121 / 190
第21章 初恋
3
しおりを挟む
「だから、それが恋なのでは?」
夜の潤子がツッコミを入れる。なるほど、心当たりがある、と昼の純子は思う。室長席に座って執務をしていていると、壁の向こうに座る植木はいるのか、と気になり彼の姿を思い浮かべることがあった。そんなとき、どうでもいい一個人のことを考えている自分に嫌悪して、純子は頭を左右に振って、植木という邪念を追い払う。あわてて、脇に積まれた起案文書の山に取り掛かった。純子にとっては、特定の人間に愛を傾注している、今までにない、信じられない行動であり、感情だった。
純子は今までどうしてフツメンの風采の上がらない進一を好きになったか10年以上、理由が分からなかった。知らない、納得できないうちに進一と交際し結婚に至った。それは、夜の人格・潤子が好きになった人だったのだ、と合点した。
「えぇっ? では…… あたしは植木さんが…… 好きなんだ?」
純子はそう気がついたとき、植木係長がドアから入ってきた。
「すみません、席を外しておりました。何か、御用でしょうか?」
いつものように室長室に入ってきた植木は、純子が室長席にいないので無言で周囲を見回し、後ろを振り向いた。壁に引っ付いて身動きしない純子を見つけると、植木は驚いたように声を出した。
「室長、そんな壁に寄り掛かって、ご気分が悪いのでしょうか? お顔の色もすぐれないようです、大丈夫ですか?」
植木は純子に歩み寄ると、素早く純子の上体を両手で支えた。植木を好きになったことを認識したばかりの純子は、意識した植木に体を支えられたものだから余計体が硬直した。さらに、心配する顔で迫る植木に、純子は何と答えたらいいのか、どう行動したらいいのか分からず、押すように寄りかかった壁から体が動かせなかった。顔がこわばって言葉も出せない。即決、速攻、行動は前進の準備、という理念を持ったバリバリのキャリアウーマンである42歳の純子、遅咲きの恋だった。
夜の潤子がツッコミを入れる。なるほど、心当たりがある、と昼の純子は思う。室長席に座って執務をしていていると、壁の向こうに座る植木はいるのか、と気になり彼の姿を思い浮かべることがあった。そんなとき、どうでもいい一個人のことを考えている自分に嫌悪して、純子は頭を左右に振って、植木という邪念を追い払う。あわてて、脇に積まれた起案文書の山に取り掛かった。純子にとっては、特定の人間に愛を傾注している、今までにない、信じられない行動であり、感情だった。
純子は今までどうしてフツメンの風采の上がらない進一を好きになったか10年以上、理由が分からなかった。知らない、納得できないうちに進一と交際し結婚に至った。それは、夜の人格・潤子が好きになった人だったのだ、と合点した。
「えぇっ? では…… あたしは植木さんが…… 好きなんだ?」
純子はそう気がついたとき、植木係長がドアから入ってきた。
「すみません、席を外しておりました。何か、御用でしょうか?」
いつものように室長室に入ってきた植木は、純子が室長席にいないので無言で周囲を見回し、後ろを振り向いた。壁に引っ付いて身動きしない純子を見つけると、植木は驚いたように声を出した。
「室長、そんな壁に寄り掛かって、ご気分が悪いのでしょうか? お顔の色もすぐれないようです、大丈夫ですか?」
植木は純子に歩み寄ると、素早く純子の上体を両手で支えた。植木を好きになったことを認識したばかりの純子は、意識した植木に体を支えられたものだから余計体が硬直した。さらに、心配する顔で迫る植木に、純子は何と答えたらいいのか、どう行動したらいいのか分からず、押すように寄りかかった壁から体が動かせなかった。顔がこわばって言葉も出せない。即決、速攻、行動は前進の準備、という理念を持ったバリバリのキャリアウーマンである42歳の純子、遅咲きの恋だった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説



百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる