副社長に出会ったことも、大事な先輩がコンテストに俺の曲をエントリーしたことも、きっと意味があるはずです。俺たちより年上で生まれ変わってきたことにも、必ず意味があるはずなんです。
さあ、答えてください。貴方は、同じ悲しみに苦しむ先輩を守れますか?
大人の男として、前世とは違う対応で、俺が居なくなった後の先輩を、笑顔にできますか?」
俯きがちな副社長の瞳を真っ直ぐ見据えて、俺は問答無用とばかりに畳み込む。
「君が王子の側に居てくれたら、王子は幸せなはずだ。このままずっと、君が、春樹が王子を愛し続ければ、私など必要ないではないか!
どうして王子が同じ悲しみに苦しむんだ?
君は何処かへ行くのか?愛していると言いながら、王子を捨てるつもりなのか?
どうして王子を悲しませるんだ!」
副社長は声に怒りを滲ませながら、王子を捨てるつもりなのかと聴いてきた。
「これ以上の問答は必要ありません。貴方は、俺の問いに答えようとしない。この話は、ガレイル王子の話はこれまでです。帰ります!」
俺は立ち上がると、玄関に向かって歩き始める。正直ガッカリした。
「待ってくれ!」と、後ろから声が掛かるが、俺は無視して靴を履く。急いで玄関ドアを開いて、エレベーターまで走るとボタンを押した。
いろいろと混乱する頭を冷ましながら、俺は地下鉄の駅へと急ぐ。後ろなんて振り向かない。
気付いたら泣きながらホテルの部屋に辿り着いていた。
……俺だって、悠希先輩をずっと愛していたいんだ! 捨てる? 冗談じゃない!ふざけるな! 前世だって現世だって、俺は皆より永く生きられない可能性が強いんだ!
悠希先輩は寂しい人だ。
お婆様と暮らしてはいるが、両親や姉弟と離れていて、父親方の親族とは上手くいっていないように思える。
養子に入ったので、引き継いだ事業だってやらなきゃいけない。今はまだ未成年だから税理士さんとか、他の専門家の人が助けてくれているけど、成人するまでに勉強することが山積みだ。
お婆様に何かあったら、中川家は悠希先輩一人になってしまう。あの広いお屋敷でひとりぼっちになるんだ。
だからこそ、先輩が頼れる人が必要なんだ。俺では駄目だ。圧倒的に知識も包容力も足りない。
ソラタ先輩なら、学校経営やその他の事業だって、きっとアドバイスも出来るし、力にもなってくれるはず。敵が現れれば蹴散らし、最優先で王子を、いや悠希先輩を守るだろう。
そう信じたい。信じさせて欲しい。
俺にはできないことを任せたいんだ。成人してからもずっと、ずっと先輩の側に居て、先輩が寂しくないよう、辛くないよう励ましながら支えて欲しい。
たとえ先輩が今は望んでいなくても、俺が居なくなったら、絶対にソラタ先輩の、九竜副社長の存在が必要になる。そうなる確信が俺にはある。
……しっかりしろよ九竜副社長!なにやってんだよ!さっきみたいな態度じゃ、先輩を任せられないよ俺!
翌朝俺は、伯からの電話で目が覚めた。
伯によると、今日は全員でボイストレーニングをして、明日はアニメ関係者との打ち合わせがあり、忙しくて東京デートはできそうにないとのこと。残念だけど、プロの仕事が楽な訳がない。
年内は東京との往復で忙しくなるだろう。合間に受験もしなきゃならない。9月まではノンストップで忙しそうだ。
これから何度も東京に来るだろうとは思うけど、折角だから東京観光をして帰ろう。
一人の方がゆっくりできる美術館巡りなんかが良いだろう。
帰りの新幹線は午後6時発だから、姉貴に頼まれた東京駅限定のお土産を買うとして、午後5時頃に東京駅に着けばいい・・・とか考えながらチェックアウトしてホテルから出た直後、九竜副社長からメールが届いた。
*****
昨日はすまなかった。私の答えを伝えたい。
私は心から王子に謝罪し、許しを得たい。その上で、遠くからでも構わないので、王子の幸せを願い見守りたい。
私で役に立てることがあれば、全力でお支えすると誓う。
王子が悲しい時は側に居て、励まし慰める。
王子が苦しい時は、その元凶を取り除く手伝いをする。
私は、前世で死の間際、やり直せるなら王子を守れる判断力と包容力が欲しいと願った。
その結果が今の年齢差であり、自分の築いてきた経験にあると考える。
君が王子の前から居なくなる原因は分からないが、それが君にとって必要なことであれば、王子も反対されることはないと思う。
私の望みは、王子が後悔されない人生を送られることだ。
これが私の偽りない回答だ。
もしも君が、この回答で合格をくれるなら、今日もう一度会って欲しい。
満足な回答ではなかった場合、何度でも君の望む人間になれるよう努力する。
*****
う~ん、正直なところ50点だな。
よし、折角だから、とことん煽っておこう。悠希先輩に会いたくて限界がくるまで、会ってやらないし会わせてやらない。俺にキスした代償は払って貰わなくちゃな。
******
お疲れさまです。この回答では50点です。
今日は忙しいのでお会いできません。
九竜副社長、現世では自分が王子を幸せにしてみせる!くらいは言ってみせろよ。
正々堂々と、王子に愛していると言えばどうだ。
そして、全てを捧げるから、自分を愛して欲しいとひざまずけ!
