18 / 20
2
ごっこ遊び
しおりを挟む
子どもたちが両手を広げ空へ飛び立った。そこかしこで子どもたちが空中を飛んでいる。身体に羽が付いているという訳ではない。
政信と 敬子はその様子を手を繋いで公園のベンチに座って見ていた。
「頼もしいわね、子どもたち。彼らがこれからの未来を担うのね。鳥のように羽ばたいている」
敬子が空を見上げながら感慨深く政信に言った。
「そうだね。僕もそうだった。もう、僕は大人になってしまったからね。ああはいかない」
政信はまっすぐ遠くを見つめる。
「あら、政信さんも飛べばいいのよ」
何気に投げやり気味の政信に対し、敬子は不満そうな顔をして尋ねた。
「飛べるなんて幻想なんだよ。あれは飛んでいるように見えるだけさ」
「そんな、彼らは今飛んでいるわ、目に見えるのよ、政信さんらしくないわ」
敬子にそう言われた政信は意外そうな顔をした。
「きみも知ってることだろ? これは政府が作った仮装映像で、人心を惑わすため、ときどき空に立体映像を投影している。空に浮かんだ雲をスクリーンにしている映像さ。ちょっと考えればこんなトリック子どもだましさ」
「そう? トリック? 政信さんにはあれがトリックに見えてしまうのね」
政信は悲しそうな顔をする敬子の手を改めて強く握った。
「きみはいつだって、何だって信じてしまう。疑うと言うことを知らない。だから、きみの純真なところに僕は惹かれてしまう」
政信は敬子の肩を抱き寄せて顔を見た。敬子も政信の顔を見た。
「そうさ、この世は不確かなものだらけさ、こうやってきみを抱き寄せているという現実を認識できない。きみを実感できなくなってしまう」
政信は敬子をさらに抱きしめた。まるで敬子の存在の確かめるように。見つめる敬子の顔が薄くなったり、ぶれたりしている。敬子の姿が現れたり消えたり現れたりしている。そして、薄くなりついに敬子は消えてしまった。
「また、故障か?」
政信は手にしていたステッキを目の前に上げて左右に2度ほど振ってみた。
「やっぱり駄目か? 恋人ごっこステッキ? 故障が多すぎるよ」
そのうち、政信の身体も大きくなったり小さくなったり小刻みに振動しているような動きになってきた。そして、小さい身体になって動きが止まった。政信は小学生くらいの少年になった。
政信と名乗る少年はベンチの上に置いたランドセルの蓋を開けた。大人ごっこセットと書かれたボックスに付いたスイッチの電源をオフにした。
「ああ、大人ごっこも飽きたな」
少年は大きくため息を吐くと、ランドセルを背負い公園から去っていった。
政信と 敬子はその様子を手を繋いで公園のベンチに座って見ていた。
「頼もしいわね、子どもたち。彼らがこれからの未来を担うのね。鳥のように羽ばたいている」
敬子が空を見上げながら感慨深く政信に言った。
「そうだね。僕もそうだった。もう、僕は大人になってしまったからね。ああはいかない」
政信はまっすぐ遠くを見つめる。
「あら、政信さんも飛べばいいのよ」
何気に投げやり気味の政信に対し、敬子は不満そうな顔をして尋ねた。
「飛べるなんて幻想なんだよ。あれは飛んでいるように見えるだけさ」
「そんな、彼らは今飛んでいるわ、目に見えるのよ、政信さんらしくないわ」
敬子にそう言われた政信は意外そうな顔をした。
「きみも知ってることだろ? これは政府が作った仮装映像で、人心を惑わすため、ときどき空に立体映像を投影している。空に浮かんだ雲をスクリーンにしている映像さ。ちょっと考えればこんなトリック子どもだましさ」
「そう? トリック? 政信さんにはあれがトリックに見えてしまうのね」
政信は悲しそうな顔をする敬子の手を改めて強く握った。
「きみはいつだって、何だって信じてしまう。疑うと言うことを知らない。だから、きみの純真なところに僕は惹かれてしまう」
政信は敬子の肩を抱き寄せて顔を見た。敬子も政信の顔を見た。
「そうさ、この世は不確かなものだらけさ、こうやってきみを抱き寄せているという現実を認識できない。きみを実感できなくなってしまう」
政信は敬子をさらに抱きしめた。まるで敬子の存在の確かめるように。見つめる敬子の顔が薄くなったり、ぶれたりしている。敬子の姿が現れたり消えたり現れたりしている。そして、薄くなりついに敬子は消えてしまった。
「また、故障か?」
政信は手にしていたステッキを目の前に上げて左右に2度ほど振ってみた。
「やっぱり駄目か? 恋人ごっこステッキ? 故障が多すぎるよ」
そのうち、政信の身体も大きくなったり小さくなったり小刻みに振動しているような動きになってきた。そして、小さい身体になって動きが止まった。政信は小学生くらいの少年になった。
政信と名乗る少年はベンチの上に置いたランドセルの蓋を開けた。大人ごっこセットと書かれたボックスに付いたスイッチの電源をオフにした。
「ああ、大人ごっこも飽きたな」
少年は大きくため息を吐くと、ランドセルを背負い公園から去っていった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
窓野枠 短編傑作集 8
窓野枠
大衆娯楽
日常、何処にでもありそうな、なさそうな、そんなショートショートを書き綴りました。窓野枠 オリジナル作品となります。「クスッ」と笑える作風に仕上げているつもりです。この本の作品20編をお読みになりましたら、次巻も、閲覧のほど、よろしくお願いいたします。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
窓野枠 短編傑作集 5
窓野枠
大衆娯楽
日常、何処にでもありそうな、なさそうな、そんなショートショートを書き綴りました。窓野枠 オリジナル作品となります。「クスッ」と笑える作風に仕上げているつもりです。この本の作品20編をお読みになりましたら、次巻も、閲覧のほど、よろしくお願いいたします。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる