Re:crossWORLD 異界探訪ユミルギガース

LA note (ら のおと)

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序章〜観測者

1.巨人世界 (挿絵あり)

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 気がつくと目の前には見知らぬ光景が広がっていた。
 バスの車内にいる生徒たちが窓から見える異様な光景に驚いている。その中の1人が日向月斗ひゅうがげっとだった。
「どこだここ?」
 自然と出た言葉に
「アレを見ろ」と声を掛けて来たのは同じ部の本庄ほんじょうりくだった。
 外は薄暗い。月斗げっとは自分のスマホで時間を確認する。
 am9:15
「スマホも圏外だ」
 時計は機能していた。
 am8:00ちょうどにバスは西宮市にしのみやしを出発し名神高速めいしんこうそくを京都方面へ北上していた。
 出発から1時間と少ししか経っていない。
 だがここは間もなく陽が沈みそうなくらい太陽が低い位置にある。
 目の前には大きくそびえ立つ建物?
 いや大木か?
 大木と一言で言い表せる様なものでは無い。
 まるで地面に深く突き刺さった巨大な戦艦か空母か何かに幾つものつたが幾重にも折り重なりあって高くそびえたっていた。先端が見えない程、天まで伸びている。

 枝の一つ一つもまるで背の高い街路樹の様に大きく葉っぱの一枚一枚がたたみ一畳いちじょう分ほどの大きさだった。

 どうやら運転手も含め全員意識を失ってた様だ。
 運転手はハンドルを握ったままうつむいて身動き一つしない。
 まさか死…?という言葉が月斗げっとの脳裏によぎった。
 いや大丈夫な様だ。

 運転手は月斗げっとの心配をよそにゆっくりと上体をあげ欠伸をした。

 良かった。誰か怪我人は?

 月斗が周りを見渡すと運転席斜め後ろに座っていた部の顧問で物理教師の堂島どうじまが立ち上がり
「落ち着けみんな無事か?」
 と車内の生徒たちに声を掛けた。
 停車したバスの窓から見上げる大木とは反対側の窓が急に明るくなった。
 ヘッドライトに照らされてる様子だ。
 一台の車が突如現れバスに猛スピードで突っ込んで来る。
 車は砂埃を巻き上げながら月斗たちの乗るバスの数メートル手前で停まった。

 間一髪。

 あわや、大惨事となるところだった。
「様子を見て来る、お前たちはここで待っておけ!」
 堂島はそう言うとバスの運転手と共に車外へ出て行った。
―――――――――――――――――
        2
 カーラジオから9:00のお知らせが流れる。
 私は高速道路を時速90キロで車を走らせトンネルに入る手前でブレーキに足をかけ少し減速をしていた。
 トンネルに入るとヘッドライトを点灯させる。
 同じ車線の約200メートルほど前を観光バスが走行している。
 トンネルに入り目が慣れだすと前方を走るバスが突然目の前から消えた。

 !!!!
 かと思うと突然私の周りの景色が変わり前方にバスが横を向いて停まっている。
 !!!!!
 慌ててブレーキを勢いよく踏み込む。
 ザザザザザ―――――――――

 私の車はバスの手前数10メートルといったところで停車した。
 間一髪で衝突を免れた。ある程度、車間距離を取っていて良かった。
 でなければ今頃赤いクーペはバスの側面に激突していた。

 当然、私もバスの乗員乗客も無事では済まないだろう。ハンドルを握ったまま呆然としながら私は鼓動が早くなり、背中に汗がじんわりと滲んだ。
 そして喉がひどく乾くのを感じた。

 ドリンクホルダーに置いていたペットボトルの水を手に取り乾いた喉を潤す。

 少し落ち着きを取りもどした。それにしてもこの目の前にそびえ立つ大木は何だ?
 まるで私の身体が縮んでしまい昆虫にでもなったかのような感覚が芽生える。
 公園樹の様な大きさの枝は風に煽られる度、葉っぱがこすれ合いすごい音がする。

 トンネルに入る直前まで高かった太陽がずいぶんと低い位置に移動していた。

 赤く染まった陽の光に照らされた高い木の陰が長く伸びきっている。

 気温もぐんと下がり、夜が始まろうとしていた。
 私は時間を確かめた。
 AM9:16

 バスから2人の男が会話をしながら私の車に近づいて来る。
 ハンドルを握りいつでも車を出せる様エンジンは切らずにいた。

 用心の為、窓をほんの少し開ける。男たちは自分の顔を見て少し驚いた様な反応をするが

「大丈夫ですか?」と声をかけてくれた。1人はこのバスの運転手なのだろう。
 手には白い手袋と青い制服。ネクタイ、それに頭にはキチンと帽子を被ってた。
 もう1人はサングラスで目は見えないが随分と整った顔立ちをしていて年の頃は30代といったところか?
 手に持つ竹刀がやけに気になる。服装がクソダサいのもすごく気になる。

 どこで買ったのソレ?
 よく見るとサングラスも鏡の様で今時見ないタイプのものだった。私の「ここはどこでしょう?」の質問に

「さぁ、さっきまで天王山てんのうざんトンネルを走ってたら急にこんなところに……ナビにも、携帯の地図アプリにもこんな場所載ってないですね。連絡を取ろうにもスマホも使えないですし。」

