119 / 190
第21章 初恋
1
しおりを挟む
総務課の会議室から戻った今田純子は、危機管理対策室長席に座ると、会議室であったことをまるで覚えていないように平然と執務を開始した。
「小山内慶子さんか、かわいい方ね、お弁当が美味しかったわ。あら? なんで会議室まで出向いてお弁当をいただいてきたのかしら? あの二人があそこで食べていることをどうして知ったんだっけ?」
純子は、昼休み、自分はなぜ会議室にまで行き、夫とその部下の食事に、どんな切っ掛けで加わったのだろう、と疑問に思った。
「あっ、夫が不倫をしているという電話があって…… 乗り込んで行ったんだわ」
純子は思わず大きな声を上げてしまってから開け放たれたドアを見つめた。また、声を聞きつけた植木係長が駆け込んで来るような気がした。いや、いつものように駆け込んできて、顔を見せてほしかった。最近、記憶が飛ぶことが多い。植木さんに相談したほうがいいかしら、と思い始めていた。例の口調で植木が入ってくる。
「室長、お呼びでしょうか?」
2秒ほど、待ったが、植木は都合よく来なかった。純子は席を立ちドアまで歩いていくと、ドアの陰からそっと植木のいる席をのぞいた。
「植木さーーん」
純子は心中で叫びながら見るが、植木は席にいなかった。彼は離れた場所で米田危機管理収集係長と立ったままで話していた。米田と書類を間に話していた植木は、顔をこちらに向けた。すぐに純子がのぞいている姿を見つけたようで、米田との話を終わらせたようだ。米田が植木に「また、あとで」と言っているのが聞こえた。植木がこちらに体を向けた。
「室長、すぐに参ります……」
遠くから見た純子には、植木がそう言ったように聞こえた。純子はあわてて頭を引っ込めた。おでこと目しか出していないはずなのに、植木は目ざとく純子を見つけた。純子はなぜ、あれだけ頼っていた植木に遠慮するようになってしまったのか、自分で理解できなかった。職員の感謝の慰労会をしようと、植木に相談したら、早速、打ち合わせをしようとなり、せっかくだから、レストランで夕食をしながらと言って、駐車場で待ち合わせ、二人で車に乗って出掛けた。通常の純子なら考えられない恐ろしいほどの大胆な行動だった。それ以来、植木の姿を見ると心臓の鼓動が早まるようになった。
「それって…… あなた…… 植木さんに恋をしたのよ」
夜の人格・潤子の声が聞こえた。
「小山内慶子さんか、かわいい方ね、お弁当が美味しかったわ。あら? なんで会議室まで出向いてお弁当をいただいてきたのかしら? あの二人があそこで食べていることをどうして知ったんだっけ?」
純子は、昼休み、自分はなぜ会議室にまで行き、夫とその部下の食事に、どんな切っ掛けで加わったのだろう、と疑問に思った。
「あっ、夫が不倫をしているという電話があって…… 乗り込んで行ったんだわ」
純子は思わず大きな声を上げてしまってから開け放たれたドアを見つめた。また、声を聞きつけた植木係長が駆け込んで来るような気がした。いや、いつものように駆け込んできて、顔を見せてほしかった。最近、記憶が飛ぶことが多い。植木さんに相談したほうがいいかしら、と思い始めていた。例の口調で植木が入ってくる。
「室長、お呼びでしょうか?」
2秒ほど、待ったが、植木は都合よく来なかった。純子は席を立ちドアまで歩いていくと、ドアの陰からそっと植木のいる席をのぞいた。
「植木さーーん」
純子は心中で叫びながら見るが、植木は席にいなかった。彼は離れた場所で米田危機管理収集係長と立ったままで話していた。米田と書類を間に話していた植木は、顔をこちらに向けた。すぐに純子がのぞいている姿を見つけたようで、米田との話を終わらせたようだ。米田が植木に「また、あとで」と言っているのが聞こえた。植木がこちらに体を向けた。
「室長、すぐに参ります……」
遠くから見た純子には、植木がそう言ったように聞こえた。純子はあわてて頭を引っ込めた。おでこと目しか出していないはずなのに、植木は目ざとく純子を見つけた。純子はなぜ、あれだけ頼っていた植木に遠慮するようになってしまったのか、自分で理解できなかった。職員の感謝の慰労会をしようと、植木に相談したら、早速、打ち合わせをしようとなり、せっかくだから、レストランで夕食をしながらと言って、駐車場で待ち合わせ、二人で車に乗って出掛けた。通常の純子なら考えられない恐ろしいほどの大胆な行動だった。それ以来、植木の姿を見ると心臓の鼓動が早まるようになった。
「それって…… あなた…… 植木さんに恋をしたのよ」
夜の人格・潤子の声が聞こえた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説


会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

アレンジ可シチュボ等のフリー台本集77選
上津英
大衆娯楽
シチュエーションボイス等のフリー台本集です。女性向けで書いていますが、男性向けでの使用も可です。
一人用の短い恋愛系中心。
【利用規約】
・一人称・語尾・方言・男女逆転などのアレンジはご自由に。
・シチュボ以外にもASMR・ボイスドラマ・朗読・配信・声劇にどうぞお使いください。
・個人の使用報告は不要ですが、クレジットの表記はお願い致します。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる