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2章 Queen ANT (アリの女王編)
36. “Because he was a spoiled kid...”(ぼうやだからさ)(挿絵あり)
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どう言う訳か、珍しい組み合わせでアリの巣内にあると言う「とある店」の前に3人は居た。
一見仲の良い親子連れの様に見えなくも無いが親だとすれば若過ぎる。
それに親子で有れば子どもを真ん中に子供の手を片方ずつ親が繋ぐのが普通だが、彼らは明らかに異様だった。
真ん中のお父さん?。と言えば若すぎる。
彼の腕を片方ずつ奪い合う形で腕を組み3人はその店の前にに立ち尽くしていた。
そこで男が手にした地図を広げて言う。
「この店だ」
――――――――――――――――――――――――
2
女王アリロボの操縦席から出た月斗は巨人世界と御伽世界の情報を教えてもらう為に広場にいるとされる「キリギリスの人」を単独で探していた。
他のメンバーは色々と準備が必要ということでそれぞれが別行動を取る。
広場には目当ての「キリギリスの人」の姿は無く、通りかかった働きアリの話だと千里達がオモテナシを受けているという会場で演奏を行なってると言うことだった。
働きアリに会場の場所を聞き大急ぎでそこへ向かった月斗を待っていたのはいつもとは自分を見る目が明らかに違う南 千里とつり目の栗色の髪の毛の幼稚園児だった。
会場に辿り着き
「千里!無事だったか!」月斗が千里に声を掛ける。
その言葉を聞いた園児はツカツカツカッと月斗の腕を取ると
「私は「ミクニ」って言うの!キリギリスの人に用があるんでしょ?だったら行こう!月斗!」と言って月斗に満面の笑顔を向ける。
「王子⁈」
「そうよ!赤い車の助手席に乗った私の王子様!」
普通「王子」と言えば白馬では?と月斗は思うが
園児は月斗の腕を引っ張り会場から出ようとする。
そしてクルっと振り向くと呆気にとられていた千里に対してあかんべぇーという仕草をした。
それを見た千里も慌てて月斗に駆け寄りもう片方の腕をグッと掴みながら
「園児と2人では何かと危険だ!わ…私も行こう!」と言って俯き頬を赤らめる。
「フン!私と月斗の2人で大丈夫よ!オバさんはここで大人しく甘ったるいケーキでも頬張ってなさい!」
「オバっ!17歳の!わっ、割とスタイルには自信のある……じょ…女子高生に向かって何を言う!」
「フン!自分で自信があるだなんてよく言えるわね!それに月斗はそんな頭の悪そうな大っきいオッパイには一切興味が無いの!私みたいなのが好みなのよ!」
「ウッ!そんなに頭が悪そうなほど大きくも無い……が…そっ!そうなのか?」
そう言って千里は自分の胸を見下ろす。
「ここ1年で急成長してしまったのだ…だが、形は良いし、頭の悪そうな下品な感じではないのだけれど……ま…前の方が好みだったか……?」そう言って千里は月斗を見つめた。
「ちょっと待ってくれ!全く状況がわからないんだけど?」
「フン!まぁいいわ!月斗はキリギリスの人に用があってここに来たんでしょ?」
「あっ、ああ…でも何故それを?」
「ふふ…月斗の考えてる事はわかるのよ!チッパイが好きな事もね!」
千里が月斗にそうなのか?と言わんばかりの目で見つめる。
月斗は両手をあげフルフルと首を振った。
「フン!まぁいいわ。私もキリギリスの人からお使いを頼まれてるの!」
「ミクニ」と名乗った園児はそう言うと月斗の腕に一層力を込めて掴まった。
「お使いって?」と言う月斗に千里が
「エッと……歩きながら話そう!とにかくここへ向かうぞ!」
と言って千里は「とある店」への地図を見せる。
そしてここまでの経緯を話はじめた。
――――――――――――――――――――――――
3
会場内では
