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3章 シュレーディンガーの猫編
41..LOST EDEN (失楽園) ソレは呪いか?それとも罰か?
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金木猫商会の一室。
「調査?」
堂島が白いネコに向かって聞き返した。
巨大蟻都市。
幾つもの蟻の巣が集まって一つの巨大都市を形成している。
その中でサイド7と呼ばれる白いアルビノの女王1が治るこの地は比較的、他のサイドに比べ平穏だった。
商業も盛んで他種族が日常に行き交う街並みは活気に満ち溢れている。
相手の思考を読み取る蟻達にとって表面上友好的に見えても悪意、敵意などの類は文字通りお見通しであるため来るものは拒まずといったその精神が根強くこの地に浸透していた。
元々交易商人だった金木猫商会社長のこの白いネコもこの都市に腰を据えて随分と何月が過ぎ、今や夜の街やメインストリートの多くの店に関しては分社化して金木猫ホールディングスが関与し独立採算制を取っていた。
グループ会社の中には少々悪どい商売をする輩もいるにはいたが白い金木猫商会社長。
名前はアーサー。
彼の基本理念はホワイト経営がモットーだった。
「夜の店で働いてもらう予定だったニャがさすがに1人意外未成年はマズイにゃ!ましてやお酒を提供するとなると完全アウトにゃ!」
目の前に並んだ月斗達を見つめる。
「さっきからアホみたいにボーッと立ってるだけニャ、コレじゃいつまでたっても借金の回収が出来ないニャ……そこで3つほど仕事を頼みたいニャ」と前置きをしたあと
「コレは魔法使いである君らにはうってつけの依頼だと思うニャよ!」
「もちろんタダでとは言わないニャ!借金返済のうえ報酬としてたちまち怪我や体力回復する万能薬も用意するニャ!」
「クリソソの事…クリソソの事かーーーーーッ!」陸が突然大声で叫ぶ。
「エッ、急に叫んで何ニャ?」
「それと携帯用食料としてスパイシーな3倍」
「クソソソの事かーーーーーツ!」月斗が大声で叫ぶ。
「また!急に叫んで何?何かお約束みたいな事でもあるニャ?コワいニャ!」
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
アーサーの提案した一つ目の依頼が簡単な調査だという。
「詳しくは広場にいる情報屋に聞いてくれニャ」
2
アリの女王1たちのいる操縦席内。
『一体どんな状況なのだ?』
女王アリ1の質問に細身の身体に茶髪、心なしか人相も悪くなっている三原が応える。
「このノートに名前を書かれた人間は死ぬんです!ククッ」
『なぜそんなモノを⁈何の為に持って来た?それが今日のお届けものか?死のお届けとでもいうのか?』
女王1の戸惑いの思念が三原に向けられる。
「フフ拾ったんですよ。ここに来る前に偶然に」
三原がそう言うと慌てて梶が割って入った。
「三原さんノリノリのところすみませんが話しがややこしくなるので辞めてください!」
高校生に50近いオッサンが嗜められた。
「違いますよ!コレって多分ただの日記ですよ!」
自称魔王の姿をした梶が黒い表紙のノートをペラペラとめくり内容を確かめた。
「中読みますね!」
※
2014年9月14日
朝から参っちゃった。
いつも通り子供たちを幼稚園バスで迎えに行ったらなに?なに?この展開?訳わかんない?
ここって異世界なの?
異世界転生しちゃたの?
アラやだ!運転手のおじいさんたら、うっかり事故ってみんなで一斉に転生しちゃったのかしら?
運転手コラ――ッ!運転手のジジィ!コラァーーーーーーーーーーーーーッ!
って言ってもまぁ、しょうがないか!テヘ!
いやむしろ転生よっしゃああああああーーーーツ。
希望は悪役令嬢、もしくわ魔王の嫁候補来んかーーーーい!
だけれど姿カタチもそのまんま!
うーん、ガッカリ!
