トライアングルパートナー

窓野枠

文字の大きさ
上 下
187 / 190
第32章 純子の構想

10

しおりを挟む
 隣に立つ課長に視線を向ける。  
 課長は私の視線を受けて、「佐々木くんに僕の姿は見えてないよ」と言った。そして証拠を見せるように自分のデスクの引き出しを開ける江里菜の傍に行き、 課長は江里菜の肩を叩き、「佐々木くん、久しぶり」と声を掛けた。 
 江里菜は全く無反応に引き出しの中を漁っていた。 

「あった! やっぱりここだったんだ」  
 江里菜が独り言のように言った。 

「じゃあ、帰ります。お疲れ様でした」  
 江里菜がドアに向かって歩き出した。 

「あの、佐々木さん」 
「何ですか?」  
 江里菜が振り向いた。 

「見えない?」  
 視線を課長の方に向けた。  
 課長は笑顔を浮かべて江里菜の前に立ち、バンザイをしたり、ジャンプしながら、「やあ、佐々木くん、僕の事見える?」と聞いた。 

「何を?」  
 江里菜がきょとんとした表情を浮かべた。 

「佐々木さん、本当に見えないの?」 
「だから何をです?」  
 江里菜が眉を寄せる。 

「えーと、その課長……」 
「課長?」 
「いえ、あの、くも。佐々木さんの肩に小さな蜘蛛が」
「えーっ、ヤダー!」  
 江里菜が凄い勢いで肩を払った。 

「ねえ、取れました? 取れました?」
「は、はい。取れました」 
「びっくりした。じゃあお先に」  

 江里菜がオフィスを出て行った。  

 課長がこっちを向いた。 

「ね、島本くんにしか僕は見えないんだよ」 
「なんでですか?」 
「それは僕にもわからない。残念ながら娘も、両親も兄弟も僕に気づかなかったんだ。 もしかして島本くん、霊感が強いんじゃない? 時々、僕みたいな死んじゃった人見える事があったりしない?」 
「しませんよ。死んじゃった人が見えたのは課長が初めてです」 
「うーん、そうか」  
 課長がポリポリと頭をかく。 

「後はあれかな」  
 課長が小声で言った。 

「あれ?」 
「いや、何でもない」 
「何です? 気になります」 
「いや、いいんだ」 
「教えて下さい」 
「だから、何でもないって。そんな事より早く仕事を終わらせなさい。今はあまり残業ができないだろ」  
 急に課長が上司の表情をした。 
 渋々パソコンに向かった。  
 課長は自分の席だった所に座り、腕を組んで何かを考えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夜の森と小さな勇気

カルラ アンジェリ
大衆娯楽
小6の結衣(ゆい)は林間学校の肝試しで恐怖のあまり失禁してしまう そしてその夜におねしょまでしてしまい……

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

研修医と指導医「SМ的恋愛小説」

浅野浩二
恋愛
研修医と指導医「SМ的恋愛小説」

処理中です...