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第23章 櫻子VS尚子
3話
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「櫻子さん、やっとお会いできましたね。田所平八郎です。この姿が僕の本当の姿です。驚かれたでしょうね」
櫻子は男の言葉の意味が分からなかった。言葉はかすれ声量がない。櫻子は平八郎と名乗る男の声をしっかり聞きたくて、そばに歩み寄った。平八郎は口に酸素マスクを付けていたが、醜い野獣にしか見えなかった。
「え? あなたが平八さんなの? どういうこと?」
櫻子は平八郎の体の状態を感じ取った。この人はもう長くは生きられない。今までの流れから、平八郎は学園長の後継を探していた。そうとしか考えられない。
「尚子くん…… 君から説明してくれますか…… ゴホゴホゴホ」
平八郎は話すと呼吸が苦しくなるようだ。
「では、あたしから詳細を説明しますので、学園長も聞いてください。もし、訂正があるようでしたら、別の時間にドールで櫻子さんにお話しください」
「何なの? あんたがさっきから言ってる、ドールって?」
櫻子は尚子に問うと、尚子はたった今、入ってきたドアを見ながら、
「あれです」
尚子が見ている先に、櫻子も顔を向けた。そこには先ほどまで食堂にいた平八郎が立っていた。平八郎が部屋の片隅にあるひつぎのようなプラスチック製の箱まで歩いていくと、後ろ向きに体を反転させて箱の中へ入った。箱の上部にあるモニターが光り、充電中という表示が出た。
「メンテナンスを開始します」
箱のどこかからアナウンスが流れた。
「何?? 人形なんてものじゃないわ、ロボットだったの? 信じられないわ。まるで人間じゃない?」
驚いて質問した櫻子は、尚子の答えを待った。櫻子の反応に気をよくした尚子は、愛らしい顔を崩し得意げに話し始めた。
「この学園の寮はこの人間型ロボットの工場です。寮生がいなくなって別の価値を生み出すことにしました。学園長の教育方針は、すべての人が楽しい社会活動をできるようにする。そういう人間に育てる教育です。誰もが助け合いながら、社会に貢献する。しかし、そんな理念は今の社会ではなかなか受け入れられません。だから、心身に障害を持った弱者を弱者用スーツを使って補強することが当初の目標でした。つまり、体に障害を持った人に社会貢献できるようにサポートする。そういう心をもった人間を育てる教育です。そういう考え方を持った女性を増やすことで、学園長は社会はきっと明るく幸せな生活を送れると確信しました。わたしもその考え方に共感し、この学校に入学しました。あたし、現在2年生です」
櫻子は学園長と尚子の二人の話を聞いて驚いた。自分の思想とはまるで相いれない思想に思えた。
「あんたとわたし、年が一つ、違うだけだわ。それなのに、そういう考え方ができるなんて、あんた、すごい、偉いわ」
櫻子はそう言いながら、そんなきれい事を言って、この子もお嬢様育ちのお子ちゃまに違いない。人間がそんなきれいごとで育つわけがない。櫻子はラービアとして育ってきた経験からそう思った。人の心は育った環境で変わる。
「あたしもそう思います。あたし一人では日本は変えられない。だから、2年前、ラービアさんの存在を学園長に紹介しました」
櫻子はさらに驚いた。櫻子が心で考えていたことを尚子は読み取った。さらに、2年前から櫻子の存在を知っていたという。
「あなたって? 何者なの?」
「櫻子さん、あたしと友だちになってください。あなたの会いたがっている児玉進一さんにお会いできるようにします」
尚子の言うことに櫻子は驚いてばかりいた。尚子は心を読み取る超能力があるのだろう。それに、知能が半端でなく高い。知能指数(IQ)150。その能力を見つけたのが、平八郎だ。その能力を見い出した平八郎は、尚子を教育し、ドールの開発を担わせた。
平八郎は日本の青少年に明るく生活できる社会にしようという思いを心の中にまく教育を進めた。彼ら心を希望に満ちた未来に導く。そのため、まずは強じんな心身に鍛える必要があった。まず、種を出産することのできる女性の心身を強くしていかねばならないと、第1段階として考えた。第2段階はそれに感化された青年の心に女子から蒔いてもらうのである。その種が開花したとき、日本の社会から、憎悪、嫉妬、いじめ、を消し去ることができる。それが平八郎の教育理念だ。つまり、第1段階、女性の自立を目指した教育だ。誰もが彼の偉大な考えに賛同し、学園設立に向けて出資し、学園が誕生した。りっぱな教育理念だ。それから30年余、平八郎の教育は足踏みを続けた。種はなかなか開かない。もっと大胆な方法に寄らなければ改革できないのではないかと思い始めた。
