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第8章 卒業研究
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だれもがこの満ちあふれた行動を実行できるというものではない。生まれたとき我々は横たわり手と足と腕を動かすだけだった。心臓は体に血液を送り、その四肢の機能を健全に働かせ、他の臓器をも円滑に働かせる。そして、成長しさらなる高度な動きを獲得していく。
これは通常の出産のパターンだ。障害を負って生まれた乳児がいる。成長し行動は自由ではないが、正常な部分を生かす。
この世に誕生する救世主はだれかも分からない。だれがだれに影響を与えているのか社会は複雑に絡み合っている。無駄な命など存在しない。その理念を持てば人は影響し合って生きている。だから、だれもが尊いのだ。
健常と言われる人でも、成長し年齢を重ねればその機能は徐々に維持できなくなる。やがて、活動を弱めて停止する。死とは活動を停止することだ。それを司るのは脳と心臓だ。突然の事故による死もある。
人はいつまでも自由でありたい。その自由を維持し続けるため、心と体を休める場所を作る。それが家庭という領域であり、その領域を体感できるものにしたものが家である。家は自由そのものである。心と体を解放させる。彼は究極の家のデザインを完成させる。完成は時間が掛かるかもしれないが、この研究が足がかりになれば、と思っている。そのためにできることは何でもする覚悟だった。
研究室で実際に作業することはほとんどない。研究成果の中途報告をするための場所でしかない。デザインのためのデータは研究室の外で収集していくことになる。
「あの、田所さん、この後、ちょっといいかな?」
机の前に立ったままの恵美に浩志はそう言って声を掛けた。彼女は振り向くなり言った。
「いいわよ、ロビーにする? それとも、他に行く?」
恵美は頭の中のモヤモヤが浩志の顔を見ることで晴れることが分かった瞬間だった。「あの中年男の代わりにこの子でもいいわね」と恵美は考えていた。
二人は肩を並べて部屋を出ると、敷地に出た。
「こういうことよ」
恵美はそう言うと浩志の手を握った。浩志の顔が幸せの顔になった。
「やっぱりね……」
恵美は白い歯を見せて喜んだ。浩志の手に触れた恵美も幸せだった。
「ああ…… この手でなで回されたいわ……」
心中でつぶやいた恵美はこれからのことを考えて幸せな気持ちになっていくのだった。
これは通常の出産のパターンだ。障害を負って生まれた乳児がいる。成長し行動は自由ではないが、正常な部分を生かす。
この世に誕生する救世主はだれかも分からない。だれがだれに影響を与えているのか社会は複雑に絡み合っている。無駄な命など存在しない。その理念を持てば人は影響し合って生きている。だから、だれもが尊いのだ。
健常と言われる人でも、成長し年齢を重ねればその機能は徐々に維持できなくなる。やがて、活動を弱めて停止する。死とは活動を停止することだ。それを司るのは脳と心臓だ。突然の事故による死もある。
人はいつまでも自由でありたい。その自由を維持し続けるため、心と体を休める場所を作る。それが家庭という領域であり、その領域を体感できるものにしたものが家である。家は自由そのものである。心と体を解放させる。彼は究極の家のデザインを完成させる。完成は時間が掛かるかもしれないが、この研究が足がかりになれば、と思っている。そのためにできることは何でもする覚悟だった。
研究室で実際に作業することはほとんどない。研究成果の中途報告をするための場所でしかない。デザインのためのデータは研究室の外で収集していくことになる。
「あの、田所さん、この後、ちょっといいかな?」
机の前に立ったままの恵美に浩志はそう言って声を掛けた。彼女は振り向くなり言った。
「いいわよ、ロビーにする? それとも、他に行く?」
恵美は頭の中のモヤモヤが浩志の顔を見ることで晴れることが分かった瞬間だった。「あの中年男の代わりにこの子でもいいわね」と恵美は考えていた。
二人は肩を並べて部屋を出ると、敷地に出た。
「こういうことよ」
恵美はそう言うと浩志の手を握った。浩志の顔が幸せの顔になった。
「やっぱりね……」
恵美は白い歯を見せて喜んだ。浩志の手に触れた恵美も幸せだった。
「ああ…… この手でなで回されたいわ……」
心中でつぶやいた恵美はこれからのことを考えて幸せな気持ちになっていくのだった。
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