蜃気楼の女

窓野枠

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第22章 学園長・田所平八郎

1話

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 櫻子は学園に乗り込んでから、田所平八郎とつきっきりで、昼は学園生活、夜は寮生活を過ごした。平八郎と出会って、ほぼ2日間の寝食をともにした。学園長は独身。結婚歴なし。私生活は一切不明。今まで、教育者として、一心不乱に日本の教育を高めようと、教育活動していて気が付いたら、今日に至る、と笑いながら櫻子に言うだけ。平八郎は女子生徒から慕われたに違いない。もしかすると、何人かのキュートな女子生徒と愛を語りあったかもしれない。そのあげく、妊娠させて、学園の外には扶養家族がたくさんいる。そんな罪を背負いながら、贖罪のため、身も心も教職に捧げたかも。女たらしの、禄ででなし、助こましの最低男、だったかもしれない。人間、秘密は誰にでもある。聖人君子とあがめられようと例外ではない。誰にでも魔が差すと言うことがある。現に、櫻子の女の魅力にはまっている。とんだ、自称教育者だ。ただのエロじじいではないか。いや、変態じじいだ。男は70代まで性欲が衰えないすけべな生物だ、と 蜃気楼しんきろうの女たちから櫻子は聞かされた。すべての生物は種を存続させるため、DNAに生殖行為のプログラムがインプットされた。きっと、この学園長も男だし、あたしを犯したいに違いない。無理やりソファーに押し倒し、肉棒をあたしのちつに突き刺してくる。嫌がれば、学園長代行はなしだ、と言って交換条件を提示する。女体が目当ての、げすなじじいだ。  
 フフ、そうでないと、これからの展開上、あたしは困る。ぜひ、そうあってほしい。邪悪な心に支配されつつある櫻子は、自分のナイスバディーを武器に人を操ろうと画策する。
  しかし、平八郎と会ってわずか二日というのに、一人でいると、学園長のことばかり考えてしまう。学園長といるときは当然のことだが、ドキドキ、心臓の鼓動が速まり、顔を紅潮させた。いつもの自分ではない。平八郎の本心を知りたいが、私生活を語らない。だから、この人は何を考えているのかと思うと、気になる。好奇心で、いても立ってもいられない。この人を知りたい、という気持ちが湧く。この世に、聖人君子は指で数えられるくらいしかいないだろう。その指に、学園長が入るほど、世界は狭くない。櫻子はそう確信している。学園長が根っこの部分で、動物的、野蛮な男、そういう部分がある、と確信する。根拠のない確信であるが、そうでないと、自分の日本国の乗っ取り計画は、完全に頓挫することになる。なぜなら、この乗っ取り計画は、学園長を自分のナイスバディーを餌に、色仕掛けで、たぶらかすことが基本計画だ。櫻子の色仕掛けでなびかない男がいると仮定したら、それは女か? あるいは、オカマ、ゲイ、という可能性も捨てられない。そうだったら、どうする? 櫻子の脳裏にはそんな疑問も交錯した。そうだとすれば、学園長と絶対セックスできない。自信満々の櫻子に、失望感、絶望感、ネガティブな感情が沸いた。こんな不安定な気持ち、学園長に会うまで感じたことがなかった。胸が苦しい。櫻子はたった一人の老人のことを、自分の意のままにできない男がいることを、どうすることもできず、悩んでいる自分が情けなかった。苦しくて、やるせなくて、自分の腕で自分の上半身をぎゅっと、抱きしめた。この気持ちは何なの? もう、自分が自分でない。学園長を思えば思うほど、胸が苦しい。
 見習い学園長代行・山野櫻子は平八郎の後に付きながら業務を指導された。老齢の学園長は気立てが良くて美少女なのに、気取らず、おおらか、世話焼き、それでいて、エッチが好きなところ、が気に入った。学園長は櫻子をずっとそばに置きたい、と考えた。彼女をそばに置いておくにはどうしたらいいか。副学園長にし、いずれ学園長を任せよう、と決心した。  
「わたしは君みたいな孫がいてもおかしくない年齢です。もっと、早く君と知り合いたかったです。でも、遅くはありません。これからいっぱい知り合いましょう。いいですよね? 櫻子さん……」
  平八郎はそう言いながら、櫻子の手を握りしめる。櫻子は母国で父から超能力の制御方法を教示してもらったとき、父が怖くて緊張の毎日だった。ところが、学園長の人柄か、教え方は優しく、気が付くと、いつの間にか学園長を見つめ、師と仰ぐようになっていた。否、この気持ちは師と言えるだろうか? 会ってからまだ二日というのに、この気持ちは一体何なの? 櫻子は不思議に思った。櫻子は首を左右に勢いよく振った。
「これって、一目ぼれ? うそ! ダメよ、あの老人を利用するのよ! あの男の価値は、一時の道具でしかないのよ! そうよ、ゲームの駒よ!」  
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