『全員メスゥーーーーーッ!ハーレムじゃ無いか!』
今橋心司の思考が会場内に流れ出す。
「今橋!相変わらず思考がだだ漏れだぞ!」
そう言ったのは同じ2年の太子橋だった。
『ああ、すまん!だが全員メスとは驚いた』完全に喋る気が無い様だ。
表情を変えずに完全に口を開けていない。
今橋の魔法は自分の考えてる事が周りに流れ出すという能力。
相手の思考を読み取る事が出来ない一方通行のテレパシーの様な能力だ。
自分がこのプライバシー無視の様な変な能力じゃ無くて良かったと会場内にいる誰もがそう思った。
しかも今橋に触れられた者は今橋同様、周りに思考が流れ出すと言う恐ろしい能力アップを果たしていた。
千里たちは女王アリのいる高い塔の扉に入り、目の前の巨大な女王アリの姿に驚く間もなく、地面に突然現れた魔法陣の効果よって一瞬目の前が明るくなり、気付くと別の場所へと移動させられていた。それがこの会場だった。
女王の部屋では終始無言だったアリの衛兵が広場で会話した様なそれぞれ色んな方言でフランクにアレやコレやと話かけてくる。
千里達はアリの衛兵たちにおもてなしを受ける。
アリの女王と対峙している月斗たちは無事かどうかと尋ねると、会場のVIPルームの様なところに通されて用意されたソファーにそれぞれが腰掛けた。
そして用意された大型のスクリーンに月斗達の姿が映し出される。
何やらこの映像はARIと呼ばれる(アームド.リアクタブル.インターフェイス)を介して操縦席と呼ばれる場所のマザーコンピュータと各所に配置されたズーム機能搭載の高画質カメラに連動していてあらゆる角度から月斗達の行動を終始モニタリングしていると説明された。
スクリーンの映像に合わせてBGMがいい感じに流れて来て臨場感を増す演出となっていた。
場面は千里達がアリの女王の塔から姿を消した後の様子だった。
画面いっぱいに月斗が映し出される!
「オレのの千里をどこへやった!」
スクリーンを見つめる南 千里が頬を赤らめる。
『邪魔物は消えて貰った!』
巨大な女王アリが月斗達に向かって右手に握った大剣を大きく振り上げ威嚇する!
「何だと!オレの千里(ちさと)に何かあったら許さねーーーーーツ!」
月斗は左手を前に突き出しグッと拳を握り絞める。
千里がグッと両手を合わせ祈る様なポーズでスクリーンを見つめる。
その横で他の園児達がキッズルームで遊ぶ中、1人栗色の髪の園児「ミクニ」だけが腕組みをしながら膨れっ面をしてスクリーンを見つめていた。
テーブルいっぱいに用意されたお茶と甘い香りを漂わせたケーキをひと口頬張ると
「甘いわね!」っと言ってフォークを置いた。
お口に合わなかった様だ。
クライマックス調の音楽がどこからともなく臨場感たっぷりに流れ出す。
『貴様らがのこのこ付いて来るからだ!』
アリの女王の無慈悲な感情がスピーカーから聞こえる。
「!!コイツ!許さんぞ!」月斗の怒りに満ちた顔がスクリーンいっぱいに映し出される。
「キャア!」
ほぼ同時に千里と栗色の毛の園児「ミクニ」が声を出し、お互い顔を見合わせる。
画面に見知らぬ文字でテロップが流れる。
(スクリーンを見るときは、部屋を明るくして離れてみるように)と。
「究極火炎弾ーーーーーツ!」
画面が明るく光を放つ。
月斗は女王に向かって走りだし右手に炎の球を作りだした。
またまた月斗のアップから派手な演出で炎の玉が女王アリの足元に命中する。
『おのれーッ!』
女王アリの怒りに満ちた思念がスピーカーから流れ出し。
『奴らを止めろ!』
女王アリの掛け声で床板の大理石が光を放ち魔法陣から出現した武装したアリの衛兵達が次々と月斗に向かって立ちはだかる。
千里と栗色の毛の園児「ミクニ」がスクリーンに釘付けになっている。
行手を阻まれた月斗の右側を素早く影が動き淡路 駿が衛兵に体当たりをして動きを止めた。
「サンキュー!駿」
月斗と駿がアップになり月斗の爽やかな笑顔と白い歯がキラリと光る!
