窓野枠 短編傑作集 4

窓野枠

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クリスマス

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「たすけて~ぇ」
 クリスマスの翌日、出勤途中の平八郎が声のするほうを見ると、赤い服を着た老人が大勢のこどもたちから逃げていた。老人の顔は真っ赤になり必死の形相だった。20メートルほど、よたよたと歩き、ついに力尽き前に倒れた。
 平八郎は危険を感じた。きっと、プレゼントをもらえなかった子どもたちがサンタを袋叩きにするために追いかけていると思った。この国はもうそれだけすさんだ国になっていた。サンタはやがて子どもたちにとり囲まれて見えなくなった。きっと、ぼこぼこにされてしまう。平八郎は駆け寄った。子どもたちの頭上に胴上げされた老人が何度も空高く舞い上がっていた。
 さっきまで苦しそうにしていたサンタの顔はにこやかに口を大きく開けていた。やがて老人は子どもたちに解放されて道に座り込んだ。
「いやあ、いいお仕事ですねえ。何を子どもたちに贈られたのですか」
「この国の子どもたちは裕福ですからね。ありきたりのプレゼントでは駄目です。今年は、いじめっ子撃退光線銃です」
「はあ、いじめる子に何かするんですか?」
「はい、この光線を浴びると、友だちになります。人を思いやる心が生まれます」
「はあ、それはいい」
 平八郎が老人の手を引いて立ち上がらせた。姿勢を正した老人は、にっこりしていた顔を曇らせた。
「この仕事も人事異動がありましてね。来年はあの戦争をしているA国です」
「もう、3年も内乱が続いていて、ストリートチルドレンとかが沢山出ているという国ですね」
「はい」
「一体、何をプレゼントするおつもりですか」
「これから1年間、考えます。私の能力は年1回限りですので」
   *
 翌年のクリスマスの翌日、平八郎は出勤の準備をしながらテレビのニュースに耳を傾けていた。
「昨日、A国にサンタと名乗る老人が現れ、子どもたちにプレゼントをしました。なんと、平和をプレゼントしました。A国に平和が訪れました。戦争がやっと終わりました」
 子どもたちの笑顔がテレビの画面いっぱいに映し出された。

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