幸せな報復

第3章 田所恵美の通学

３

　そう言った目の前の男の首に掛けたネームプレートのひもが首から伸びて彼女の胸のところから脇腹に向かって挟まって伸びきっているように見える。男はそれを回収しようと先ほどから手で探っていたらしい。
「すみません……　プレートが見つかればなんとかなると思うんです……」
男は小刻みに手を動かしてプレートを探しているようだ。彼女の脇腹を男の手が先ほどから小刻みに行ったり来たりしているのが分かった。彼女は腹をさすられるたびに変な気持ちになっていた。ああっ、とまた小さく声を出した。彼女は肋骨の下をなでられたり、腰骨をさすられたり、下腹部をいじられたり、手が移動するたび変な気持ちが高まっていく。呼吸が速くなっているのが自分でも分かった。特に下腹部をなでられるたび声が出そうになった。彼女は唇をかんでゾクゾクする感覚をこらえた。彼女は次はどこを触るつもりだろうと思った。やはり、この感触が嫌ではないことに彼女は驚いた。
「あー　もー　ここでもない、どこだろ？」
男が彼女の太ももや下腹部の周囲を手のひらで右左上下と縦横に肌をなでるかなでないかという微妙な力加減でなでている。恵美は赤の他人に体をなでられるという今までにない心地よい刺激を感じていた。彼女は唇をかみしめていたが、ついにこらえきれずあごが上がってしまった。
「うぅ……」
もう、限界だった。彼女の膝が脱力ししゃがみ込みそうになった。次の瞬間。
「ああっ、引っ掛かっていたプレートがありました。これでどうでしょう……」
男の手の動きが止まって腰のあたりを中心にグリグリ触っているのが分かった。彼女は意識が飛びそうだった。
「やっと取れました……　すみません」
男はそう言って手の動きを止めた。彼女は限界だった遠のきそうな意識を正常に取り戻した。脈拍が速まっていた彼女は自分の感じやすい体質に驚いた。
「えっ？　何？　どうしちゃったのあたし？」