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第2話 舞踏会への招待状
しおりを挟むエミリアが婚約破棄されたという事実は、またたくまに広まった。
なにしろ侯爵家と公爵家の婚約破棄だ。国政にも関わってくる。しかも夜会という公の場で行われたのだから、話題にならないわけがない。
しかし、婚約破棄の原因がエミリアにあり、しかもそれが浮気や虐めという不名誉なものだった――と男爵令嬢ミーナが得意の虚言をかました――にもかかわらず、世間では意外にもエミリア寄りの意見が多かった。
理由はいくつかある。
まず、ミーナに虚言癖があるのがすでに一部で広まっていたこと。
ミーナはこれまでも数々の男に言い寄り、トラブルを引き起こしてきた。それを知るものたちは、ミーナが虚言癖でその言葉に信憑性がないことを知っていたのだ。だから今回も虚言なのではと疑い、自然とエミリア寄りの意見を出していたのだった。
次に、エミリアが国一番とも名高い模範的な令嬢だったことだ。
エミリアはその努力家な性格もあり、厳しい両親のもとで幼少期から淑女としてのあらゆる能力を極めてきた。そこにサファイアにも喩えられる美貌もあいまって、各所で令嬢の憧れとして名をあげられてきた。
エミリアはそんな評判に恥じぬ人間でいようとさらに努力を重ねたし、周囲にも分けへだてなく接し、人助けや慈善活動にも力をそそぎ、精力的に善行を積みかさねてもきた。
だから今回の浮気や虐めが事実だったとしても、完璧すぎたゆえに反動が出たのではとか、むしろエドワード側に原因があったのではとか、各所からエミリア擁護の意見が出たのだ。
まあ実際には浮気や虐めもなく、むしろ原因はあちらにあるのだが、こんなにも擁護意見が出るのは予想外で、さすがのエミリアも少し泣いてしまった。これまでエドワードにないがしろにされて自尊心がずたぼろだったが、報われた気がしたのだ。
……とにもかくにも。
そんなわけで婚約破棄後、エミリアを糾弾する意見と擁護する意見は半々といった調子だったのだ。
なので、家族の勧めもあって社交界には顔を出さずに引きこもりがちにはなったものの、エミリアはそれほど卑屈にならずに日々を過ごすことができた。むしろ信頼できる家族や使用人に囲まれ、好きな美容や化粧にも力をそそぐ余裕もでき、毎日楽しかったくらいだった。
だがいつまでも引きこもることもできない。エミリアがそろそろ社会復帰せねばと考えていたある日のこと、
「……舞踏会の招待状?」
見計らったかのように、王宮から舞踏会への招待状が届く。
「はい、一週間後に王宮で」
「困ったわね、いまのわたしと踊ってくださる殿方なんているわけないのに。差出人は王族のどの御方なの?」
「いえ、差出人の記載がなくて……」
招待状の仕立てを見るに、王族の誰かからなのは間違いない。しかし確かに差出人の記載はなかった。
(行きたくはないけれど……)
社会復帰が舞踏会は正直つらい。
通常の夜会ならば壁の花になっても目立たないのだが、舞踏会だと殿方と踊らねば否応なしに目立ってしまう。傷物となったいまの自分を誘ってくれるものがいるとは思えない。
しかも舞踏会ともなると、エドワードやミーナも出席するはず。
(王族のどなたからかはわからないけれど……招待状をもらって行かないわけにもいかないわよね)
だが王族からの招待というのは、通常それこそ生死に関わる病でもなければ拒否できぬもの。
婚約破棄で公爵家との縁がなくなり、ファーラット侯爵家はただでさえ王宮での立場が悪くなっている。ここでエミリアがさらに家の足を引っぱるわけにはいかなかった。
「ドレス……選ばなきゃ」
しかたなしと腹をくくり、ドレス選びを始めるエミリアだった。
「あ、お嬢さまドレスのことなら――」
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