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第18章 沢子
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沢子は男から差し出されたジャケットを羽織ると義美を抱いて男の後に付いて町の中を小走りで進んだ。沢子は情けないことに走って5分もしないうちに気持ちとは裏腹に息が上がってきた。深夜、男は人通りのない街中を15分ほど進んだところで、ある屋敷の正門の前で立ち止まった。沢子は屋敷の表札を見つめた。御手洗とある。沢子には聞き覚えのある名であった。政財界で顔が利くどんな方なのか。そのときは気にも止めなかった。
「こちらへ……」
男は柵の前に立つと、観音開きの門扉が自動的に開き始めた。彼は素早くその隙間を通り抜けた。彼は正門から中庭を抜け奥へ進む。四畳半ほどの宝形屋根の小屋が建っていた。家屋の下方に障子の引き戸があった。男が引き戸の前でかがんだ。
「貞子さま、沢子さんをお連れしました」
男は頭を下げながら話した。
「早くお入りになって」
澄んだ声が中から聞こえた。その声を聞いた男はにっこり白い歯を見せて喜んだ。
「もうご安心ください。ここは主人の趣味のお部屋です。さあ、どうぞお入りください」
沢子は小さな入り口から体を折り曲げて中へ入った。その狭い部屋の中にとてもきれいな20代前半の洋装の女性がいた。彼女が正座する傍らに30センチ角の囲炉裏があった。炊かれた炎の上に黒色の茶釜が乗せられていた。茶釜からは湯気が立ち上っていた。
男が沢子の後で声を発した。
「貞子さまの予想どおり、海星は義美さまを葬ろうとしておりました。ひどいことに逆らえば沢子さまも亡き者にしようと企んでいました」
「あいつは鬼よ、人の命を虫のように思っているわ…… この方があなたの好きな沢子さんね? ほんと、おきれいな方」
そう言った貞子は沢子の体をなめるように見つめた。
「貞子さま、そんな沢子さまはわたしみたいな者が好きになれるようなお方ではありません、もったいない」
「こちらへ……」
男は柵の前に立つと、観音開きの門扉が自動的に開き始めた。彼は素早くその隙間を通り抜けた。彼は正門から中庭を抜け奥へ進む。四畳半ほどの宝形屋根の小屋が建っていた。家屋の下方に障子の引き戸があった。男が引き戸の前でかがんだ。
「貞子さま、沢子さんをお連れしました」
男は頭を下げながら話した。
「早くお入りになって」
澄んだ声が中から聞こえた。その声を聞いた男はにっこり白い歯を見せて喜んだ。
「もうご安心ください。ここは主人の趣味のお部屋です。さあ、どうぞお入りください」
沢子は小さな入り口から体を折り曲げて中へ入った。その狭い部屋の中にとてもきれいな20代前半の洋装の女性がいた。彼女が正座する傍らに30センチ角の囲炉裏があった。炊かれた炎の上に黒色の茶釜が乗せられていた。茶釜からは湯気が立ち上っていた。
男が沢子の後で声を発した。
「貞子さまの予想どおり、海星は義美さまを葬ろうとしておりました。ひどいことに逆らえば沢子さまも亡き者にしようと企んでいました」
「あいつは鬼よ、人の命を虫のように思っているわ…… この方があなたの好きな沢子さんね? ほんと、おきれいな方」
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「貞子さま、そんな沢子さまはわたしみたいな者が好きになれるようなお方ではありません、もったいない」
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