「キャアーー!」
また千里と「ミクニ」が顔を赤らめながらお互いの顔を見合わせる。
月斗は勢い良く立ちはだかる衛兵の隙間をすり抜け女王アリに向かって
「究極地獄火炎弾ーーーーーツ!」
と叫んで炎の球を投げつけた。
炎の球が女王の足元に直撃し激しく燃え上がり勢いを増した。
「よし!効いてるぞ!」
女王アリの足元で月斗の地獄の炎が燃え盛る。
「やったぜ!」
さらに月斗のアップ。
千里と「ミクニ」がスクリーンに釘付けだ。
『衛兵ーーーーーツ!』
女王アリの悲痛な叫びと共に衛兵たちがさらに魔法陣から出現し月斗に迫る。
「大地伊吹ーーーッ!」
陸が片手を地面につくと床材が捲れ上がり礫となって衛兵達を弾き飛ばす。
月斗と陸が背中合わせになりながら
「やるか?」
「ああ!いつでもいいぜ!」
月斗は掌に火の玉を作り出すと示し合わせたかの様に陸が両手を地面に当てる。
足元の大理石の床がめくり上がり割れた破片を月斗の炎の玉がぶつかり礫となって目の前のアリの衛兵の硬い外皮をいとも容易く突き破り吹き飛ばす。
「オラオラオラオラーッ!」本庄 陸が叫びながら地面に拳を激しく叩きつける。
その一連の攻撃にアリの衛兵達が吹き飛ばされた。
「大地昇竜波ーーーッ!」
地面が凄い勢いで盛り上がり足元をすくわれた衛兵達がバランスを崩して倒れ込む。
道修 空太と淡路 駿の2人が機動力を活かして隙の出来た女王アリの元へと辿り着く。
「海龍咆哮ーーーーーッ!」
堂島 海里は右手に握った平刃の剣を掛け声の元、頭上に掲げた。
巨大な海龍が堂島 海里の頭上に現れ海龍は大きく息を吸い込み咆哮と共に辺り一面に海流が渦巻き次々とアリの衛兵達を渦の中へと飲み込んだ。
激しい水流に飲み込まれたアリの衛兵たちが姿を消し白衣と片手に剣を携えた堂島 海里が姿を現す。
ソファに座ってる泉 穂波が呟いた。
「あの白衣が勝つわ……」そう言ってスクリーンに映し出された堂島を食い入る様に見つめていた。
『弾幕薄いぞ!何をやっている!奴らを近づけさせるな!』
女王アリの思考がスピーカーから流れて来る。
衛兵達の抵抗を掻い潜って女王アリの元へと辿り付いていた淡路 駿と道修 空太の姿がスクリーンに映し出された。
「ここから中へ入れそうだ…」
空太と駿が指し示した場所へ堂島、月斗達全員が合流し巨大な女王アリの体内へと侵入を試みる。
スクリーンにエンドロールが映し出された。
今になって音楽がスピーカーからでは無く部屋の片隅から聴こえて来るのに気付いた。
今橋が音の聞こえる方を振り返ると先程広場にいたキリギリスが生演奏をしていた。
――――――――――――――――――――――――
4
「……………」
「……………………」
「…………」
「……………………」
「…………」
「…………」
「…………」
――――――――――――――――――――――――
5
『アリの衛兵、多っーーーーッ!』
今橋の思考にその場のみんなが同意した。
エンドロールが終盤に差し掛かり音楽も最高潮に達したところで
キィィィィーーーーーーン!と言う甲高い音と共に音楽が鳴り止んだ。
キリギリスの人が慌てて楽器の弦と弓をチェックする…………。
どうやらトラブル発生の様だった。
無音のままエンドロールがながれ続けていった。
――――――――――――――――――――――――
6
最後に場内アナウンスが流れた。
『音響担当のキリギリスの人の楽器がトラブルの為、この後予定していた「アナとアリの女王2」の上映はしばらく見合わせます。』と言う事だった。
スタンディングオベーションをしていた千里と「ミクニ」、そして泉 穂波が一斉に「エエーーーーーッ!」と言う。
『月斗ったらカッコ良すぎるんですけど!オレの千里だなんて言われたら続きが気になるんですけど!』千里の心の声が会場内に流れ出る。
『エッ、ナニ?ナニ?ナニ?ナニ?』