 運転手の男がそう答えた。
「そうですね。取り敢えず状況を確認する為に大きなこの木の周りを回ってみましょうか?車動かせますか?」
 運転手がそう提案した時、バスから生徒が2人降りて来た。派手な髪の2人。

 1人は赤い髪の毛でもう1人は金髪リーゼントだった。校則とか大丈夫?その頭髪!
 その2人に向かって若い男が手に持つ竹刀を振り回しながら

「おい、月斗げっと!りく!勝手に降りて来るな!危ないだろ!」
「すみません!でも先生、部員たちに状況を説明しないと!」言ってる事はすごくまともだった。

 サングラスの男は先生と呼ばれている。先生なんだ!竹刀振り回すって昭和か?令和にソレって色々まずくないの?
「そうだな!今のところ何もわからん!お前らも戻れ!」と言いながら若いクソダサい服装の先生がバスに戻る。
 金髪の生徒と運転手がそれに続く、私も車を移動させるためブレーキペダルから足を離しアクセルをゆっくり踏み込んだ。

 ガガガガガ――――――――
 タイヤが空転する音が少し開いた窓から聞こえる。周りに砂埃がたちこめた。       砂埃で視界が悪くなりバスがゆっくりと走り出す。

 ウィイイィィーン!ウィイイィィーン!

 巨木の根にタイヤが挟まって空転している様だ。
 私はバスの後を追うためにアクセルをなおもゆっくりと踏み込む。
 ダメだ…降りて確かめようとするところ赤毛の生徒が私の車に駆け寄り手にしていたタオルを太く手頃な板状の棒に巻き付け、空転するタイヤと巨木の根っ子の間に差し込んだ。咄嗟の判断が早い。
 ガガッ!ガガッ!
 後輪が勢い良く木の根を乗り上げ車は動いた。
 助手席の窓を少し下ろして
「乗って!」と私は中から赤毛の生徒に声をかけた。
 彼も私の姿を見て少し驚いてる様子だった。
―――――――――――――――――
                                  3

 月斗は運転席に座っているのが若い女の人だと予想してなかった。
 日本人らしからぬ、亜麻色の髪に整った顔立ち。
 切れ長の目と長い睫毛がとても印象的だった。
 まるでファンタジー映画やアニメに登場する魔法を使う種族って?何て言ったっけ?確かエルフか?

 だが……服装は童貞のオレを一撃で殺してしまいそうな真っ赤なセーターを着ている。



 言われるままにオレは助手席に乗り込むと目の前のエルフ?の女性は
「シートベルトしてね!」と言った。
 助手席に乗り慣れないオレがシートベルトの付け方に戸惑っているとオレの目の前に彼女の綺麗な顔が近づく。そしてオレの肩に手を回して来た。

 え?キスされる?


 わけでは無かった。彼女はシートベルトをはめてくれたのだ。
 彼女の髪のいい香りが車内に漂う。
 バスはどうやらオレを残して走っていった様だ。
 綺麗なエルフ?のお姉さんとオレが赤い車に取り残された。
「後を追うわよ!しっかり掴まって!」
 そう言って彼女の運転する赤いクーペは予想とは違いゆっくりと走り出した。

 安全運転なんだな!
――――――――――――――――――――――――
 
 男子高校生の月斗げっとにとって初めて女性と2人きりで車に乗る心境とはどういうものなのか?
 クラスの中でも部活においても1軍の月斗げっとではあるが、この経験は初めてだった。心臓がバクバクし、顔がほてっているのが自分でもわかる。
 赤いクーペは、バスの後をゆっくりと追った。前を走るバスは巨木の周りをゆっくりと時計と反対周りに進んでいく。
「さっきはありがとう。私、橘妃音たちばなひめのきみは?」
 彼女の大きな瞳が高校生男子に向けられる。
「お…俺、日向月斗ひゅうがげっとって言います!16…いや17歳!」
 歳は聞いてないのにっと言いたげに妃音ひめのがクスッと笑う。

 さっきまでの緊張がほぐれてくると喉が渇いてくる。
「大丈夫?どこか怪我した?」
 月斗げっとは少し痛みを感じる右手をさすりながら大丈夫ですと返す。
 少し息も、あがってる様だ。
月斗げっとくん、喉、渇かない?これ!私ののみさしで良ければ!」
 といってドリンクホルダーのミネラルウォーターを差し出した。
 間接キス…? 
 共学とはいえ女生徒の少ない高校生男子にとって年上女性とのこのシチュエーションにさらに鼓動が高なった。
 心臓の音が妃音ひめのさんに聞こえるんじゃないか?
 と鼓動の音を押さえるように渡されたミネラルウォーターに口をつける。
 飲み終えるとあわてて、飲み口を手で拭き取る仕草を無意識にしていた。
 その仕草を見てクスッと妃音ひめのが笑った気がする。

 シフトレバーをDドライブに移動させ、妃音ひめのは赤いクーペを走らせる。
 ハンドルを握る妃音ひめのの爪は綺麗に手入れされ朱色のマニキュアが塗られていた。
 妃音ひめのの爪をぼんやり眺めながら
『朱色って英語でなんて言うんだっけ?』
と考えていると
「バーミリオンよ」と妃音ひめのが答えた。
「オレ、声出てました?」
 彼女はそれに答えず黙ってハンドルを握ったまま前を向きニコリと笑っている様だった。

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