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第21章 初恋
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「だから、それが恋なのでは?」
夜の潤子がツッコミを入れる。なるほど、心当たりがある、と昼の純子は思う。室長席に座って執務をしていていると、壁の向こうに座る植木はいるのか、と気になり彼の姿を思い浮かべることがあった。そんなとき、どうでもいい一個人のことを考えている自分に嫌悪して、純子は頭を左右に振って、植木という邪念を追い払う。あわてて、脇に積まれた起案文書の山に取り掛かった。純子にとっては、特定の人間に愛を傾注している、今までにない、信じられない行動であり、感情だった。
純子は今までどうしてフツメンの風采の上がらない進一を好きになったか10年以上、理由が分からなかった。知らない、納得できないうちに進一と交際し結婚に至った。それは、夜の人格・潤子が好きになった人だったのだ、と合点した。
「えぇっ? では…… あたしは植木さんが…… 好きなんだ?」
純子はそう気がついたとき、植木係長がドアから入ってきた。
「すみません、席を外しておりました。何か、御用でしょうか?」
いつものように室長室に入ってきた植木は、純子が室長席にいないので無言で周囲を見回し、後ろを振り向いた。壁に引っ付いて身動きしない純子を見つけると、植木は驚いたように声を出した。
「室長、そんな壁に寄り掛かって、ご気分が悪いのでしょうか? お顔の色もすぐれないようです、大丈夫ですか?」
植木は純子に歩み寄ると、素早く純子の上体を両手で支えた。植木を好きになったことを認識したばかりの純子は、意識した植木に体を支えられたものだから余計体が硬直した。さらに、心配する顔で迫る植木に、純子は何と答えたらいいのか、どう行動したらいいのか分からず、押すように寄りかかった壁から体が動かせなかった。顔がこわばって言葉も出せない。即決、速攻、行動は前進の準備、という理念を持ったバリバリのキャリアウーマンである42歳の純子、遅咲きの恋だった。
夜の潤子がツッコミを入れる。なるほど、心当たりがある、と昼の純子は思う。室長席に座って執務をしていていると、壁の向こうに座る植木はいるのか、と気になり彼の姿を思い浮かべることがあった。そんなとき、どうでもいい一個人のことを考えている自分に嫌悪して、純子は頭を左右に振って、植木という邪念を追い払う。あわてて、脇に積まれた起案文書の山に取り掛かった。純子にとっては、特定の人間に愛を傾注している、今までにない、信じられない行動であり、感情だった。
純子は今までどうしてフツメンの風采の上がらない進一を好きになったか10年以上、理由が分からなかった。知らない、納得できないうちに進一と交際し結婚に至った。それは、夜の人格・潤子が好きになった人だったのだ、と合点した。
「えぇっ? では…… あたしは植木さんが…… 好きなんだ?」
純子はそう気がついたとき、植木係長がドアから入ってきた。
「すみません、席を外しておりました。何か、御用でしょうか?」
いつものように室長室に入ってきた植木は、純子が室長席にいないので無言で周囲を見回し、後ろを振り向いた。壁に引っ付いて身動きしない純子を見つけると、植木は驚いたように声を出した。
「室長、そんな壁に寄り掛かって、ご気分が悪いのでしょうか? お顔の色もすぐれないようです、大丈夫ですか?」
植木は純子に歩み寄ると、素早く純子の上体を両手で支えた。植木を好きになったことを認識したばかりの純子は、意識した植木に体を支えられたものだから余計体が硬直した。さらに、心配する顔で迫る植木に、純子は何と答えたらいいのか、どう行動したらいいのか分からず、押すように寄りかかった壁から体が動かせなかった。顔がこわばって言葉も出せない。即決、速攻、行動は前進の準備、という理念を持ったバリバリのキャリアウーマンである42歳の純子、遅咲きの恋だった。
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