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第21章 初恋
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総務課の会議室から戻った今田純子は、危機管理対策室長席に座ると、会議室であったことをまるで覚えていないように平然と執務を開始した。
「小山内慶子さんか、かわいい方ね、お弁当が美味しかったわ。あら? なんで会議室まで出向いてお弁当をいただいてきたのかしら? あの二人があそこで食べていることをどうして知ったんだっけ?」
純子は、昼休み、自分はなぜ会議室にまで行き、夫とその部下の食事に、どんな切っ掛けで加わったのだろう、と疑問に思った。
「あっ、夫が不倫をしているという電話があって…… 乗り込んで行ったんだわ」
純子は思わず大きな声を上げてしまってから開け放たれたドアを見つめた。また、声を聞きつけた植木係長が駆け込んで来るような気がした。いや、いつものように駆け込んできて、顔を見せてほしかった。最近、記憶が飛ぶことが多い。植木さんに相談したほうがいいかしら、と思い始めていた。例の口調で植木が入ってくる。
「室長、お呼びでしょうか?」
2秒ほど、待ったが、植木は都合よく来なかった。純子は席を立ちドアまで歩いていくと、ドアの陰からそっと植木のいる席をのぞいた。
「植木さーーん」
純子は心中で叫びながら見るが、植木は席にいなかった。彼は離れた場所で米田危機管理収集係長と立ったままで話していた。米田と書類を間に話していた植木は、顔をこちらに向けた。すぐに純子がのぞいている姿を見つけたようで、米田との話を終わらせたようだ。米田が植木に「また、あとで」と言っているのが聞こえた。植木がこちらに体を向けた。
「室長、すぐに参ります……」
遠くから見た純子には、植木がそう言ったように聞こえた。純子はあわてて頭を引っ込めた。おでこと目しか出していないはずなのに、植木は目ざとく純子を見つけた。純子はなぜ、あれだけ頼っていた植木に遠慮するようになってしまったのか、自分で理解できなかった。職員の感謝の慰労会をしようと、植木に相談したら、早速、打ち合わせをしようとなり、せっかくだから、レストランで夕食をしながらと言って、駐車場で待ち合わせ、二人で車に乗って出掛けた。通常の純子なら考えられない恐ろしいほどの大胆な行動だった。それ以来、植木の姿を見ると心臓の鼓動が早まるようになった。
「それって…… あなた…… 植木さんに恋をしたのよ」
夜の人格・潤子の声が聞こえた。
「小山内慶子さんか、かわいい方ね、お弁当が美味しかったわ。あら? なんで会議室まで出向いてお弁当をいただいてきたのかしら? あの二人があそこで食べていることをどうして知ったんだっけ?」
純子は、昼休み、自分はなぜ会議室にまで行き、夫とその部下の食事に、どんな切っ掛けで加わったのだろう、と疑問に思った。
「あっ、夫が不倫をしているという電話があって…… 乗り込んで行ったんだわ」
純子は思わず大きな声を上げてしまってから開け放たれたドアを見つめた。また、声を聞きつけた植木係長が駆け込んで来るような気がした。いや、いつものように駆け込んできて、顔を見せてほしかった。最近、記憶が飛ぶことが多い。植木さんに相談したほうがいいかしら、と思い始めていた。例の口調で植木が入ってくる。
「室長、お呼びでしょうか?」
2秒ほど、待ったが、植木は都合よく来なかった。純子は席を立ちドアまで歩いていくと、ドアの陰からそっと植木のいる席をのぞいた。
「植木さーーん」
純子は心中で叫びながら見るが、植木は席にいなかった。彼は離れた場所で米田危機管理収集係長と立ったままで話していた。米田と書類を間に話していた植木は、顔をこちらに向けた。すぐに純子がのぞいている姿を見つけたようで、米田との話を終わらせたようだ。米田が植木に「また、あとで」と言っているのが聞こえた。植木がこちらに体を向けた。
「室長、すぐに参ります……」
遠くから見た純子には、植木がそう言ったように聞こえた。純子はあわてて頭を引っ込めた。おでこと目しか出していないはずなのに、植木は目ざとく純子を見つけた。純子はなぜ、あれだけ頼っていた植木に遠慮するようになってしまったのか、自分で理解できなかった。職員の感謝の慰労会をしようと、植木に相談したら、早速、打ち合わせをしようとなり、せっかくだから、レストランで夕食をしながらと言って、駐車場で待ち合わせ、二人で車に乗って出掛けた。通常の純子なら考えられない恐ろしいほどの大胆な行動だった。それ以来、植木の姿を見ると心臓の鼓動が早まるようになった。
「それって…… あなた…… 植木さんに恋をしたのよ」
夜の人格・潤子の声が聞こえた。
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