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13 3人が揃う時(2)
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◇◇ 中川 悠希 ◇◇
ガレイル王子がラルカンドを意識し始めたのは、自分の住んでいる離宮に遊びにこさせた後くらいからで、ラルカンドが上級生に付き合えと強引に迫られているところを、助けたあたりで完全に好きだと意識していた。
その想いが強くなり、告白しようとしていた矢先、ラルカンドは騎士コースのエイブ・リゼットンと付き合い始めてしまった。
元々ラルカンドとエイブは、同じ師匠に剣を習っていて、顔見知りだったようだが、ラルカンドが先輩から乱暴されそうになり、なんとか逃れて泣いている姿を見たエイブが、自分と付き合っていることにすればいいと申し出たらしい。
ガレイル王子は、そうラルカンドから聞いていた。
だから本当に付き合っている訳ではないと安心していたら、エイブが本気になった。
しかも束縛が酷く、ラルカンドにちょっかいを掛けた奴に、剣の決闘を申込み、ことごとく打ち破り勝利していった。
だがガレイル王子は、ラルカンドの方も本当にエイブが好きなのだろうかという疑念を抱いていた。
そこから先は。まだ夢の中に出てこない。
時々、エイブと対立している場面をチラリと見ることはあるが、ストーリーが繋がらないので、前後の話が分からない。
無理矢理ラルカンドに告白し、迫ったけど断られるシーンは、もう何度も見た。
繰り返し何度も何度も……その度に絶望して目が覚める。
【青い彼方】を聴いてから、あの残酷なシーンを見ることはほぼなくなった。
急いで自転車をこいだので、なんとか屋台の食べ物が残っている時間に到着できた。
山見高は県を代表する進学校で伝統もある。でも、校風は意外と自由だ。
文化祭だって、うちの野上学園より楽しい出し物も多いし、ユニークなTシャツをクラス毎に揃えて着ている。うちの学校だってお揃いのTシャツを着ているクラスはあったが、ユニークさでは勝てる気がしない。
「春樹、俺はピザをゲットするから、お前は飲み物を頼む。俺はコーラでいい」
屋台に行列ができていたので、俺たちは分かれて食べ物をゲットすることにした。
15分かけてピザを2人前買って約束の場所に戻ると、春樹を囲むようにして3人の男が立っていた。
どうやら同じ中学出身の友人らしいが、いい笑顔で話している春樹を見ると、心がザワザワしてしまう。
ただの友達だと思うのだが、ふざけて春樹のジュースを奪い、ストローで飲もうとする奴がいて、俺は「春樹お待たせ!」とやや大き目な声を掛けてしまう。
するとジュースを奪った男が残念そうに春樹を見て、俺を睨んできた。
その目は「邪魔すんな!」と語っていて、明らかに俺を敵視しているように見えた。
……なんだ、現世でも邪魔者は居るんだ。
俺が連れだと分かると、3人は「またな!」と春樹に声を掛けて去っていった。
「友達?」
「ああ、うん、中学の部活の先輩。昔は虐められたけど、卒業前は凄く優しくなってた」
「どいつ? どいつが春樹を虐めたんだ? ジュースを飲もうとしてた奴?」
「えっ? 見てたんだ。そうだよ。なんで分かったの?」
ベンチに座っていた春樹は、不思議そうな顔をして俺を見上げた。
こいつは前世も現世も、俺様系の男に好かれる体質なんだ……危ないじゃないか! しかも本人は無自覚で、相手の好意に気付かない鈍感。
俺は思わずフーッと大きな溜め息を吐いた。
