62 / 134
第25章 1週間前
3話
しおりを挟む
橋本はさらに驚いた。俺の首の後ろにほくろがあったんだ、と驚いた。そんなつまらない俺の情報まで熟知している。どこでそんな情報を得たんだ。そんなつまらない情報まで記憶している。そんなに調べ上げて、俺をどうするつもりだ。橋本は心の片隅で、この美少女が持つ未知の才能の恐ろしさに警告を発していた。この子には正体の知れないオーラを感じる。長年数多くの著名人の取材を重ねてきた橋本の経験が発する本能の警告だった。恐怖で身震いが起きていた。しかし、虎穴に入らずば虎児を得ず。この子の言いなりになるしかない。田所の悪を公表するためだ。素性の知れない少女だが、まずは信じよう。橋本は、少女とともに、清瀬駅で東武電車に乗った。少女と席を隣り合って座った。周囲の人間が橋本と少女をチラチラ見ているのが分かる。不細工なおじさんと美少女。違和感があるのだろう。橋本も気が引けてきた。ひょっとすると性犯罪者にされるのではないか、という不安がわいてきた。この少女はいきなり大声を上げ、叫ぶ。おじさんに無理やり連れ回されています。助けてください。必死に叫ぶ少女に、周囲が駆け寄ってくる。俺は居合わせた乗客に手足を取り押さえられて、警察に引き出される。社会的な抹殺だ。田所なら考えそうな筋書きだ。俺を葬るための策略が始まった。まんまと引っかかった。人生、終わった。橋本は体をくっつけて隣に座る美少女を見て笑った。
「ねえ、いつでもいいよ……」
橋本は美少女に告げると、こんなかわいい子のわなにかかって、終わるのかと思うと、自分が情けなくて涙が出てきそうだった。そう思いながら、周囲の視線の原因が分かった。ずっと、この美少女と手を握り合っていたからだ。学園前からずっと手をつないでいたから慣れてしまった。親子、兄弟ならこんなふうに握っていないだろう。橋本の額に冷や汗がにじみ出ていた。この少女とつないでいる手も汗でびっしょりだ。橋本が手をはずそうとすると、尚子はさらに強く握ってきた。思わず尚子を見つめた。すると、つぶらな瞳を橋本に向けてきた。
「おじさんの手、暖かいね…… 暖かくてすごく気持ちいい…… ずっと、このままでいいですよね」
少女が隣の席で橋本に肩を寄せて来て、よく聞き取れないくらい小さい声でささやいた。橋本はその声を聞くため体を少女にさらに寄せてしまった。蛇ににらまれた小動物の心境だった。いつでもこの美少女に飲み込まれる。俺は児童への性犯罪者として、この世から抹殺される。
「助けてください、手を握られて、逃げられないんです!」
美少女の雄たけびが予想できた。そんなことを考えているとき、少女がまた橋本の耳元に唇を寄せてきてささやいた。
「おじさん、次、降りますよ……」
橋本は握られた手を尚子に引かれながら、洗足駅で降りた。相変わらず、尚子は橋本の手を放さない。
「おじさん、あたしのうちまで歩いて10分くらいなんです。このまま、手をつないでくれててもいいですか?」
「いやあー、君が住んでいる町でしょ? こんなおじさんと手をつないでいるところを見られてまずくない? おじさん、恥ずかしいな……」
「嫌だ! やっぱりおじさん、あたしの思っていたとおりの人!」
そう言うと、尚子は橋本の胸に体を埋めてきた。
「おじさん、友だちでしょ? いいよね?」
橋本はなんと答えればいいか逡じゅんした。しばらく考えてから言った。
「やはり、見られたら困る? 手を放してくれるかい?」
「はい! 了解です!」
そう元気に言った尚子は手を放し、橋本に体を寄せながら、両腕を左腕に絡めてきた。
「このほうが友だちらしいかな? でも、手のほうが尚子は好きだから……おじさんが嫌って言うから放すけど……」
橋本は美少女の甘えどころを捉えた絶妙のしぐさに取り込まれそうになっていた。もし、田所の教育がこういう子を育てるなら、悪くはないかもしれない。人に取り入るとかそういうレベルではない。人を幸せにするテクニックというのであろうか。こういう所作が自然に出るのであろうか。恐るべし、田所の花魁(おいらん)養成学科である。橋本は尚子が絡めてくる腕から伝わる尚子の心の暖かさを、いつしか愛おしく感じていた。
「ねえ、いつでもいいよ……」
橋本は美少女に告げると、こんなかわいい子のわなにかかって、終わるのかと思うと、自分が情けなくて涙が出てきそうだった。そう思いながら、周囲の視線の原因が分かった。ずっと、この美少女と手を握り合っていたからだ。学園前からずっと手をつないでいたから慣れてしまった。親子、兄弟ならこんなふうに握っていないだろう。橋本の額に冷や汗がにじみ出ていた。この少女とつないでいる手も汗でびっしょりだ。橋本が手をはずそうとすると、尚子はさらに強く握ってきた。思わず尚子を見つめた。すると、つぶらな瞳を橋本に向けてきた。
「おじさんの手、暖かいね…… 暖かくてすごく気持ちいい…… ずっと、このままでいいですよね」
少女が隣の席で橋本に肩を寄せて来て、よく聞き取れないくらい小さい声でささやいた。橋本はその声を聞くため体を少女にさらに寄せてしまった。蛇ににらまれた小動物の心境だった。いつでもこの美少女に飲み込まれる。俺は児童への性犯罪者として、この世から抹殺される。
「助けてください、手を握られて、逃げられないんです!」
美少女の雄たけびが予想できた。そんなことを考えているとき、少女がまた橋本の耳元に唇を寄せてきてささやいた。
「おじさん、次、降りますよ……」
橋本は握られた手を尚子に引かれながら、洗足駅で降りた。相変わらず、尚子は橋本の手を放さない。
「おじさん、あたしのうちまで歩いて10分くらいなんです。このまま、手をつないでくれててもいいですか?」
「いやあー、君が住んでいる町でしょ? こんなおじさんと手をつないでいるところを見られてまずくない? おじさん、恥ずかしいな……」
「嫌だ! やっぱりおじさん、あたしの思っていたとおりの人!」
そう言うと、尚子は橋本の胸に体を埋めてきた。
「おじさん、友だちでしょ? いいよね?」
橋本はなんと答えればいいか逡じゅんした。しばらく考えてから言った。
「やはり、見られたら困る? 手を放してくれるかい?」
「はい! 了解です!」
そう元気に言った尚子は手を放し、橋本に体を寄せながら、両腕を左腕に絡めてきた。
「このほうが友だちらしいかな? でも、手のほうが尚子は好きだから……おじさんが嫌って言うから放すけど……」
橋本は美少女の甘えどころを捉えた絶妙のしぐさに取り込まれそうになっていた。もし、田所の教育がこういう子を育てるなら、悪くはないかもしれない。人に取り入るとかそういうレベルではない。人を幸せにするテクニックというのであろうか。こういう所作が自然に出るのであろうか。恐るべし、田所の花魁(おいらん)養成学科である。橋本は尚子が絡めてくる腕から伝わる尚子の心の暖かさを、いつしか愛おしく感じていた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。


【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?


淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる