幸せな報復

窓野枠

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第15章 接近する恵美

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 仁美と出会うまでの勘太郎はだれもが認める誠実で真面目な男として生きていた。地球誕生から48億年、現在、人間が生物の頂点にいるように見える。しかし、それは人間から見た視点であり、人間に知られていない世界は存在するのだ。それは「けだもの族」が支配する「けだもの界」だった。「けだもの族」は「けもの」を上回る最低で最悪な種族であった。
 けもの族には全身が毛で覆われた狼、ハイエナ、アライグマ、虎、チーター、狸、狐、狛犬、猫などが存在している。その「けもの族」を力で従属させていたけものの一部が「けだもの族」だ。いわゆるけものの中の特化したエリート集団と言える。
 けだもの族とは人間の中に巣くう邪悪な生物がけものの姿に表出し実体化したのではないか、とけだもの族の中で伝えられているが起源は定かではない。
 つまり、全生物の邪心から生まれた能力、知力、霊力、魔力などを持った邪悪な実体がけもの族の一部に出現しけだものになったという説が有力である。
 悪行を行う者を人はさげすみの言葉として「けだもの」と吐き捨てるように叫ぶ。まさに人間の中に巣くう邪悪な心が単独で暴れるようになった生物がけだもの族なのだ。人は悪行をしでかしたとき「つい魔が差した」と言った。まさに、突然、どこにでもいる凡人が人でなしの愚行を働いてしまう。人はその瞬間、けだものに体も心も乗っ取られたとき、けだものになった。
 つまり、突然、けだものに豹変してしまう。「血も涙もないけだもの!」と罵る呼称は鬼、畜生と同等に使われる蔑みの言葉である。けだもの族はそんな生物として存在している。人間の心の奥底に巣くう邪悪な塊が言葉となり行動となり、現実化した。まさに諸悪の化身だ。しかも、生物に憑依し、体、精神に憑依する。乗っ取られたことを生物の本体すら気が付かない。つまり、その生物本体は即死したのだ。
 そんな不確かで恐ろしいけだもの族の支配下になることを嫌った狼族は、種を存続させるため人間に擬態して狼族のエリアから脱出した。狼族は山奥から都会の雑踏に溶け込んだ。
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