残念だけど今の王子は、きっとソラタ先輩には会いたがらないと思う。
俺の仕事を通して人間性を示し、従者のソラタではなく、副社長として、人生の先輩として認められことをお薦めする。
夏には一緒に、オープンキャンパスで東京に来る予定だ。
俺は絶対に、大事な先輩を捨てたりしない。死ぬ間際まで一緒にいたい。
エイブが恋人であっても、俺は1分1秒でも長く、大事な先輩と過ごしたいんだ!
だから、貴方の出番は、今じゃない。
でもきっと、それほど先でもないだろう。 四ノ宮 春樹
******
……これでよし!今の悠希先輩は、俺の活躍を願い、一緒に部活したり、共に曲作りをしたり、普通に学生として過ごすことを望んでいる。だから、俺にキスしたことや、押し倒したことは黙っててやるよ。俺だって先輩を怒らせたくないからな。
帰りの新幹線の中で駅弁を食べていたら、副社長からまたメールが届いた。
*****
前世とは違う生き方をしている春樹を知り、私も違う生き方をしてみたくなった。
従者としてではなく、実業家 九竜 惺 として王子の前に立てる日まで、君の大事な先輩を守る者として相応しい男に成れるよう、自分を磨いておくことにする。
君が王子の前から居なくなる理由を、いつか教えて欲しい。
万全の策を練り、その日に備えたいと思う。 九竜
*****
……万全の策か・・・それはちょっと難しいかな・・・俺はきっとガレイル王子をまた泣かせてしまうから。だけど今度は、きちんとお別れを言える気がする。
名古屋駅を通過し、窓の景色を見ていたら、新しい曲のタイトルが頭に浮かんだ。
忘れないようにスマホを取りだし、浮かんでくる言葉や単語を、どんどん書き込んでいく。京都駅に到着する頃には、曲のイメージが出来上がっていた。
今度の曲のタイトルは【負けないと誓った夜】だ。
イメージとしては、全ての頑張る人へ贈る応援歌みたいな感じかな。
もうダメだと思った時こそ、スタートラインに立った時だ。どん底からのチャレンジだから、もう落ちることなんてない。恐れる気持ちを吹き飛ばし、拳を握り背筋を伸ばせ!って感じの曲。
この曲は、事務所に送らなくてもいいや。いつか死が身近に迫ってきたら、自分に向けて歌う曲にすればいい。
俺は水を飲んで、なんとか、なんとか平常心を装いながら、九竜副社長という男の人間性を確かめる。
俺に何かあった時、本当に悠希先輩を支えることが出来るのかどうか、俺にとってそれが最も重要な確認事項なのだ。
悠希先輩がコンテストにエントリーして、入賞したから九竜副社長に出会った。そのことには絶対意味があるはずだ。
悠希先輩と九竜副社長は必ず繋がっている。繋がらねばならない運命を感じる。特に目に前の男にとって、悠希先輩はなくてはならない存在であることは間違いない。
きっとガレイル王子に恋い焦がれ過ぎて、俺にあんな行動をとったのだろう。逢いたくてもまだ出逢えていない最愛の王子への気持ちが冷静さを失わせた。
……でも、そんな男じゃ駄目なんだよ九竜副社長。
肝心な悠希先輩は、ソラタ先輩の名前を出した時、微妙な態度だった。今なら、その訳というか理由がはっきりと分かる。
ガレイル王子はラルカンドの死後、ソラタ先輩の手をとったことを悔いていた。だから、ソラタ先輩を敬遠しているのだろう。
でも俺たちは、前世の失敗や後悔を、現世でやり直すために覚醒した。そうであるならば、九竜副社長が望んでいる、ガレイル王子を幸せにするという願いも叶えられるべきだ。
「ガレイル王子は、君の、ラルカンドの側に居て、ラルカンドに必要とされているのなら、王子は今、幸せなのだろうか?王子は、笑って過ごされているのだろうか?」