櫻子は男の言葉の意味が分からなかった。言葉はかすれ声量がない。櫻子は平八郎と名乗る男の声をしっかり聞きたくて、そばに歩み寄った。平八郎は口に酸素マスクを付けていたが、醜い野獣にしか見えなかった。
「え? あなたが平八さんなの? どういうこと?」
櫻子は平八郎の体の状態を感じ取った。この人はもう長くは生きられない。今までの流れから、平八郎は学園長の後継を探していた。そうとしか考えられない。
「尚子くん…… 君から説明してくれますか…… ゴホゴホゴホ」
平八郎は話すと呼吸が苦しくなるようだ。
「では、あたしから詳細を説明しますので、学園長も聞いてください。もし、訂正があるようでしたら、別の時間にドールで櫻子さんにお話しください」
「何なの? あんたがさっきから言ってる、ドールって?」
櫻子は尚子に問うと、尚子はたった今、入ってきたドアを見ながら、
「あれです」
尚子が見ている先に、櫻子も顔を向けた。そこには先ほどまで食堂にいた平八郎が立っていた。平八郎が部屋の片隅にあるひつぎのようなプラスチック製の箱まで歩いていくと、後ろ向きに体を反転させて箱の中へ入った。箱の上部にあるモニターが光り、充電中という表示が出た。
「メンテナンスを開始します」
箱のどこかからアナウンスが流れた。
「何?? 人形なんてものじゃないわ、ロボットだったの? 信じられないわ。まるで人間じゃない?」
驚いて質問した櫻子は、尚子の答えを待った。櫻子の反応に気をよくした尚子は、愛らしい顔を崩し得意げに話し始めた。
「この学園の寮はこの人間型ロボットの工場です。寮生がいなくなって別の価値を生み出すことにしました。学園長の教育方針は、すべての人が楽しい社会活動をできるようにする。そういう人間に育てる教育です。誰もが助け合いながら、社会に貢献する。しかし、そんな理念は今の社会ではなかなか受け入れられません。だから、心身に障害を持った弱者を弱者用スーツを使って補強することが当初の目標でした。つまり、体に障害を持った人に社会貢献できるようにサポートする。そういう心をもった人間を育てる教育です。そういう考え方を持った女性を増やすことで、学園長は社会はきっと明るく幸せな生活を送れると確信しました。わたしもその考え方に共感し、この学校に入学しました。あたし、現在2年生です」
櫻子は学園長と尚子の二人の話を聞いて驚いた。自分の思想とはまるで相いれない思想に思えた。
「あんたとわたし、年が一つ、違うだけだわ。それなのに、そういう考え方ができるなんて、あんた、すごい、偉いわ」
櫻子はそう言いながら、そんなきれい事を言って、この子もお嬢様育ちのお子ちゃまに違いない。人間がそんなきれいごとで育つわけがない。櫻子はラービアとして育ってきた経験からそう思った。人の心は育った環境で変わる。
「あたしもそう思います。あたし一人では日本は変えられない。だから、2年前、ラービアさんの存在を学園長に紹介しました」
櫻子はさらに驚いた。櫻子が心で考えていたことを尚子は読み取った。さらに、2年前から櫻子の存在を知っていたという。
「あなたって? 何者なの?」
「櫻子さん、あたしと友だちになってください。あなたの会いたがっている児玉進一さんにお会いできるようにします」
尚子の言うことに櫻子は驚いてばかりいた。尚子は心を読み取る超能力があるのだろう。それに、知能が半端でなく高い。知能指数(IQ)150。その能力を見つけたのが、平八郎だ。その能力を見い出した平八郎は、尚子を教育し、ドールの開発を担わせた。
平八郎は日本の青少年に明るく生活できる社会にしようという思いを心の中にまく教育を進めた。彼ら心を希望に満ちた未来に導く。そのため、まずは強じんな心身に鍛える必要があった。まず、種を出産することのできる女性の心身を強くしていかねばならないと、第1段階として考えた。第2段階はそれに感化された青年の心に女子から蒔いてもらうのである。その種が開花したとき、日本の社会から、憎悪、嫉妬、いじめ、を消し去ることができる。それが平八郎の教育理念だ。つまり、第1段階、女性の自立を目指した教育だ。誰もが彼の偉大な考えに賛同し、学園設立に向けて出資し、学園が誕生した。りっぱな教育理念だ。それから30年余、平八郎の教育は足踏みを続けた。種はなかなか開かない。もっと大胆な方法に寄らなければ改革できないのではないかと思い始めた。
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