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独り言
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どこにでもいる。独り言を言ってしまうと言う癖。この男・田島平八郎もそうである。
彼は事務室のデスクに座り仕事をしている。
「よっしゃ、オッケー、いただきだね」
独り言を言いながら机に向かう。決意表明みたいに言ってしまう。たわいないことならいいのであるが、そういうときばかりではない。
「やっべー、大損だぞ、まじ、やば!」
それをたまたま通りかかった上司の大平が耳にした。
「あ、田島さん、何が大損なんだね。ちょっときて、説明しなさい」
こうして、彼は大平から叱責を受け、意気消沈で帰宅するのである。
「この癖、何とかならないかなあ」
と、公園のベンチに座りまた独り言を言ってしまう。
「ああ、もう嫌だ、嫌だ」
と、またもや、独り言を言う。
「何やら、お困りのようですな」
彼はその声に驚き、声のするほうへ顔を向けた。老人がいつの間にか隣に座って、平八郎を見ていた。
「あ、また、独りでしゃべってましたか。この独り言で、失敗ばかりしてましてね。嫌になりますよ」
「まあ、気を落とさずに。損なことばかりではありませんよ。いいですか、これから、いいことばかり考えるようにするといい。そうすると、いいことしか言葉に出ませんからね」
「はあ、なるほど。でも、いいことばかり考えるなんて、できるかなあ」
彼は老人に言われたとおり、いいことばかり考えるようにした。
「いい事って、どんなことだろう。いい事、思いつけ」
彼は職場のデスクに向かいながらまた独り言を言っていた。そこへ、会社一の美人と噂されている山口裕子がいつものように、伝票を持って立っていた。
「あら、そんなの簡単よ」
彼は声のする方向を見上げた。裕子はにっこり伝票を差し出した。
「あなたに上げる。私からのプ・レ・ゼ・ン・ト」
「はあ? 」
「人に喜ばれることをするのよ。まあ、手っ取り早いのはプレゼントかしら。それとも親切かな」
祐子は小首を傾げ考えている。平八郎はこの時初めて祐子と会話らしい会話をしたような気がした。美人OLと言うこともあって、あまり気安く話しかけたことがなかった。
「これも効用かなあ」
「あら、何、その効用って」
「あ、いいこと考えようとしたら、山口さんと話せたから」
「あら」
祐子は顔を赤くした。それからというもの、平八郎は祐子と親しくなり、必然といいことを考えるようになった。
「祐子さんは美人だよなあ」
「嫌だ、恥ずかしい」
「あ、また独り言言ってしまったね」
「あたしが傍で聞いているから独り言じゃないわよ」
「そうだった」
こうして、平八郎は祐子といつまでも一緒に暮らしたのであった。
彼は事務室のデスクに座り仕事をしている。
「よっしゃ、オッケー、いただきだね」
独り言を言いながら机に向かう。決意表明みたいに言ってしまう。たわいないことならいいのであるが、そういうときばかりではない。
「やっべー、大損だぞ、まじ、やば!」
それをたまたま通りかかった上司の大平が耳にした。
「あ、田島さん、何が大損なんだね。ちょっときて、説明しなさい」
こうして、彼は大平から叱責を受け、意気消沈で帰宅するのである。
「この癖、何とかならないかなあ」
と、公園のベンチに座りまた独り言を言ってしまう。
「ああ、もう嫌だ、嫌だ」
と、またもや、独り言を言う。
「何やら、お困りのようですな」
彼はその声に驚き、声のするほうへ顔を向けた。老人がいつの間にか隣に座って、平八郎を見ていた。
「あ、また、独りでしゃべってましたか。この独り言で、失敗ばかりしてましてね。嫌になりますよ」
「まあ、気を落とさずに。損なことばかりではありませんよ。いいですか、これから、いいことばかり考えるようにするといい。そうすると、いいことしか言葉に出ませんからね」
「はあ、なるほど。でも、いいことばかり考えるなんて、できるかなあ」
彼は老人に言われたとおり、いいことばかり考えるようにした。
「いい事って、どんなことだろう。いい事、思いつけ」
彼は職場のデスクに向かいながらまた独り言を言っていた。そこへ、会社一の美人と噂されている山口裕子がいつものように、伝票を持って立っていた。
「あら、そんなの簡単よ」
彼は声のする方向を見上げた。裕子はにっこり伝票を差し出した。
「あなたに上げる。私からのプ・レ・ゼ・ン・ト」
「はあ? 」
「人に喜ばれることをするのよ。まあ、手っ取り早いのはプレゼントかしら。それとも親切かな」
祐子は小首を傾げ考えている。平八郎はこの時初めて祐子と会話らしい会話をしたような気がした。美人OLと言うこともあって、あまり気安く話しかけたことがなかった。
「これも効用かなあ」
「あら、何、その効用って」
「あ、いいこと考えようとしたら、山口さんと話せたから」
「あら」
祐子は顔を赤くした。それからというもの、平八郎は祐子と親しくなり、必然といいことを考えるようになった。
「祐子さんは美人だよなあ」
「嫌だ、恥ずかしい」
「あ、また独り言言ってしまったね」
「あたしが傍で聞いているから独り言じゃないわよ」
「そうだった」
こうして、平八郎は祐子といつまでも一緒に暮らしたのであった。
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