九竜副社長は、俺の望む回答をする前に、王子の現況を質問してきた。その表情はどこか寂しそうだ。
「そうですね。王子は俺に嫌われることを極端に恐れています。だから、懸命に尽くしてくれています。ガレイル王子、いえ、俺の大事な先輩は、俺のためにエイブごと受け入れてくれています。現世では、仲の良い友人関係にあります。きっと幸せだと思いますよ。前世よりはずっと」
「では私は、必要ない存在だ。なのに……どうして、何故、生まれ変わってきたんだ」
副社長は、ソラタとして現世に存在する意味など、何処にもないのではないかと、絶望にも似た表情で絞り出すように言って下を向いた。
あれほど俺様的というか、できる大人の男にしか見えなかった副社長が、1つ年上のソラタ先輩に見えてしまう。
「それは、これから必要になるからだと思います。
俺が副社長に出会ったことも、大事な先輩がコンテストに俺の曲をエントリーしたことも、きっと意味があるはずです。俺たちより年上で生まれ変わってきたことにも、必ず意味があるはずなんです。
さあ、答えてください。貴方は、同じ悲しみに苦しむ先輩を守れますか?
大人の男として、前世とは違う対応で、俺が居なくなった後の先輩を、笑顔にできますか?」
俯きがちな副社長の瞳を真っ直ぐ見据えて、俺は問答無用とばかりに畳み込む。
「君が王子の側に居てくれたら、王子は幸せなはずだ。このままずっと、君が、春樹が王子を愛し続ければ、私など必要ないではないか!
どうして王子が同じ悲しみに苦しむんだ?
君は何処かへ行くのか?愛していると言いながら、王子を捨てるつもりなのか?
どうして王子を悲しませるんだ!」
副社長は声に怒りを滲ませながら、王子を捨てるつもりなのかと聴いてきた。
「これ以上の問答は必要ありません。貴方は、俺の問いに答えようとしない。この話は、ガレイル王子の話はこれまでです。帰ります!」
俺は立ち上がると、玄関に向かって歩き始める。正直ガッカリした。
「待ってくれ!」と、後ろから声が掛かるが、俺は無視して靴を履く。急いで玄関ドアを開いて、エレベーターまで走るとボタンを押した。
いろいろと混乱する頭を冷ましながら、俺は地下鉄の駅へと急ぐ。後ろなんて振り向かない。
気付いたら泣きながらホテルの部屋に辿り着いていた。
……俺だって、悠希先輩をずっと愛していたいんだ! 捨てる? 冗談じゃない!ふざけるな! 前世だって現世だって、俺は皆より永く生きられない可能性が強いんだ!
悠希先輩は寂しい人だ。
お婆様と暮らしてはいるが、両親や姉弟と離れていて、父親方の親族とは上手くいっていないように思える。
養子に入ったので、引き継いだ事業だってやらなきゃいけない。今はまだ未成年だから税理士さんとか、他の専門家の人が助けてくれているけど、成人するまでに勉強することが山積みだ。
お婆様に何かあったら、中川家は悠希先輩一人になってしまう。あの広いお屋敷でひとりぼっちになるんだ。
だからこそ、先輩が頼れる人が必要なんだ。俺では駄目だ。圧倒的に知識も包容力も足りない。
ソラタ先輩なら、学校経営やその他の事業だって、きっとアドバイスも出来るし、力にもなってくれるはず。敵が現れれば蹴散らし、最優先で王子を、いや悠希先輩を守るだろう。
そう信じたい。信じさせて欲しい。
俺にはできないことを任せたいんだ。成人してからもずっと、ずっと先輩の側に居て、先輩が寂しくないよう、辛くないよう励ましながら支えて欲しい。
たとえ先輩が今は望んでいなくても、俺が居なくなったら、絶対にソラタ先輩の、九竜副社長の存在が必要になる。そうなる確信が俺にはある。
……しっかりしろよ九竜副社長!なにやってんだよ!さっきみたいな態度じゃ、先輩を任せられないよ俺!