※
梶は大きな声で日記を読み上げた。
「人の日記を声を出してみんなの前で読んだ………?梶くん!君は悪魔か?」
「エッと一応魔王っていう設定でお願いします!」
梶はそう言うと更にページをめくる。
「コレってあの幼稚園の先生の日記ですよきっと!あの先生もぼくと同じ異世界転生願望者だったのか!ハハ」
梶はそう言って耳まで裂けたその口でニヤリと笑う。
『異世界転生願望者?』
女王アリ1が不思議そうに自称魔王の梶を見つめた。
「とにかく用事は済んだしコレを持ち主に返してあげないと」
3
泉穂波はかなり焦っていた。
「無い!無い!無い!無い!」
会場から一目散にさっき転んだ路地の曲がり角へと向かった。
落としたとすればあそこ以外には無いはず。
そう思って全速力でその場所に戻ってみたものの、大事な日記帳は見つからなかった。
「無い!無い!無い!無い!」
(アレを誰かに読まれたら……生きて行けない。)
(でも日本語で書いてるしこの世界の住人が読める訳無いか!)
(否ーーーーッ!)
(いっぱい居るやないか!来とるやないか!異世界転移した連中が!)
(堂島先生に会った時ここってどこなんですか?とか言ってみたけど知ってるよ!わかってたよ!思ってた異世界と全く違うけど!異世界に来たーーーってなったよ!マズイマズイマズイマズイーーーってアレを読まれたら!私がラノベ大好きなのがみんなに知られてしまうわ!そうなったら読んだソイツを殺して自分も死のう!てかこっちの世界で死んだらどうなるんだろう?異世界からの転生で元の世界に逆に戻れたりして!って言うてる場合か?)
ブツブツ独り言を言ってしまう。
そして穂波は我にかえり辺りを見渡した。
誰か目撃者は?
さっきのティッシュ配りの様なリンゴ配りの赤い頭巾の魔女がいる。
(何か知ってるかも知れない)
(でもリンゴを配ってる魔女って明らかに怪しく無い?てゆうか私にリンゴを食べさせて殺そうとした?)
(絶対毒リンゴだし!あんなの貰って食べる人なんていんのかしら?)
そう思って些か躊躇しながらも穂波は赤い頭巾の魔女に声を掛けてみる事にした。
3
梶と三原は用事があると言って操縦席から出て行く。
「助かったニャ、後でお礼をするニャ」
青いネコが2人に礼をいう。
2人が出て行くと
『それが今日のお取り寄せグルメか?』
アリの女王1が青いネコの届けた品物に目をやると
「左様でございますニャ!」
青いネコはそう応え手に持った袋の中から赤い果実を取り出した。
「この果実は皮ごとそのままかじってお召し上がりくださいニャ」
『フム、皮ごと食べるのか?』
「エエ、この果実にはポリフェノールと呼ばれる強い抗酸化作用があり、体内の活性酸素を除去して血流を改善したり、美白効果があると言われてますニャ!」
『これ以上美白になる必要は無いがな!フフ』
アルビノの女王アリ1は冗談めいて笑ってみせる。
彼女は初めて見るその赤い果実を手に取りジッと眺めた。
「表面を服の袖で擦ってもらうとツルツルになりますニャ」
言われるままにアリの女王1が擦ってみる。
アリの硬い外殻に擦れて果実の表面がグチャグチャになり中から汁が滴った。
『……………』
「失礼しましたニャ……なんならすりおろしても美味しいですニャ……」
慌てて青いネコは自分の柔らかい肉球のついた手で優しく果実の表面を擦る。
すると果実の表面に光沢があらわれた。
『おお!』
女王アリ1は表面が真っ赤に輝いた果実をしばらく見つめたあとゆっくりとかじりついた。
『美味い!酸味があり、それでいて瑞々しい!コレは何という名前の果実なのだ?』
女王アリ1の質問に青いネコは
「リンゴにございますニャ」と答えた。
気をよくして青いネコは
「ささっ!お嬢様もおひとつどうぞニャ」
袋からリンゴを取り出して娘の女王アリ2に手渡した。
「アリガトウ…デスノ」
女王アリ2も手にしたリンゴを眺め、優しく服の袖で擦ってみた。
リンゴは見事に真っ赤に輝く。
そして女王アリ2はゆっくりと果実にかじりついた。
と突然、女王アリ2は口を抑えその場にうずくまった。
隣にいた駿が彼女に駆け寄り背中をさする。
『一体娘に何をした⁈ランスロット!』
女王アリ1の怒りを露わにした強い思念がランスロットと呼ばれた青いネコの脳に突き刺さる。
「しっ、知らないニャ!」
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