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第23章 櫻子VS尚子
1話
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山野櫻子が目を覚ますと、すぐそばに横たわる櫻子をじっと見つめている平八郎がいた。櫻子は右手を平八郎の胸の前に差し出した。平八郎は身動きしないで遠くを見つめている。差し出した手を平八郎が握り返してくれるものと期待していた櫻子は、少しがっかりしながら言った。
「平八さん、なぜ? 握ってくれないの?」
櫻子の問い掛けに、平八郎は全く反応しない。変わらず目は遠くを見ている。気を失っているみたいに反応がない。突然、その彼の後ろから少女が顔を出した。
「はーい、櫻子さん! はじめまして」
そう言いながら、笑顔を振りまく少女が誰か櫻子にはすぐ分かった。安田尚子だ。日本上陸3日目にしてついに尚子に対面した。
「これって…… もしかすると、あなた、平八郎さんを操っていたの?」
櫻子は今までの平八郎が本当の姿ではなく、尚子に操作された平八郎だったのでは、という不安を感じた。
「あんた、あたしが来ることを知って、学園長を操り、すべてを準備したの? あたしのことを知ってるの? あたしが日本に来た理由を知ってるの? あなた、何もの?」
反応しない平八郎の様子に気が動揺していた櫻子は、怪しげな登場をした尚子に矢継ぎ早に質問を浴びせた。平八郎の後ろから顔だけで出していた尚子が、体を現した。尚子は濃紺のブレザーとグリーン地のチェック柄スカートを着ていた。膝上のスカートから出た生足はまだふっくらした少女の肉付きだ。ハイソックス、黒の革靴。この学園の制服か。おととい、この学園に到着したが、土日で授業が休みだったので学生を見ていない。ここへ来て初めて見た生徒が尚子が初めてとは驚いた。こんな感じの子がこの学園には集まっているのだろう。つまり、日本という国はこんなあどけない子がいる国なんだ。日本は平和の国だ。平和だから生への執着、闘争心がない。若ものは平和という恩恵を受けながら、惰性で生きている。そういう民族だ。
「あら、操っていたなんて。櫻子さんの魅力を学園長に詳しくお話ししただけです。今までの櫻子さんへの思いは、学園長の素直な気持ちです」
「じゃ、何? この平八さんの今の状態は? 体が固まったままじゃないの。電池の切れた人形じゃないの? これってどういうこと?」
櫻子は、尚子が平八郎の体を乗っ取り、今まで、唐変木学園長として行動させ、自分の心を平八郎を使って踊らせていた。そう思うと腹が煮えくり返ってきた。あたしの平八郎をどうしたの? 返事次第ではただでは済まないわ。
カタカタ、カタカタ、周辺の家具や装飾品がわずかに上下に振動し始めた。いくつかの椅子が床から離れ出し、空中に浮いた。それを見た尚子の顔が引きつった。
「ワワワ、ち、違います。櫻子さん、落ち着いてください。説明しますから。学園長のこと、あたしのこと、いろんなこと、誤解されたみたい。ごめんなさい。エエエーっと、こ、これから櫻子さんに見てもらったほうが早いと思います。百聞は一見にあらず、って言いますから、あたしに付いてきて見ていただけますか?」
怒りで頭がパニクになりかけた櫻子は、尚子の言うことを信用できなかった。目の前に腰掛けている学園長がこの部屋にいないような口調だ。移動するまでもなく、この部屋にいる平八郎の呪縛を尚子が解けばいいだけ。しかし、なぜか、平八郎は両目を開いたまま、瞬きすらしない。椅子に座ったままだ。先ほどからの平八郎の状態に櫻子は疑問を抱き始めた。今までの平八郎がもう存在しないかもしれない。嫌な予感が湧き上がるばかりだ。周辺の家具が、カタカタカタ、振動が大きくなり始めた。
「ワワワワーーー 櫻子さん、アアアアアアーーー どうか、冷静で、お、お願いします」
尚子が、頭に両手を当てて混乱状態の櫻子の体を抱いて興奮を静めようとした。しかし、櫻子はその尚子の腕を払いのけた。その瞬間、尚子はその勢いに押され、体が一瞬浮いたと思ったら、勢いよく後ろの壁に瞬く間に飛ばされた。壁に掛けてある風景画に尚子は背中から勢いよく当たった。その瞬間、グシャ 尚子の全身の骨が砕ける音がした。櫻子の目から止めどもなく涙が流れていた。
