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第4章 畑野勘太郎の通勤
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勘太郎は仁美と浩志の3人で生活した頃の幸せを感じたかった。彼は妻を交通事故で亡くしてからすっかり気力がなくなってしまった。20年以上新しい恋をする気になれなかった。妻の仁美という女性は彼にとって掛け替えのない存在で、この20年間は彼にとってそれを認識するだけの時間と言えた。
彼はそんな取り留めのないことをホームの上に立ってはときどき考えていた。妻が亡くなった直後は毎日のように一人になると思い出した。その回数も年齢とともに減ってきた。心の傷が少しずつ癒えてきたのかもしれない。彼は新しい恋を始めるには年齢を重ねすぎたと思った。
彼は隣の列に視線を投げると、黒っぽいスーツ姿が並ぶ列の中、1人の女性が目に留まった。
「仁美?」
思いがけないことで声を出していた。直後、彼は彼女に吸い寄せられるように彼女の並ぶ列に向かって移動していた。歩きながら彼女の容姿を斜め後ろから注視した。焦げ茶のウエストコートを着ていた。紺色のひだ付きスカートとシックな出で立ちだった。ファッション感覚も仁美に似ている、と思いながら彼は彼女の斜め後ろに並んだ。彼の心臓が破裂しそうなほど速くなっていた。そこへ上り電車が入線し停車した。列が前に進み始め彼女に導かれるように彼も前へと進んだ。
3回目の電車が到着したとき、彼は彼女の後に続くように背中を押されて車内に乗り込んだ。彼は彼女を見失わないよう目で追った。車両の中は乗客が重なり合うようにひしめいていた。彼女は1人おいた先にいた。こちらを向く彼女の顔は仁美にそっくりだった。彼は久しぶりに見た仁美の顔を瞬きも忘れて見つめていた。
車両は2つ目の西葛西駅で止まった。数人の乗客がホームに降りていくと、ホームから降りた以上の乗客がさらに乗り込んできた。その押される勢いでさらに奥へと彼の体が移動させられる。ようやく車両の中の動きが収まったら、ガタンという車両のきしむ音で乗客が一斉にバランスを崩した。彼は傾いて倒れそうな体を安定させようと上体を起こした。すると、離れていたはずの彼女と彼は隣り合う格好になっていた。彼は彼女の柔らかな肩に触れた。
彼はそんな取り留めのないことをホームの上に立ってはときどき考えていた。妻が亡くなった直後は毎日のように一人になると思い出した。その回数も年齢とともに減ってきた。心の傷が少しずつ癒えてきたのかもしれない。彼は新しい恋を始めるには年齢を重ねすぎたと思った。
彼は隣の列に視線を投げると、黒っぽいスーツ姿が並ぶ列の中、1人の女性が目に留まった。
「仁美?」
思いがけないことで声を出していた。直後、彼は彼女に吸い寄せられるように彼女の並ぶ列に向かって移動していた。歩きながら彼女の容姿を斜め後ろから注視した。焦げ茶のウエストコートを着ていた。紺色のひだ付きスカートとシックな出で立ちだった。ファッション感覚も仁美に似ている、と思いながら彼は彼女の斜め後ろに並んだ。彼の心臓が破裂しそうなほど速くなっていた。そこへ上り電車が入線し停車した。列が前に進み始め彼女に導かれるように彼も前へと進んだ。
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