「ただの感だよ。さあ食べよう。食べたら幼馴染みのクラスに行くんだろう?」
俺はそう言いながら春樹にピザを渡し、春樹が飲まれそうになっていた方のジュースを奪い、ストローを外して直ぐに飲んだ。幸い春樹もコーラを選んでいたので問題ない。
俺の今日の目的はデートだが、春樹の幼馴染みのことも気になっている。
もしかしたらエイブかもしれないので確認したい。
春樹は誰とも付き合っている様子はないので、まだエイブが覚醒していないだけかもしれない。幼馴染みは違うことを祈りたい。家も近いだろうし、春樹の話を聞く限りでは、過保護な兄ちゃんとか母ちゃんみたいな存在らしいから、独占欲の固まりみたいだったエイブとはタイプが違う。
……そもそも、本当にエイブまで現世に現れるのだろうか?・・・楽天的に考えたいがそれは無理だ。きっと現れる。絶対に側に、近いところに居るはずだ。
春樹の幼馴染みは啓太というらしく、サッカー部に所属し、大学は北大を目指している文武両道の男であり、春樹の保護者のような存在らしいので、きっと俺のことを警戒するだろう。
その警戒が、恋愛のライバルとして向けられるのか、保護者として品定めされるのかは、目と態度を見れば分かるだろう。
「啓太、お疲れさん。啓太のクラスはリサイクルショップだったんだな。なんかカードゲームとか懐かしいよ。お前は何を出品したんだ?」
「小学校の時に買わされた裁縫道具一式だ」
「ああぁ、確かに啓太には必要ないかもな。啓太んちのおばさん、家事のプロだったな。お前の小さい時の服なんか全部手作りだったし。あっ、今日は悠希先輩を連れてきた。先輩、こいつが幼馴染みで親友の啓太です」
春樹が嬉しそうに自分の親友を紹介する。
俺は努めて笑顔で「はじめまして」と軽く挨拶をして様子を見る。
「ああ、うちの春樹がお世話になってます。ヘタレな春樹を表舞台にあげていただき、ありがとうございます。これからも迷惑掛けると思いますが、よろしくお願いします」
それはそれは丁寧な挨拶である。とても親友とは思えない、まるで家族のような、保護者のような完璧な挨拶に、俺は思わず吹き出してしまった。
「お前は俺の兄ちゃんかよ!」
「何を言う春樹! お前はぽや~っとしてるんだから、親友として、代わりにきちんとお礼をしておかなきゃならないだろう。……んっ? 春樹、お前その服はどうした?」
「えっ?・・・ええ~っと・・・ええぇ~っと・・・」
春樹が物凄く困った顔をして言い訳を考えている。きっと俺から貰ったと言うと、叱られるに違いない。春樹にとって啓太は、確かに保護者枠で間違いないだろう。
だが啓太の方はどうなんだ? 親友の服までチェックをするとは、それだけ春樹のことを管理というか把握しているということだ。
「俺の弟の服なんだ。アイツは年に1度しかこっちに来ないし、既にサイズが合わなくなっているので、捨てるより春樹にって……強引に着せてみたんだが」
「へ~っ……新品みたいですが……これって、イタリアのブランドですよね? さすが王子さまは違うな。春樹、持つべきものは金持ちの先輩だな」
少し含みのある視線を俺に向けながら、服のブランドまで知っているとは、なかなか出来る奴のようだ。だが、王子ってなんだ? コイツは俺の正体を知っているのか?
「啓太、王子さまって言うな! 悠希先輩と呼べ!」
「だってお前が悠希王子っていつも言ってるから……ダメだったのか?」
「それは、俺の心の中で……いや、あの……う~っ」
なんか可笑しい。この2人の会話は、漫才みたいだ。
俺の方をチラリと見て、困ったように俯く春樹が可愛い。う~ってなんだよ?