翌朝俺は、伯からの電話で目が覚めた。
伯によると、今日は全員でボイストレーニングをして、明日はアニメ関係者との打ち合わせがあり、忙しくて東京デートはできそうにないとのこと。残念だけど、プロの仕事が楽な訳がない。
年内は東京との往復で忙しくなるだろう。合間に受験もしなきゃならない。9月まではノンストップで忙しそうだ。
これから何度も東京に来るだろうとは思うけど、折角だから東京観光をして帰ろう。
一人の方がゆっくりできる美術館巡りなんかが良いだろう。
帰りの新幹線は午後6時発だから、姉貴に頼まれた東京駅限定のお土産を買うとして、午後5時頃に東京駅に着けばいい・・・とか考えながらチェックアウトしてホテルから出た直後、九竜副社長からメールが届いた。
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昨日はすまなかった。私の答えを伝えたい。
私は心から王子に謝罪し、許しを得たい。その上で、遠くからでも構わないので、王子の幸せを願い見守りたい。
私で役に立てることがあれば、全力でお支えすると誓う。
王子が悲しい時は側に居て、励まし慰める。
王子が苦しい時は、その元凶を取り除く手伝いをする。
私は、前世で死の間際、やり直せるなら王子を守れる判断力と包容力が欲しいと願った。
その結果が今の年齢差であり、自分の築いてきた経験にあると考える。
君が王子の前から居なくなる原因は分からないが、それが君にとって必要なことであれば、王子も反対されることはないと思う。
私の望みは、王子が後悔されない人生を送られることだ。
これが私の偽りない回答だ。
もしも君が、この回答で合格をくれるなら、今日もう一度会って欲しい。
満足な回答ではなかった場合、何度でも君の望む人間になれるよう努力する。
*****
う~ん、正直なところ50点だな。
よし、折角だから、とことん煽っておこう。悠希先輩に会いたくて限界がくるまで、会ってやらないし会わせてやらない。俺にキスした代償は払って貰わなくちゃな。
******
お疲れさまです。この回答では50点です。
今日は忙しいのでお会いできません。
九竜副社長、現世では自分が王子を幸せにしてみせる!くらいは言ってみせろよ。
正々堂々と、王子に愛していると言えばどうだ。
そして、全てを捧げるから、自分を愛して欲しいとひざまずけ!
残念だけど今の王子は、きっとソラタ先輩には会いたがらないと思う。
俺の仕事を通して人間性を示し、従者のソラタではなく、副社長として、人生の先輩として認められことをお薦めする。
夏には一緒に、オープンキャンパスで東京に来る予定だ。
俺は絶対に、大事な先輩を捨てたりしない。死ぬ間際まで一緒にいたい。
エイブが恋人であっても、俺は1分1秒でも長く、大事な先輩と過ごしたいんだ!
だから、貴方の出番は、今じゃない。
でもきっと、それほど先でもないだろう。 四ノ宮 春樹
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……これでよし!今の悠希先輩は、俺の活躍を願い、一緒に部活したり、共に曲作りをしたり、普通に学生として過ごすことを望んでいる。だから、俺にキスしたことや、押し倒したことは黙っててやるよ。俺だって先輩を怒らせたくないからな。
帰りの新幹線の中で駅弁を食べていたら、副社長からまたメールが届いた。
*****
前世とは違う生き方をしている春樹を知り、私も違う生き方をしてみたくなった。
従者としてではなく、実業家 九竜 惺 として王子の前に立てる日まで、君の大事な先輩を守る者として相応しい男に成れるよう、自分を磨いておくことにする。
君が王子の前から居なくなる理由を、いつか教えて欲しい。
万全の策を練り、その日に備えたいと思う。 九竜
*****
……万全の策か・・・それはちょっと難しいかな・・・俺はきっとガレイル王子をまた泣かせてしまうから。だけど今度は、きちんとお別れを言える気がする。
名古屋駅を通過し、窓の景色を見ていたら、新しい曲のタイトルが頭に浮かんだ。
忘れないようにスマホを取りだし、浮かんでくる言葉や単語を、どんどん書き込んでいく。京都駅に到着する頃には、曲のイメージが出来上がっていた。
今度の曲のタイトルは【負けないと誓った夜】だ。
イメージとしては、全ての頑張る人へ贈る応援歌みたいな感じかな。
もうダメだと思った時こそ、スタートラインに立った時だ。どん底からのチャレンジだから、もう落ちることなんてない。恐れる気持ちを吹き飛ばし、拳を握り背筋を伸ばせ!って感じの曲。
この曲は、事務所に送らなくてもいいや。いつか死が身近に迫ってきたら、自分に向けて歌う曲にすればいい。
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