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第32章 櫻子VS尚子
2話
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尚子が、頭に両手を当てて混乱状態の櫻子の体を抱いて興奮を静めようとして抱きついた。このままでは東京は死の町になるかもしれない。
しかし、櫻子はその尚子の腕を払いのけた。その瞬間、その勢いに押された尚子の体が一瞬空中に浮いたと思ったら、勢いよく後ろの壁に、一瞬で飛ばされた。尚子の体は壁に掛けてある風景画に背中から勢いよくたたきつけられた。壁に当たった瞬間、グシャ 尚子の全身の骨が砕ける音がしてから、ゆっくり床にストンと落ちた。櫻子の目から止めどもなく涙が流れた。
「平八さん…… あたしの平八さん……」
櫻子は椅子に座ったままの平八郎のそばに立つと、彼の肩を包むように抱いた。
「何? これ? 平八さんの体じゃないわ、どういうことなの? カチコチじゃないの?」
そのとき、調理室にある秘密の抜け穴を通って、Androidと櫻子のやり取りを静かに見ていた尚子が、櫻子の前に姿を現した。壁に吹き飛ばされて体の手足が変な方向に折れ曲がって横たわっているnaokoタイプAndroidを見て、尚子は一瞬後ずさって、膝から崩れると、床に尻を付けて座り込んだ。
「ハー、何よ、これって? マジでヤバかったー! naokoタイプドールで良かったー、あたし、こうなってたもの、アー やっぱ、怖ーい、おねえーさまーだったー」
失意に打ちひしがれていた櫻子は、抱いていた平八郎の上半身から顔だけを尚子の声のする方向へ向けた。たたきつぶして身動きしない尚子の遺体のそばに、尚子と同じ格好をした少女が、尻を床に付けてへたり込んで肩で息をしている。
「エェー あんたが二人? ど…… どういうこと??」
二人の尚子を見た櫻子は何が何だか、訳が分からなくなった。床に座り込んでいた尚子は、顔を櫻子に向けて慌てるように言った。
「そ、それって、ドールです。かなり精巧なAndroidです。まだ、指示通りにしか動かないので、基礎の き、ができたって段階です。学園長本体は別室で元気にしていらっしゃいますのでご安心ください。それでは、これから学園長のところへご案内しますぅーー」
「何? これは平八さんの人形? 今まで、人形を使ってあたしをだましたの?」
「ウーーーン だました、って言うか、このドールの性能を櫻子さんに見てほしかっただけです。深い意味はありません。学園長もこういうテクノロジーが好きな人なんでこういう展開を仕組んだんです。学園長って、結構、いたずら好きで、お茶目なんですよ。でも、結果、櫻子さんを怒らすようなことになってしまって、申しわけありません、ごめんなさい!」
そう言って立ち上がった尚子は、気をつけの姿勢を取り、両手のひらを膝まで伸ばし深く腰を折って頭を下げた。櫻子は今での怒りが何だったの? 自分が愚かに思えてきた。
櫻子の怒りが静まったと感じた尚子は、何も言わずに櫻子の前に来た。
「改めまして、安田尚子です。櫻子さま、どうぞよろしくお願いします」
にっこり笑った尚子は、右手を差し出し、握手を求めた。櫻子は顔を横に向けて、そっぽを向いた。
「ふん! あんたね、あたしをだましたのよ! 絶対、許さないから!」
櫻子は両腕を胸の前で組み、口をへの字に曲げた。その顔を見て尚子はクスッと笑った。
「フフフ 、そういう櫻子さま、キュートです。あたし、そういう櫻子さま、好きです」
そう言った尚子は櫻子をじっと見つめていた。尚子のにこやかな顔の表情を見た櫻子は、嫌な予感を感じた。櫻子は顔をわずかに紅潮させて言った。
「何、ポーとしてんのよ? あんた、早く平八郎さんのところへ案内しなさい!」
櫻子は自分の顔を見つめたまま放心状態の尚子の額を人差し指でツンと押した。
「えっ、あ、す、すみません」
櫻子を見つめてしまっていたことに気が付いた尚子は、顔を赤面させ、慌てて、櫻子の前から即座にきびすを返し歩き始めた。彼女は、食堂から出ると、橋本のいる部屋にまっすぐ向かった。尚子に好きと言われた櫻子は少しだけ嬉しかった。櫻子は前を歩く尚子に声を掛けた。
