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第24章 田所平八郎の復活
1話
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山野櫻子が学園に到着してから4日目。すい臓がんにむしばまれた平八郎は、Androidの体を借りながら、ついに、人生最期の授業を迎えようとしていた。平八郎のすい臓をむしばんだ悪性腫瘍は、周辺の臓器にも腫瘍を拡大させていた。そんな状況でも、平八郎型Androidは正常に動作していた。いつもどおり、学園の執務をこなし、Androidの目、口、鼻、耳、肌から得る情報は、ベッドで横たわる司令塔である平八郎の頭脳に接続され、安田尚子たちが開発した相互通信装置により、完璧にいつも通りの日常を送っているかのごとく遠隔操作されていた。
しかし、むしばまれた肉体に容赦なく攻撃する細胞破壊による激痛は、たびたび、平八郎の意識を失わせた。激痛に耐えかねると体に装着された人工知能(AI)機能付き鎮痛装置が自動的に判断し、平八郎の体に適量の麻酔注射をする。
そんな状況を繰り返しながら今日に至ったが、ついに、体をけいれんさせながら意識を失った平八郎は、麻酔の効果で、静かに深い眠りに入った。その直後、教壇に立っていたAndroid型平八郎は動作指令を絶たれ、その場にフリーズした。両腕をだらんと下げ、幽霊のごとく立っていた。
平八郎の命を賭した最後の授業は、終了チャイムを聞くこともなく動きを止め、終えんを迎えようとしていた。教壇の見える後方で見守っていた櫻子が、平八郎の異変を感じ、声を上げた。
「平八さん……」
駆け寄った櫻子が声を掛けても平八郎は、微動だにしなかった。直後、Android型平八郎は床に直立したまま背中から床に倒れた。櫻子は、その瞬間、平八郎がたった今、天国に旅立ったことを確信した。
ドン、というその無機質な音は、あまりにあっけない平八郎の断末魔だった。直後、教室で女子生徒が叫び声を上げた。少しずつ、教室全部がざわめく。少女たちの奇声を聞いて、櫻子は正気に返ると、教室を飛び出した。櫻子は全力で平八郎の眠る寮の部屋に向かおうと、廊下を全力で駆け出した。すると、
「警戒、警戒、警戒、警戒……」
どこからともなく学校中に、心臓を突き刺すような警告音が鳴り響く。同時にウィーン ウィーン ウィーン ウィーン ウィーン けたたましい警報音が合わさり、走ることを抑制するかのようだった。
櫻子は、改めて、この学園のセキュリティが異様に厳重であることを感じた。女子校だからか、と思っていたが、そうでもない。なぜなら、櫻子はこの学園に到着した初日、難なく正門から学園長室に、誰に制止されるでもなくすんなりと入ることができた。これだけセキュリティが厳しいのに、不自然である。今までの一連の出来事は仕組まれていたのではないか。すべてが計画されていた、という疑念がわいてきた。私は平八郎を利用しようとしていたが、彼がうまく利用していたのではないか。平八郎に対する一抹の不信感を抱きながら、長い廊下を走っていると、わずか4日間とはいえ、彼との甘くて濃密な思い出がよみがえって来た。こんなに早く死を迎えるなら、思い出をもっとつくっておけば良かった。あんなことをしたり、こんなことをしたり、そんな、あんな、こんな、を繰り返し、思い出をいっぱい抱え、彼との幸せな時間に浸り、そっと、一人部屋にこもり、喪失感を抱えている自分を想像した。
結局、じらすため、彼にほとんど体を触らせてやらなかった。櫻子は今、顧みると、疾走する廊下で「自分は鬼だな」と思って小さく笑った。
しかし、それにしても、平八郎が死んだという実感がほぼない。喪失感を感じない。櫻子の第六感が感じるのはやるせない偽りの世界しかなかった。
やがて、平八郎の眠る部屋のドアの前に来た。ドアノブを握り、勢いよくドアを開け放った。ベッドの脇に安田尚子が座っていて顔を櫻子に向けた。
「お姉さま、お待ちしておりました。今、学園長は天に召されました……」
尚子が低い声で櫻子に話し掛けた。それを受けて、櫻子は平八郎の顔を凝視した。
