蜃気楼の女

窓野枠

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第35章 現代の安田邸

2話

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 かつて、進一を家庭教師として自宅に迎えていた、女学園3年生、大学受験勉強の出来事がよみがえる。進一とともに送った受験勉強は、尚子にとって進一と愛を育んだ青春の一ページだ。毎日、進一と並んで勉強したあの頃、妄想ばかりの日々だったが、当然ながら、進一と肉体的な関係はなかった。それどころか、進一は、東大合格発表の日、別れのあいさつもせず、尚子の前から突然、消えた。
 (あたしの熱愛から逃げたの、進ちゃん? あたしの愛を拒んだの? そんなこと、許さないわ! 
 許さん! 断じて、許さない!  
 進ちゃん、きょう、逃亡の罪をあたしに誠心誠意、償わせるわ。あたしを置いて、4年間も、進ちゃんなしの、寂しい思いをさせた進ちゃんを、あたしは絶対、許さないわ!  
 尚子、4年前のあなたと違うわ。あれから、随分、強い女に成長した。もう、あなたはプライドの塊よ。だから、今日こそ、進ちゃんにあなたの熱愛を伝えるといいわ。もう、あの頃の内気なあなたは死んだ…… 魅力がたっぷりの小悪魔なレディーに生まれ変わったのよ、なおこ、ファイトッ! なおこ、ファイトッ!)  
 約4年間。尚子はきょう、計画を決行するという固い誓いを立て、生きてきた。  
 1回だけ、童貞の橋本をフェラチオで昇天させ、その褒美として得られた橋本の精を、体内に取り込み、橋本の能力をも吸収した。その愛した橋本は田所の邪心に乗っ取られ、はかなくも消えたが、尚子は男との経験1回分とした。しかし、処女だった。  
 処女で大いに結構、と居直った尚子は、他の男に見向きもせず、アダルト・ドールの開発に専念した。尚子が作るドールは、すべて、進一と同じ体形、1ミリと違わない。尚子は、離れてしまった進一の行動を、毎日透視能力を使って、どこにいようとも把握していた。進一に彼女と呼べる女がいないことは、確認していた。
  きょうはその成果を存分に、進一に対し発揮し、愛の思いを伝える日だ。進一を、愛情で満たされた快楽地獄に落とすため、果実は熟した。
 そんな尚子の思いを知らない進一は、部屋の中を、のんびりと見ていた。  
「ねえ、尚ちゃん、この部屋って、何度も言うけどさ…… とても広そうだけど、何かの視覚トリックを使っているんだよね…… だって、部屋が建物より大きいもの?」  
 進一は尚子と共通の話題が思いつかないので、先ほどから、尚子に同じ質問をしてばかりだ。しかし、尚子は、進一を落とすシミュレーションを何度も繰り返していて、進一の声はまったく聞こえていない。  
 妄想モードに入った尚子は、何を言っても駄目だ。諦めた進一は別の質問に切り替えた。妄想モードに入った尚子にも聞こえるキーワードを脳に送り込まなければ、意識は返らないことは承知していた。  
「ねえ、尚ちゃん、人形作りの趣味をいつからやってたの?」  
 進一は、遠くを見て考え込んでいる尚子の顔を間近に見た。透き通る肌の美少女は健在で、その肌をそっと触れたときの感触を想像することは進一にとって至福の喜びだ。物思いにふける尚子の焦点の定まらない、遠いものを見る視線が、幼い頃から神秘的でそそられた。乳児からの尚子を知る進一は、物思いにふける尚子の体質を熟知していた。話し掛けても上の空という状態が良くあった。そういうとき、進一はじっと尚子の顔を見つめることが多かった。こういうときでないと、間近で見つめられないほど尚子は光り輝いていた。今も、あのときと同じように、思わず、尚子のわずかに出ている下唇を見つめる。透き通るような白い肌は、若さでみずみずしく輝いている。ぬれたような下唇を見ていると、引っ張られて、唇の中に、吸い込まれそうになる。実際、進一は吸い込まれるように顔を尚子の唇に近づけ今にも触れそうなくらい接近していた。いつものことだが、尚子はそれに気が付いていない。このときの尚子は進一と、二人きりの妄想の世界にいた。
  進一はそのことを熟知していたので、何度、尚子の放心状態の最中にキスしたことだろう。尚子の同意を得ないで、いけないこととは分かっていても、尚子の柔らかい唇の上に、唇を重ねてしまった。舌で下唇をそっとなめあげる。右から左へゆっくり、何度か往復すると、上唇へ舌を移動させる。そして唇をゆっくりなめてから、尚子の唇の間に舌の先を割り入れる。放心状態の筈なのに、尚子は舌を迎え入れて絡めてくる。
 ウウウゥッ  
 進一の舌の動きに反応するように尚子はくぐもったうめくような声をもらす。口の中の上あごを舌の先でなめあげると、尚子は慌ただしく舌全体を使って、進一の舌に絡めてくる。初めてキスをしたときから、尚子は条件反射のごとく、積極的に反応し進一の舌に反応するように絡めてきた。進一は尚子の反応がうれしくなり、何度も尚子にキスをするようになった。現実を受けいることができない進一は、そのキスが己の描く妄想が進歩した結果、と思って喜んでいた。  
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