「平八さん…… あたしの平八さん……」
「平八さん、なぜ? 握ってくれないの?」
櫻子の問い掛けに、平八郎は全く反応しない。変わらず目は遠くを見ている。気を失っているみたいに反応がない。突然、その彼の後ろから少女が顔を出した。
「はーい、櫻子さん! はじめまして」
そう言いながら、笑顔を振りまく少女が誰か櫻子にはすぐ分かった。安田尚子だ。日本上陸3日目にしてついに尚子に対面した。
「これって…… もしかすると、あなた、平八郎さんを操っていたの?」
櫻子は今までの平八郎が本当の姿ではなく、尚子に操作された平八郎だったのでは、という不安を感じた。
「あんた、あたしが来ることを知って、学園長を操り、すべてを準備したの? あたしのことを知ってるの? あたしが日本に来た理由を知ってるの? あなた、何もの?」
反応しない平八郎の様子に気が動揺していた櫻子は、怪しげな登場をした尚子に矢継ぎ早に質問を浴びせた。平八郎の後ろから顔だけで出していた尚子が、体を現した。尚子は濃紺のブレザーとグリーン地のチェック柄スカートを着ていた。膝上のスカートから出た生足はまだふっくらした少女の肉付きだ。ハイソックス、黒の革靴。この学園の制服か。おととい、この学園に到着したが、土日で授業が休みだったので学生を見ていない。ここへ来て初めて見た生徒が尚子が初めてとは驚いた。こんな感じの子がこの学園には集まっているのだろう。つまり、日本という国はこんなあどけない子がいる国なんだ。日本は平和の国だ。平和だから生への執着、闘争心がない。若ものは平和という恩恵を受けながら、惰性で生きている。そういう民族だ。
「あら、操っていたなんて。櫻子さんの魅力を学園長に詳しくお話ししただけです。今までの櫻子さんへの思いは、学園長の素直な気持ちです」
「じゃ、何? この平八さんの今の状態は? 体が固まったままじゃないの。電池の切れた人形じゃないの? これってどういうこと?」
櫻子は、尚子が平八郎の体を乗っ取り、今まで、唐変木学園長として行動させ、自分の心を平八郎を使って踊らせていた。そう思うと腹が煮えくり返ってきた。あたしの平八郎をどうしたの? 返事次第ではただでは済まないわ。
カタカタ、カタカタ、周辺の家具や装飾品がわずかに上下に振動し始めた。いくつかの椅子が床から離れ出し、空中に浮いた。それを見た尚子の顔が引きつった。
「ワワワ、ち、違います。櫻子さん、落ち着いてください。説明しますから。学園長のこと、あたしのこと、いろんなこと、誤解されたみたい。ごめんなさい。エエエーっと、こ、これから櫻子さんに見てもらったほうが早いと思います。百聞は一見にあらず、って言いますから、あたしに付いてきて見ていただけますか?」
怒りで頭がパニクになりかけた櫻子は、尚子の言うことを信用できなかった。目の前に腰掛けている学園長がこの部屋にいないような口調だ。移動するまでもなく、この部屋にいる平八郎の呪縛を尚子が解けばいいだけ。しかし、なぜか、平八郎は両目を開いたまま、瞬きすらしない。椅子に座ったままだ。先ほどからの平八郎の状態に櫻子は疑問を抱き始めた。今までの平八郎がもう存在しないかもしれない。嫌な予感が湧き上がるばかりだ。周辺の家具が、カタカタカタ、振動が大きくなり始めた。
「ワワワワーーー 櫻子さん、アアアアアアーーー どうか、冷静で、お、お願いします」
尚子が、頭に両手を当てて混乱状態の櫻子の体を抱いて興奮を静めようとした。しかし、櫻子はその尚子の腕を払いのけた。その瞬間、尚子はその勢いに押され、体が一瞬浮いたと思ったら、勢いよく後ろの壁に瞬く間に飛ばされた。壁に掛けてある風景画に尚子は背中から勢いよく当たった。その瞬間、グシャ 尚子の全身の骨が砕ける音がした。櫻子の目から止めどもなく涙が流れていた。
「平八さん…… あたしの平八さん……」
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