「この人はあたしの体を堪能しないうちに旅立ったのね、不幸な人…… 全くもって、不運な人ね……」
櫻子はゆっくり平八郎の脇に歩いてくると、尚子の隣に立って平八郎の顔を見つめた。そして尚子を見た。
「何で平八さんがこんな若い姿になっているの?」
櫻子の問いかけに尚子は笑顔で答えた。
「学園長は再生しました」
しかし、むしばまれた肉体に容赦なく攻撃する細胞破壊による激痛は、たびたび、平八郎の意識を失わせた。激痛に耐えかねると体に装着された人工知能(AI)機能付き鎮痛装置が自動的に判断し、平八郎の体に適量の麻酔注射をする。
そんな状況を繰り返しながら今日に至ったが、ついに、体をけいれんさせながら意識を失った平八郎は、麻酔の効果で、静かに深い眠りに入った。その直後、教壇に立っていたAndroid型平八郎は動作指令を絶たれ、その場にフリーズした。両腕をだらんと下げ、幽霊のごとく立っていた。
平八郎の命を賭した最後の授業は、終了チャイムを聞くこともなく動きを止め、終えんを迎えようとしていた。教壇の見える後方で見守っていた櫻子が、平八郎の異変を感じ、声を上げた。
「平八さん……」
駆け寄った櫻子が声を掛けても平八郎は、微動だにしなかった。直後、Android型平八郎は床に直立したまま背中から床に倒れた。櫻子は、その瞬間、平八郎がたった今、天国に旅立ったことを確信した。
ドン、というその無機質な音は、あまりにあっけない平八郎の断末魔だった。直後、教室で女子生徒が叫び声を上げた。少しずつ、教室全部がざわめく。少女たちの奇声を聞いて、櫻子は正気に返ると、教室を飛び出した。櫻子は全力で平八郎の眠る寮の部屋に向かおうと、廊下を全力で駆け出した。すると、
「警戒、警戒、警戒、警戒……」
どこからともなく学校中に、心臓を突き刺すような警告音が鳴り響く。同時にウィーン ウィーン ウィーン ウィーン ウィーン けたたましい警報音が合わさり、走ることを抑制するかのようだった。
櫻子は、改めて、この学園のセキュリティが異様に厳重であることを感じた。女子校だからか、と思っていたが、そうでもない。なぜなら、櫻子はこの学園に到着した初日、難なく正門から学園長室に、誰に制止されるでもなくすんなりと入ることができた。これだけセキュリティが厳しいのに、不自然である。今までの一連の出来事は仕組まれていたのではないか。すべてが計画されていた、という疑念がわいてきた。私は平八郎を利用しようとしていたが、彼がうまく利用していたのではないか。平八郎に対する一抹の不信感を抱きながら、長い廊下を走っていると、わずか4日間とはいえ、彼との甘くて濃密な思い出がよみがえって来た。こんなに早く死を迎えるなら、思い出をもっとつくっておけば良かった。あんなことをしたり、こんなことをしたり、そんな、あんな、こんな、を繰り返し、思い出をいっぱい抱え、彼との幸せな時間に浸り、そっと、一人部屋にこもり、喪失感を抱えている自分を想像した。
結局、じらすため、彼にほとんど体を触らせてやらなかった。櫻子は今、顧みると、疾走する廊下で「自分は鬼だな」と思って小さく笑った。
しかし、それにしても、平八郎が死んだという実感がほぼない。喪失感を感じない。櫻子の第六感が感じるのはやるせない偽りの世界しかなかった。
やがて、平八郎の眠る部屋のドアの前に来た。ドアノブを握り、勢いよくドアを開け放った。ベッドの脇に安田尚子が座っていて顔を櫻子に向けた。
「お姉さま、お待ちしておりました。今、学園長は天に召されました……」
尚子が低い声で櫻子に話し掛けた。それを受けて、櫻子は平八郎の顔を凝視した。
「この人はあたしの体を堪能しないうちに旅立ったのね、不幸な人…… 全くもって、不運な人ね……」
櫻子はゆっくり平八郎の脇に歩いてくると、尚子の隣に立って平八郎の顔を見つめた。そして尚子を見た。
「何で平八さんがこんな若い姿になっているの?」
櫻子の問いかけに尚子は笑顔で答えた。
「学園長は再生しました」
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