蜃気楼の女

窓野枠

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第21章 学園

3話

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 自分の体を提供することなく、あまりにも簡単に学園の運営を任せてもらえそうになった櫻子は、当初の目的通りすんなりいったので拍子抜けした。しかし、これから老いたおじいさんのご機嫌を取らなくてはならないことは、交渉前から何か条件があるものと予想している。交換条件に自分の体を餌にすることは、当然のごとく、考えていた。それが、そうしなくても、すんなり、取りあえず、学園長代行の地位を得られたのだから、由としよう。と思ったものの、櫻子は本当は異性である学園長とセックスすることに期待があった。以前から時々想像はしたりしていたが、男性とどうセックスするのかイメージが今一であった。
 宮殿に住んでいたラービアは、側近の女たちから宮殿の外に住む女たちが、フリーセックスをおう歌していることをなんとなく聞いていた。溢れ出る性欲をあがなえきれない一部の 蜃気楼しんきろうの女たちは、隣国に深夜、こっそり侵入しては、若くて元気のいい男を拉致して連れ帰って、拉致した一人の男を、自分たちの欲望のはけ口としてもてあそんで暮らしているらしい。拉致されてきた男は毎日官能の嵐を複数の女たちから受けるのであるから精も根も尽き、疲労困憊で衰弱し、大抵、興奮のあまり心不全を起こし腹上死しているという。ラービアは側近からちまたで実践されている男との情事に、女とは違う官能に関心をもっていた。  
 宮殿内に女王妃として祭られている状態で、そんな体験も自由にできない櫻子は、男の体を自分とまぐわせて、どんな営みをするのか? 未知の体験に興味が尽きなかった。だから、自分の体をいたわってくれそうな、経験豊富な学園長となら、心を許し、交わってもいい、と考えていた。その情事のことを思い出していた櫻子は、隣に座る学園長の顔に近づけた顔を、さらに近づけ、乾燥した学園長のカラカラにしおれた唇に自分の唇を吸い寄せられるように近づけていく。そのすぐ直前で、櫻子は学園長の眼を見て言った。  
「あたしのこと、抱きたくないの? 抱くことを条件にしないの?」  
 自分の体を餌として釣ろうとしていた櫻子は、自分の体が餌として、学園長には魅力がないのかと疑問を持ち始めていた。訳を知りたい。口をすぼめ、掠れた声をやっと絞り出した櫻子は、学園長の額のしわをじっと見つめ、返事を待った。
 「ああ、もちろん抱きたいです。きみのすべてを見たいです。知りたいです…… この年になって、こんな若い子に惚れてしまうなんて…… 櫻子さんに会って、僕の理性は壊れてしまったかも知れません……」

「ええ? 先生、そんなーー…… うれしい…… で、あたし…… こんなこと言ったら、嫌われるかもしれないけど、でも、もう、我慢できません。あたし、どうしても…… …… …… せせ、せ、先生としたいです……」  
 同性とフリーセックスをおう歌してきた櫻子は、異性に抱かれるのは初めてで、学園長を抱きたくなってきた。 蜃気楼しんきろうの国では周囲はすべて女。唯一の男は国王マスウードだけだった。だから、同胞の女である側近と何度となく、日常的に愛し合って、絶頂を思う存分、体験してきた。それが、アラビアーナ国を出国し、日本に渡り、この場で、異性の存在を知り、今、この場に、初めて男性の手の感触を感じている。節くれ立って、萎れたたるんだ男の手に触れている。櫻子はその手の感触が初めてのことで、気持ちが高ぶった。絶対的な超能力を持っているのに、ごつごつした、老いて、萎れた男の手を握って、初めて父以外の男の体に触れた。このしわしわの手、これが年齢の深みというもの? その湧き上がる気持ちは、初めて経験する感情だった。これからするセックスを想像すると、めくるめく快感を感じさせてくれるかもしれないという期待に胸が高まり、早く学園長の性器を見たいと、性欲が押さえられない。もう、ムラムラしてしまう。この感覚は何? 櫻子は自問した。  
「あっ、!」  
 興奮が高まってきた櫻子が思わず声をもらした。高齢者に興奮している自分に驚いていたが、学園長の心は決して老いていないからかもしれない。櫻子は興奮が収まらないながらに考えていた。櫻子はおじいさんの股間に片手を伸ばし、さすった。学園長が言うように、彼の肉棒はまだとても柔らかで小さくしぼんでいて大きくなりそうにない。うわさではこれがものすごく固くなるらしい。その固い棒を押しつけてくると言うことは、なんとなく知っていた。  
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