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第29章 慶子の悩み

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 固まっていた慶子は純子に促されるままに立たされ進一の前に進まされた。進一の前に来ると純子は慶子にささやく。
「さあ、ひざまずいて……」
 純子は慶子をひざまずかせると、純子は慶子の腕を離し、進一の横に移動し体を慶子に向けさせた。
「こんな会議室であなたのものを食べてるなんて、あたしたちって、そうとうな美食家かしら?」
 進一は純子にいつものように刃向かえない。それでも、なんとか言葉を発した。
「いけないよ、だめだよ、こんなことをしたら、ぼくたちはおしまいだよ…… こんな純子、だめだよ」
 あわてる進一を見て純子は満足そうに言った。すでに、お弁当を食べていた昼の人格・純子は消え完全な夜の人格・潤子だった。
「そうね、ここは会議室だから、ドアに鍵がかからないものね。だれかがドアを開けたら…… きっと、びっくりするわねぇー」
 純子の言葉を聞いて、進一の足が震えていた。進一には、この震えが破綻する前の恐怖なのか、慶子によって受ける悦楽への期待による震えなのか分からなかった。
 慶子はあの時の状況を思い出すと、やはり体が熱くなってきた。職場で進一と仕事をしていると、あの日があったからあたしたちの幸せがあるのだと思う。これも佐々木慎之介の応援によるところが大きい、と慶子は思う。このところ、慎之介のゲーム店へ足が遠のいてしまっていたことに気が付いた。決して慎之介を忘れていたわけではない。慎之介も好きだ。けれども、係長との幸せな時間に集中していただけだ。進一も好きだ。慶子は、体が2つに分けることができたらいいのに、とできもしないことを想像してがっかりした。慶子は慎之介が言っていた多情愛に自分の愛は当てはまるのか訊いてみたくなった。そう思ったら早く慎之介に会いたくなった。
 慶子はベッドから立ち上がると、外出用の服に着替え始めた。ここであれこれ悩んでいても仕方ない。慶子は慎之介のいるゲーム店を久しぶりに訪れることにした。

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