コイツの前では、春樹が小動物に見える。俺の前で見せる態度とは違って、啓太には甘えてるんだな。
「ほっほ~、春樹は俺のことを王子だと思っているのか?そうか、苦しゅうない、王子である私に、あそこに出品してあるコースターを買ってまいれ。スタジオで使う」
「はっ?・・・ははぁ、承知しました悠希王子。直ぐに買って参ります」
俺に叱られなかったことを安堵した春樹が、少し照れながらコースターに向かって動き出す。
そんな可愛い春樹を目で追っていた俺の側に、啓太がスッと寄ってきた。
「顔に出てるぞ。アイツはバカみたいに純粋な奴なんだ。手を出したら許さない」
啓太は俺に視線は合わせず、春樹の方を向いたまま、鋭い棘を刺してきた。
「…………心配するな。俺はそんなことはしない。春樹が手を伸ばしてこない限りは」
油断できない奴だと直ぐに俺は悟った。
きっとコイツは、ずっとこうやって春樹を守ってきたのだろう。恋愛感情というより保護者のような感覚で。
コイツは、啓太はエイブじゃない! エイブなら、俺に春樹を近付けたりしない。
春樹がコースターを買ってきたので、俺たちは他のクラスを回ることにする。
「ああ、啓太くんも今度、スタジオに遊びに来いよ。まだ春樹以外の者を招待したことはないが、春樹の秘蔵映像を見せてやるよ。いや、生演奏の方がいいかな?」
「それは有り難いお言葉。ぜひ、お邪魔させていただきましょう」と応えて、啓太は臣下の礼をとった。
もしも啓太がラルカンドの話を聞いていたとしたら、俺をガレイル王子だと疑っているのかもしれない。やっぱりコイツは侮れない奴だ。
午後4時頃から、俺たちは体育館でバンドの演奏を聴いていた。
なんでも啓太の先輩がバンドをやっているらしく、春樹の友達もメンバーらしい。
最後の演奏順であるところから、それなりに出来るバンドなのだろう。
気になると言えば、そのバンドの話をする時の春樹が、妙に嬉しそうなことだ。
そして午後5時前、クラス当番を終えた啓太と合流し、春樹の応援しているバンドの演奏を聴くため、俺たち3人は少しでも前に出ようと移動を始めた。
プログラムを確認すると、最終組のバンド名は【空色パラダイス】だった。ネーミングとしてどうなんだろうかと俺は思ったが、名前より質の方が重要だ。ポンコツだったら春樹を近付けたくない。
そしていよいよ【空色パラダイス】の演奏がスタートする。
「ベースが伯です悠希先輩」と、春樹がベースの男を指差したので、俺は演奏を聴きながらその男を確かめるようとステージを見る。
その男の演奏する姿を見た瞬間、ザワリと心が波立った。
演奏はと言うと、ラストを飾るだけあって、これまでのバンドとは確かにレベルが違っていた。
1曲目はイギリスの昔のバンドの曲で、俺も好きな曲だった。
2曲目は、昨年流行ったアニソンで、会場が大盛り上がりになった。
ラストの3曲目のイントロが鳴った時、俺と春樹は驚きのあまり顔を見合わせた。
ガレイル王子がラルカンドを意識し始めたのは、自分の住んでいる離宮に遊びにこさせた後くらいからで、ラルカンドが上級生に付き合えと強引に迫られているところを、助けたあたりで完全に好きだと意識していた。
その想いが強くなり、告白しようとしていた矢先、ラルカンドは騎士コースのエイブ・リゼットンと付き合い始めてしまった。
元々ラルカンドとエイブは、同じ師匠に剣を習っていて、顔見知りだったようだが、ラルカンドが先輩から乱暴されそうになり、なんとか逃れて泣いている姿を見たエイブが、自分と付き合っていることにすればいいと申し出たらしい。
ガレイル王子は、そうラルカンドから聞いていた。
だから本当に付き合っている訳ではないと安心していたら、エイブが本気になった。
しかも束縛が酷く、ラルカンドにちょっかいを掛けた奴に、剣の決闘を申込み、ことごとく打ち破り勝利していった。
だがガレイル王子は、ラルカンドの方も本当にエイブが好きなのだろうかという疑念を抱いていた。
そこから先は。まだ夢の中に出てこない。
時々、エイブと対立している場面をチラリと見ることはあるが、ストーリーが繋がらないので、前後の話が分からない。
無理矢理ラルカンドに告白し、迫ったけど断られるシーンは、もう何度も見た。
繰り返し何度も何度も……その度に絶望して目が覚める。
【青い彼方】を聴いてから、あの残酷なシーンを見ることはほぼなくなった。
急いで自転車をこいだので、なんとか屋台の食べ物が残っている時間に到着できた。
山見高は県を代表する進学校で伝統もある。でも、校風は意外と自由だ。
文化祭だって、うちの野上学園より楽しい出し物も多いし、ユニークなTシャツをクラス毎に揃えて着ている。うちの学校だってお揃いのTシャツを着ているクラスはあったが、ユニークさでは勝てる気がしない。
