トライアングルパートナー

窓野枠

文字の大きさ
上 下
118 / 190
第20章 落ち着かない残業

2

しおりを挟む
 そんな強い口調で言っていた純子は、突然、いつもの穏やかな女神のような顔になり、「また食事に誘って」と言って、何もなかったように、会議室を去っていった。その一連の流れが進一には現実的ではなかったように思えた。
 あの昼の1時間は仮想空間にいたのではないか。執務室に戻った慶子は、午後の時間、普通に業務をこなしていた。まるで何もなかったように時間は進むが、進一は慶子の口の中で、まとわりつく舌や唇、口内のあらゆる快感が今も思い出すことができた。進一の分身がパンツを押し上げる。それでも、今までの衝撃的な体験が現実とは思えない。進一は数メートルしか離れていない慶子の顔を見つめていると、彼女もときどき進一に視線を送ってきた。彼女は目が合うと、いつもの笑顔を作った。その様子を見ると、やはり、慶子とは昼休みに食事をしていただけのように思う。
 会議室から戻って、慶子と言葉をかわしていないことに気付いた。
「小山内さん、きみが純子を誘ったの?」
 進一の声がかすれた。
「係長はやはり奥さまを誘えなかったのですね?」
 慶子はそう言って悲しそうな顔をした。
「わたし、純子さまを愛しています。だから、係長も愛したいのです」
 慶子が進一の顔を見つめた。進一は純子を愛している、という言葉に驚いた。
「きみは純子と面識がなかったんだろ? だから、昼食を誘ってほしい、と言ったんだろ?」
 進一の問い掛けに慶子は数秒だけ間を開けた。
「わたし、小さい頃から何でも手に入れ、何不自由なく生活してきました。5年前、東京に来てからずっと何がほしいのか分からず、もんもんとしていました。そんな悩みを感じていたとき、大学のサークルで純子さまとお近づきになりました。彼女は何でも自分の力で欲しいものを手に入れていく方でした。とても尊敬しています。純子さまの生き方を見ていて、さらに悩みが増しました。彼女は夜にしか会ってくださらないからです。4年間、一度も日中に会うことはありませんでした。
 去年、役所に採用され、その原因が分かったのです。純子さまは昼の時間に生きる純子様と、夜の時間に生きる潤子様がいらしたのです。だから、役所に入ったとき、廊下でお会いした純子さまがわたしを無視していることに憤りを感じました。無視する理由が分かりましたら、あたし、純子さまの愛する係長がいつの間にか好きになっていました…… それが今日の昼休みにはっきりしました。あたしの求めていたもの、あの時間をもっと増やしたいと心から願いました……」
 進一は慶子の言葉に動揺した。
「あああ…… 小山内さん…… なんてことだ、そんないけないよ、いけない……」
 そう言った進一は、席を立ち上がると慶子の座っている席に少しずつ近づいていった。慶子は席を立ち上がって、近づく進一に体を向けた。進一は周囲を見回すと、何人かの職員がまだ残業をしているのが見えた。
「純子さまは会議室を出るとき、全然、怒っていらっしゃらなかったから…… 係長も嫌でなければ、このまま、この関係を続けられませんか?」
「そうだったよね? 怒ってなかったね…… ぼくも覚えているよ……  うん…… でもねぇ……」
 進一が照れくさそうに頭をかいた姿を見た慶子はくすっと笑った。
「嫌だわ、係長ったら、昼休み、あんなことをあたしにさせたあとではありませんか?」
「えぇっ? あんなこと? あれ、って、やっぱり、してたの?」
 進一は慶子の顔が真っ赤になったのを見て心臓が爆発しそうに速くなった。
「あれはヒトメボレが作ったリア・ラブゲームの中でのことではなかったの?」
 慶子はうれしそうに首を元気よく左右に振った。左右の髪が広がって横になびいた。進一は慶子の動作すら、今起きているそれすら、リアラブゲームの中でのことで、現実ではないような気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

アレンジ可シチュボ等のフリー台本集77選

上津英
大衆娯楽
シチュエーションボイス等のフリー台本集です。女性向けで書いていますが、男性向けでの使用も可です。 一人用の短い恋愛系中心。 【利用規約】 ・一人称・語尾・方言・男女逆転などのアレンジはご自由に。 ・シチュボ以外にもASMR・ボイスドラマ・朗読・配信・声劇にどうぞお使いください。 ・個人の使用報告は不要ですが、クレジットの表記はお願い致します。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...