Re:crossWORLD 異界探訪ユミルギガース

LA note (ら のおと)

文字の大きさ
上 下
19 / 48
序章〜観測者

19. I thought so too (そう思ってた)

しおりを挟む
「おい、千里!千里!」
 月斗がマイクロバスのシートで目を閉じていた南 千里に声を掛ける。

 狭いマイクロバスの中は甘い香が漂っていて車内の子どもたちだけでなく、目の前の南 千里と運転手までもが眠っていた。

「お姉さまが起きないんです!」
 といってマイクロバスから慌てて飛び出して来た天道 京華に呼ばれて月斗と顧問の堂島が駆けつけた。

「月斗!車内の窓を開けて換気をしろ!」と堂島に言われると口と鼻を押さえながら車内の窓を開けていった。

 空気が入れ替わり、車内を包んでいた甘い香が消え始める。
「何度揺すってもお姉さま、起きてくれなくって!」
 そう言うと天道 京華は心配そうに南 千里の顔を覗き込む。
「それにしても、お姉さまの寝顔!お美しいですわ!」

 言われてみると、橘 妃音とはまた違った美しさが南 千里にはあった。

 出会った頃の短めの髪と違い、髪を伸ばして一つに束ねている。中学時代は月斗よりも背が随分高くて手足も長く、ここ半年ほどで胸も大きく成長したのが余計に女性らしさを際立たせていた。

 部活でも授業でもずっと一緒にいた月斗だったがこんなに間近で南 千里の顔を!それも寝顔を見る事は無かった。
 どこででもすぐに寝れる、陸の寝顔はよく見てるけど。

 車内の空気が入れ替わったあと、もう一度月斗が千里の両肩に手を置いて声を掛ける。
「千里!」
 目を覚ました千里は目の前に現れた赤毛の少年の顔に気付くが夢の続きか?と思いしばらくまどろんだ。

 その間も月斗は千里の肩に両手を置いてしばらく名前を連呼した。

「!!!」
「月斗!」顔を赤らめ
「大丈夫か?千里!」

 他の6人の園児たちと初老の運転手も次々と目を覚まし始めた。

 目覚めた千里は、

「昔の…夢を見てたみたいだ…」そう言って月斗の顔を覗き込んだあと、すぐに目を逸らした。
「昔の…?」

「ああ、中学時代の…」

「そうか…身体は何とも無いか?」シートに座ったまま寝てしまっていた千里の肩に両手を置いたままの月斗の顔が近い。
 (ココココ…コレは…壁ドンならぬ、シートドン?月斗の顔が!!)
 千里の脳内は激しく動揺し月斗の顔をまともに見る事が出来ないでいた。

 思えばあの時の月斗の言葉が、今こうしてここにいる理由なのかも知れない。

「そ……それより…あの…顔が…近くて…まぁ…嫌いでは無いのだ…が」
 月斗の顔が目の前に近づいて、左目の下のホクロと赤茶色をした目と目があった。

 月斗も今の自分の状態に気付き慌てて肩から手を離した。

「お姉さま!大丈夫ですか?きっと、みんなが眠ってしまったのってわたくしのせいなんですわ!」後輩の天道 京華が心配そうに覗き込む。
「京華ちゃんありがとう…」と言って千里はその場で両手を上に上げて伸びをした。
 制服の上着を脱いで白いブラウスとリボン姿の千里の胸のラインがくっきりと目立つ。
「なんかすっごいスッキリしてる!それに気のせいか肌もツヤツヤになってる気がする!」と言って千里は自分の頬をぷにぷにした。

 確かに南 千里をこんなに至近距離でマジマジと見る事は無かったが月斗も思わず
「綺麗だ!」と声を漏らした。

 思わぬ言葉に千里は顔を赤らめ目の前に屈んで覗き込む月斗を思わず両手で突き飛ばしてしまう。

(何?何?何?何?サラッと歯の浮くセリフを言っちゃってんの?月斗?)

「イテテテ…」手足の長い千里の突きスナップが効いてかなりの攻撃力を放っていた。
「ご…ゴメン!」謝る千里に
「ホントにそう思ったから!」後頭部を押さえながら爽やかな笑顔でまたそんな事をサラッと言って来る。

(そうだった、いつも月斗はその時思った事をサラッと素直に言うんだった)

(そういうところに惹かれたんだった)

(それが私が中学から高校へそのままエスカレート式に進学する選択をせず、応徳学園高等部へ入学して、今ここにいる理由)

 もっと一緒に月斗とハンドボールをしたかった…それが理由だった。

 千里は月斗に手を差し伸べて

「早くこんな世界とこから帰って、ハンドボール一緒にするんでしょ?新キャプテン!」

「ああ、俺もそう思ってたんだ。」

 再び握った手があの時よりも一層逞しく感じた。

 髑髏の外では、太陽がまた低くなって夜が始まりを迎える。

 この世界に来て、24時間…丸一日が過ぎようとしていた。

――――――――――――――――――――――――
 
 2034年.9月13日 AM 7:20

 テレビからアナウンサーの声が聞こえてくる。

「続いて今日のトピックス」
 特集が終わりアナウンサーの口調が変わる。
「今日、9月13日は、2つの消息不明事件が起こった日です。20年前の今日と10年前の今日、全く同じ日に起こったこの事件。いずれも何の情報も無く未解決のまま、月日だけが虚しく流れました。」神妙な面持ちでアナウンサーが話を続ける。

「………10年前、私は当時、西宮市のハンドボール部員たちの学校を取材しました…。中学時代全国大会で優勝を目前に彼らは棄権。その後、そのメンバー達は中等部を卒業し高等部で新体制となり合宿会場へ向かう途中での出来事でした。彼らは一度も公式の大会に参加出来ないまま、時間だけが過ぎました。……もし…彼らがどこかで無事で……いえ……無事である事を願うばかりです。では一体、彼らはどんな気持ちで長い長い時間を過ごして来たのでしょう?」
 
 アナウンサーの震えた声とともに映像が続いてながれた。

――――――――――――――――――――――――

 巨人世界ヨトゥンヘイム

「先生!そろそろ探索とか始めた方が良く無いですか?何やかんやで、あっと言う間に丸一日過ぎましたよ!」

「そうだな、何やかんやで、お前らの使えない魔法のうりょくも、ほぼほぼ理解出来たしな!明るくなったら出発だ!」

 陽が完全に沈み、灰色の月が低い位置で鈍く光っていた。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

俺だけ2つスキルを持っていたので異端認定されました

七鳳
ファンタジー
いいね&お気に入り登録&感想頂けると励みになります。 世界には生まれた瞬間に 「1人1つのオリジナルスキル」 が与えられる。 それが、この世界の 絶対のルール だった。 そんな中で主人公だけがスキルを2つ持ってしまっていた。 異端認定された主人公は様々な苦難を乗り越えながら、世界に復讐を決意する。 ※1話毎の文字数少なめで、不定期で更新の予定です。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

処理中です...