「春樹、俺はピザをゲットするから、お前は飲み物を頼む。俺はコーラでいい」
屋台に行列ができていたので、俺たちは分かれて食べ物をゲットすることにした。
15分かけてピザを2人前買って約束の場所に戻ると、春樹を囲むようにして3人の男が立っていた。
どうやら同じ中学出身の友人らしいが、いい笑顔で話している春樹を見ると、心がザワザワしてしまう。
ただの友達だと思うのだが、ふざけて春樹のジュースを奪い、ストローで飲もうとする奴がいて、俺は「春樹お待たせ!」とやや大き目な声を掛けてしまう。
するとジュースを奪った男が残念そうに春樹を見て、俺を睨んできた。
その目は「邪魔すんな!」と語っていて、明らかに俺を敵視しているように見えた。
……なんだ、現世でも邪魔者は居るんだ。
俺が連れだと分かると、3人は「またな!」と春樹に声を掛けて去っていった。
「友達?」
「ああ、うん、中学の部活の先輩。昔は虐められたけど、卒業前は凄く優しくなってた」
「どいつ? どいつが春樹を虐めたんだ? ジュースを飲もうとしてた奴?」
「えっ? 見てたんだ。そうだよ。なんで分かったの?」
ベンチに座っていた春樹は、不思議そうな顔をして俺を見上げた。
こいつは前世も現世も、俺様系の男に好かれる体質なんだ……危ないじゃないか! しかも本人は無自覚で、相手の好意に気付かない鈍感。
俺は思わずフーッと大きな溜め息を吐いた。
「ただの感だよ。さあ食べよう。食べたら幼馴染みのクラスに行くんだろう?」
俺はそう言いながら春樹にピザを渡し、春樹が飲まれそうになっていた方のジュースを奪い、ストローを外して直ぐに飲んだ。幸い春樹もコーラを選んでいたので問題ない。
俺の今日の目的はデートだが、春樹の幼馴染みのことも気になっている。
もしかしたらエイブかもしれないので確認したい。
春樹は誰とも付き合っている様子はないので、まだエイブが覚醒していないだけかもしれない。幼馴染みは違うことを祈りたい。家も近いだろうし、春樹の話を聞く限りでは、過保護な兄ちゃんとか母ちゃんみたいな存在らしいから、独占欲の固まりみたいだったエイブとはタイプが違う。
……そもそも、本当にエイブまで現世に現れるのだろうか?・・・楽天的に考えたいがそれは無理だ。きっと現れる。絶対に側に、近いところに居るはずだ。
春樹の幼馴染みは啓太というらしく、サッカー部に所属し、大学は北大を目指している文武両道の男であり、春樹の保護者のような存在らしいので、きっと俺のことを警戒するだろう。
その警戒が、恋愛のライバルとして向けられるのか、保護者として品定めされるのかは、目と態度を見れば分かるだろう。
「啓太、お疲れさん。啓太のクラスはリサイクルショップだったんだな。なんかカードゲームとか懐かしいよ。お前は何を出品したんだ?」
「小学校の時に買わされた裁縫道具一式だ」
「ああぁ、確かに啓太には必要ないかもな。啓太んちのおばさん、家事のプロだったな。お前の小さい時の服なんか全部手作りだったし。あっ、今日は悠希先輩を連れてきた。先輩、こいつが幼馴染みで親友の啓太です」
春樹が嬉しそうに自分の親友を紹介する。
俺は努めて笑顔で「はじめまして」と軽く挨拶をして様子を見る。
「ああ、うちの春樹がお世話になってます。ヘタレな春樹を表舞台にあげていただき、ありがとうございます。これからも迷惑掛けると思いますが、よろしくお願いします」
それはそれは丁寧な挨拶である。とても親友とは思えない、まるで家族のような、保護者のような完璧な挨拶に、俺は思わず吹き出してしまった。
「お前は俺の兄ちゃんかよ!」
「何を言う春樹! お前はぽや~っとしてるんだから、親友として、代わりにきちんとお礼をしておかなきゃならないだろう。……んっ? 春樹、お前その服はどうした?」
「えっ?・・・ええ~っと・・・ええぇ~っと・・・」
春樹が物凄く困った顔をして言い訳を考えている。きっと俺から貰ったと言うと、叱られるに違いない。春樹にとって啓太は、確かに保護者枠で間違いないだろう。
だが啓太の方はどうなんだ? 親友の服までチェックをするとは、それだけ春樹のことを管理というか把握しているということだ。
「俺の弟の服なんだ。アイツは年に1度しかこっちに来ないし、既にサイズが合わなくなっているので、捨てるより春樹にって……強引に着せてみたんだが」
「へ~っ……新品みたいですが……これって、イタリアのブランドですよね? さすが王子さまは違うな。春樹、持つべきものは金持ちの先輩だな」
少し含みのある視線を俺に向けながら、服のブランドまで知っているとは、なかなか出来る奴のようだ。だが、王子ってなんだ? コイツは俺の正体を知っているのか?
