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熱帯夜
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ワンルームのアパートに住む医大生、水上宏一はついにたまりかねて上体を起こした。
「ひやあ、暑くて眠れないよ」
この日、熱帯夜は連続5日目を記録していた。
宏一は起きると、電気店のエアコン売り場に駆け込んだ。いろいろな種類が置いてある。とにかく涼しければいい。もう、一日でも熱帯夜は過ごしたくなかった。取り付けは8月15日午後2時である。
翌日になった。まだまだ暑い。午後2時、まだ、取り付けに来ない。電気店に電話すると、「ただいま、閉店時間です。営業時間は朝9時から夜9時までです」と自動音声が流れていた。ぼんやりする頭をたたいた。目は真っ赤に充血している。受話器をたたきつけるように置くと、電気店に走った。店は閉まっていた。張り紙がしてある。夏期特別休業につき、13日から14日までお休みさせていただきます。
「きょうからあしたまで休みだってえ、ふざけやがって」
宏一は甲高い声を張り上げると、閉じてあるシャッターを思い切り足で蹴り飛ばした。ガシャンという大きな音を立て、蹴ったところが大きくへこんだ。
「やっべえ」
おまけに自分の足の指をどうにかしたようだ。激痛が走った。そのまましゃがみ込んだ。通行人が彼を見ている。宏一は足を引きずりながら家に帰った。玉のような汗がどっと噴き出していた。頭はくらくらする。目の前が真っ暗になってきた。うう、横になるが暑くて眠れない。寝不足は極限に達していた。体が重い。
エアコンの注文票を見た。取り付け日は15日。壁に掛けてあるカレンダーを見た。
「えっ、明後日か? くそ! 」
日にちを勘違いしていた。そう思うと、さらに腹が立ってきた。伝票を丸めて、天井に放り投げた。
翌日、起きることができなくて、宏一は転がっていた。太陽が窓から容赦なく射す。閉めたくともカーテンがない。額に日が差した。じりじりと焦げるようだ。その夜も熱帯夜だ。
翌日になった。宏一の体力は限界に達していた。いわゆる、熱中症の初期症状に近かった。そのとき、チャイムが鳴った。
「ごめんください。エアコンの取り付けに伺いましたあ」
宏一は力なくにんまりした。動けなかった。寝ている宏一をよそに、係員は取り付けを始めた。
「完了しましたので、判子をいただけますかあ? 」
宏一は判子の入っている机の引き出しをやっとの思いで指した。
「あのお、大丈夫ですかあ? 」
係員は心配そうな顔で、寝ている宏一の顔をのぞき込んだ。
「…スイッチ、…入れていってください…」
やっとの思いで口を動かした。
「はい、入れましたよ」
係員はリモコンを宏一の顔の脇に置いた。
「すぐに涼しくなると思いますから。では、失礼します」
宏一はかすむ目で机においてある目覚まし時計を見た。午後3時を過ぎていた。強い西日が窓ガラスに当たっているのが分かる。エアコンの風が強さを増した。
「今夜はやっと寝られるよ」
白い前歯を出して笑った宏一は、そのまま、気絶した。
隣の部屋のラジオから女性アナウンサーの声が聞こえてきた。
「連続7日間を記録した熱帯夜ですが、今日あたりから過ごしやすい夜になるでしょう。きょうはゆっくりおやすみください」
その夜、ずっと気絶したまま横になっていた宏一は、寒くて風邪を引いた。
「ひやあ、暑くて眠れないよ」
この日、熱帯夜は連続5日目を記録していた。
宏一は起きると、電気店のエアコン売り場に駆け込んだ。いろいろな種類が置いてある。とにかく涼しければいい。もう、一日でも熱帯夜は過ごしたくなかった。取り付けは8月15日午後2時である。
翌日になった。まだまだ暑い。午後2時、まだ、取り付けに来ない。電気店に電話すると、「ただいま、閉店時間です。営業時間は朝9時から夜9時までです」と自動音声が流れていた。ぼんやりする頭をたたいた。目は真っ赤に充血している。受話器をたたきつけるように置くと、電気店に走った。店は閉まっていた。張り紙がしてある。夏期特別休業につき、13日から14日までお休みさせていただきます。
「きょうからあしたまで休みだってえ、ふざけやがって」
宏一は甲高い声を張り上げると、閉じてあるシャッターを思い切り足で蹴り飛ばした。ガシャンという大きな音を立て、蹴ったところが大きくへこんだ。
「やっべえ」
おまけに自分の足の指をどうにかしたようだ。激痛が走った。そのまましゃがみ込んだ。通行人が彼を見ている。宏一は足を引きずりながら家に帰った。玉のような汗がどっと噴き出していた。頭はくらくらする。目の前が真っ暗になってきた。うう、横になるが暑くて眠れない。寝不足は極限に達していた。体が重い。
エアコンの注文票を見た。取り付け日は15日。壁に掛けてあるカレンダーを見た。
「えっ、明後日か? くそ! 」
日にちを勘違いしていた。そう思うと、さらに腹が立ってきた。伝票を丸めて、天井に放り投げた。
翌日、起きることができなくて、宏一は転がっていた。太陽が窓から容赦なく射す。閉めたくともカーテンがない。額に日が差した。じりじりと焦げるようだ。その夜も熱帯夜だ。
翌日になった。宏一の体力は限界に達していた。いわゆる、熱中症の初期症状に近かった。そのとき、チャイムが鳴った。
「ごめんください。エアコンの取り付けに伺いましたあ」
宏一は力なくにんまりした。動けなかった。寝ている宏一をよそに、係員は取り付けを始めた。
「完了しましたので、判子をいただけますかあ? 」
宏一は判子の入っている机の引き出しをやっとの思いで指した。
「あのお、大丈夫ですかあ? 」
係員は心配そうな顔で、寝ている宏一の顔をのぞき込んだ。
「…スイッチ、…入れていってください…」
やっとの思いで口を動かした。
「はい、入れましたよ」
係員はリモコンを宏一の顔の脇に置いた。
「すぐに涼しくなると思いますから。では、失礼します」
宏一はかすむ目で机においてある目覚まし時計を見た。午後3時を過ぎていた。強い西日が窓ガラスに当たっているのが分かる。エアコンの風が強さを増した。
「今夜はやっと寝られるよ」
白い前歯を出して笑った宏一は、そのまま、気絶した。
隣の部屋のラジオから女性アナウンサーの声が聞こえてきた。
「連続7日間を記録した熱帯夜ですが、今日あたりから過ごしやすい夜になるでしょう。きょうはゆっくりおやすみください」
その夜、ずっと気絶したまま横になっていた宏一は、寒くて風邪を引いた。
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