ハっとして千里は立ち上がってる自分の肩に今橋が手を置いているのに気付いた。
再開にはキリギリスの人の弦と弓を直す必要がある為「素材」の調達が必要だと言うことだった。
その直後、会場の扉が開き目の前に月斗が姿を現すと
「千里!無事だったか!」と声を掛けた。
「ミクニ」は千里がこれまでの経緯を語る中、ずっと月斗の心の声を聞いていた。
店の前に3人が到着する。
この様な珍しい組み合わせとなった。
事前に渡された地図を頼りに3人はその店がお目当ての店だとわかった。
「この店だ。」
月斗は持ってた地図を片手にそう告げた。
その店はアリとあらゆる珍しい「ある素材」を取り扱っているという。
色々な店が立ち並ぶ街の一角にその店は構えられていて店先には木製の看板が無造作に置かれていた。
道中色々な店があって気になる店も沢山あった。
まさかアリの巣の中にこの様な街。
しかもところどころアリ以外の種族の者が店を構えているのにも驚いた。
「中に入ってみよう。」
月斗はそう言うと硬い木製の扉を外側に引いて見る。
扉はビクともしない。
今度は押してみたがやはり動かない。
「留守か?」
千里が代わる。
どうやら扉は横にスライドするものの様だった。
「横にスライド多いな……」
「ミクニ」がクスリと笑う。
ゆっくりと3人が中に入ると店内にズラリと並んだ棒状のもの。
魔法使いが呪文を唱える時に使うような杖の様なもの。
杖といってもホントに細い。
狭い店内の壁やありとあらゆる棚にギッシリと棒状のものがところ狭しと並んでいた。
店内にはカウンターがあり、この店の店主らしい人物が酒の入ったグラスを片手に椅子に腰掛けていた。
アリでは無い種族。
男性の様だ。
男に月斗が尋ねる。
「どうしてこんなに色んな種類の棒状の物が?」と尋ねるとカウンターに座っているその男がグラスに入った酒を片手に持ちながら答えた。
「棒屋だからさ……」
「棒屋?って棒?棒の専門店なんですか?そんなストライクゾーンの狭そうな店、よく経営が成り立ちますね?」
店先に置かれていた看板の読めない文字にはどうやら「棒屋」と書かれていたんだな。と月斗は思った。
「棒の専門店にしては品揃えが乏しいな!」
千里がポツリと呟いた。
「なぁ月斗!何故エビフライが無いのだろう?」
「普通無いだろ?」
「いや、京華ちゃんが以前、「エビフライはタルタルソースを美味しくいただく為の棒ですのよ!」と言ってたんだ!」
月斗はそうなのか?と答えた。
♢♦︎♢♦︎
キリギリスの人から頼まれた「素材」をその棒屋で受け取ると3人は会場へと戻る。
帰り道。
終始、月斗の事を王子と呼ぶ「ミクニ」は
「月斗になら私の事「心愛」って呼び捨てにされても嫌じゃ無いわ!」と言う。
「ココア?」
「エエ!心愛よ!」
「これでさっきの続きが見れるな!」
2人の会話を無視して千里がワクワクして言う。
「続き?ってさっきの話の?」
「そうよ!これから月斗達がアリの女王の体内に侵入するとこからでしょ!」
「エッ………………!!!!」月斗は驚きあの後の出来事を想像して一瞬固まる。
ムリだ、見せて良いものじゃない!
「……………」
「子ども扱いしないで!」
ミクニ、いや心愛はそういうと吊り上がった目で月斗を睨んだ。
「…………???」
「言ったでしょ!月斗の事は何でもわかる!って」
「…………」
「そうよ…そのまさかよ!私を子ども扱いしたお詫びに……そうね!これからデートしてくれたら許してあげない事も無いわ!」そう言うと心愛は
「お姉さんはとっとと「コレ」をキリギリスの人に届けて来なさい!」
と言って手に入れた「素材」を指差した。
to be continued in Almost water (ほとんど水!)
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