「啓太、王子さまって言うな! 悠希先輩と呼べ!」
「だってお前が悠希王子っていつも言ってるから……ダメだったのか?」
「それは、俺の心の中で……いや、あの……う~っ」
なんか可笑しい。この2人の会話は、漫才みたいだ。
俺の方をチラリと見て、困ったように俯く春樹が可愛い。う~ってなんだよ?
コイツの前では、春樹が小動物に見える。俺の前で見せる態度とは違って、啓太には甘えてるんだな。
「ほっほ~、春樹は俺のことを王子だと思っているのか?そうか、苦しゅうない、王子である私に、あそこに出品してあるコースターを買ってまいれ。スタジオで使う」
「はっ?・・・ははぁ、承知しました悠希王子。直ぐに買って参ります」
俺に叱られなかったことを安堵した春樹が、少し照れながらコースターに向かって動き出す。
そんな可愛い春樹を目で追っていた俺の側に、啓太がスッと寄ってきた。
「顔に出てるぞ。アイツはバカみたいに純粋な奴なんだ。手を出したら許さない」
啓太は俺に視線は合わせず、春樹の方を向いたまま、鋭い棘を刺してきた。
「…………心配するな。俺はそんなことはしない。春樹が手を伸ばしてこない限りは」
油断できない奴だと直ぐに俺は悟った。
きっとコイツは、ずっとこうやって春樹を守ってきたのだろう。恋愛感情というより保護者のような感覚で。
コイツは、啓太はエイブじゃない! エイブなら、俺に春樹を近付けたりしない。
春樹がコースターを買ってきたので、俺たちは他のクラスを回ることにする。
「ああ、啓太くんも今度、スタジオに遊びに来いよ。まだ春樹以外の者を招待したことはないが、春樹の秘蔵映像を見せてやるよ。いや、生演奏の方がいいかな?」
「それは有り難いお言葉。ぜひ、お邪魔させていただきましょう」と応えて、啓太は臣下の礼をとった。
もしも啓太がラルカンドの話を聞いていたとしたら、俺をガレイル王子だと疑っているのかもしれない。やっぱりコイツは侮れない奴だ。
午後4時頃から、俺たちは体育館でバンドの演奏を聴いていた。
なんでも啓太の先輩がバンドをやっているらしく、春樹の友達もメンバーらしい。
最後の演奏順であるところから、それなりに出来るバンドなのだろう。
気になると言えば、そのバンドの話をする時の春樹が、妙に嬉しそうなことだ。
そして午後5時前、クラス当番を終えた啓太と合流し、春樹の応援しているバンドの演奏を聴くため、俺たち3人は少しでも前に出ようと移動を始めた。
プログラムを確認すると、最終組のバンド名は【空色パラダイス】だった。ネーミングとしてどうなんだろうかと俺は思ったが、名前より質の方が重要だ。ポンコツだったら春樹を近付けたくない。
そしていよいよ【空色パラダイス】の演奏がスタートする。
「ベースが伯です悠希先輩」と、春樹がベースの男を指差したので、俺は演奏を聴きながらその男を確かめるようとステージを見る。
その男の演奏する姿を見た瞬間、ザワリと心が波立った。
演奏はと言うと、ラストを飾るだけあって、これまでのバンドとは確かにレベルが違っていた。
1曲目はイギリスの昔のバンドの曲で、俺も好きな曲だった。
2曲目は、昨年流行ったアニソンで、会場が大盛り上がりになった。
ラストの3曲目のイントロが鳴った時、俺と春樹は驚きのあまり顔を見合わせた。
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