「ねえ、あんた、絶対、許さない、って言ってるでしょ。シカトするんじゃないわよ!」
しかし、櫻子はその尚子の腕を払いのけた。その瞬間、その勢いに押された尚子の体が一瞬空中に浮いたと思ったら、勢いよく後ろの壁に、一瞬で飛ばされた。尚子の体は壁に掛けてある風景画に背中から勢いよくたたきつけられた。壁に当たった瞬間、グシャ 尚子の全身の骨が砕ける音がしてから、ゆっくり床にストンと落ちた。櫻子の目から止めどもなく涙が流れた。
「平八さん…… あたしの平八さん……」
櫻子は椅子に座ったままの平八郎のそばに立つと、彼の肩を包むように抱いた。
「何? これ? 平八さんの体じゃないわ、どういうことなの? カチコチじゃないの?」
そのとき、調理室にある秘密の抜け穴を通って、Androidと櫻子のやり取りを静かに見ていた尚子が、櫻子の前に姿を現した。壁に吹き飛ばされて体の手足が変な方向に折れ曲がって横たわっているnaokoタイプAndroidを見て、尚子は一瞬後ずさって、膝から崩れると、床に尻を付けて座り込んだ。
「ハー、何よ、これって? マジでヤバかったー! naokoタイプドールで良かったー、あたし、こうなってたもの、アー やっぱ、怖ーい、おねえーさまーだったー」
失意に打ちひしがれていた櫻子は、抱いていた平八郎の上半身から顔だけを尚子の声のする方向へ向けた。たたきつぶして身動きしない尚子の遺体のそばに、尚子と同じ格好をした少女が、尻を床に付けてへたり込んで肩で息をしている。
「エェー あんたが二人? ど…… どういうこと??」
二人の尚子を見た櫻子は何が何だか、訳が分からなくなった。床に座り込んでいた尚子は、顔を櫻子に向けて慌てるように言った。
「そ、それって、ドールです。かなり精巧なAndroidです。まだ、指示通りにしか動かないので、基礎の き、ができたって段階です。学園長本体は別室で元気にしていらっしゃいますのでご安心ください。それでは、これから学園長のところへご案内しますぅーー」
「何? これは平八さんの人形? 今まで、人形を使ってあたしをだましたの?」
「ウーーーン だました、って言うか、このドールの性能を櫻子さんに見てほしかっただけです。深い意味はありません。学園長もこういうテクノロジーが好きな人なんでこういう展開を仕組んだんです。学園長って、結構、いたずら好きで、お茶目なんですよ。でも、結果、櫻子さんを怒らすようなことになってしまって、申しわけありません、ごめんなさい!」
そう言って立ち上がった尚子は、気をつけの姿勢を取り、両手のひらを膝まで伸ばし深く腰を折って頭を下げた。櫻子は今での怒りが何だったの? 自分が愚かに思えてきた。
櫻子の怒りが静まったと感じた尚子は、何も言わずに櫻子の前に来た。
「改めまして、安田尚子です。櫻子さま、どうぞよろしくお願いします」
にっこり笑った尚子は、右手を差し出し、握手を求めた。櫻子は顔を横に向けて、そっぽを向いた。
「ふん! あんたね、あたしをだましたのよ! 絶対、許さないから!」
櫻子は両腕を胸の前で組み、口をへの字に曲げた。その顔を見て尚子はクスッと笑った。
「フフフ 、そういう櫻子さま、キュートです。あたし、そういう櫻子さま、好きです」
そう言った尚子は櫻子をじっと見つめていた。尚子のにこやかな顔の表情を見た櫻子は、嫌な予感を感じた。櫻子は顔をわずかに紅潮させて言った。
「何、ポーとしてんのよ? あんた、早く平八郎さんのところへ案内しなさい!」
櫻子は自分の顔を見つめたまま放心状態の尚子の額を人差し指でツンと押した。
「えっ、あ、す、すみません」
櫻子を見つめてしまっていたことに気が付いた尚子は、顔を赤面させ、慌てて、櫻子の前から即座にきびすを返し歩き始めた。彼女は、食堂から出ると、橋本のいる部屋にまっすぐ向かった。尚子に好きと言われた櫻子は少しだけ嬉しかった。櫻子は前を歩く尚子に声を掛けた。
「ねえ、あんた、絶対、許さない、って言ってるでしょ。シカトするんじゃないわよ!」
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