蜃気楼の女

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第11章 蜃気楼脱出

1話

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 安田を拉致した主犯格はナルミと安田は思っていた。 蜃気楼しんきろうから脱出するのはいとも簡単だった。当初こそ、安田に対し高圧的だったナルミは、時の経過とともに安田の言いなりになった。マゾに目覚めた安田は、ナルミの全身をむちで容赦なくとことん打ち据えた。だから、ナルミは毎日、身も心も、安田のむち打ちに恐怖し、その恐怖によってもたらされる快感の嵐に全身で身もだえていた。6カ月が過ぎたとき、安田がいつものようにナルミの全身にむちを打ちながら、言った。  
「ナルミ、わたしは日本へ帰る。止めたらおまえにはむち打ちのしつけは、もう、してやらないぞ」  
 そうは言うが、安田の体はナルミにむち打ちをしないと快感を得られない性癖になっていた。それに対し、息を荒くしながらナルミは懇願した。  
「そんな無体な…… しかしながら、ご主人様はわたしにむちを打ち据えないと快感を得られない体なのですよ。わたしも付いていくと言うことですか?」  
 ナルミは安田に背中を踏みつけられながら、苦しそうに顔をもたげて安田に顔を向けた。それに対し、安田はナルミに対し、さらに激しくむちを打った。  
「何をたわけたことを言う? わたしはどんな女でもいいのだ、しかし、おまえは、わたしだけに燃える体なんだよ、逆らえるのか? え? 奴隷の分際で、口答えするのか? もう、むちを打ってやらないぞ!」  
 ナルミは足でこめかみを踏みつけられながら、涙を流した。ナルミは大切なものを失いたくはないという思いで頭がいっぱいになっていた。そのせいで、この夜、ナルミは初めて安田にむちを打たれても、絶頂感を感じられなかった。それほど、安田を失う未来に対し恐怖した。  
 *
  その翌日、ナルミがあっけなく安田の足下にひれ伏し懇願した。
「どうか、昨夜の所業、奴隷の分際でたてつきましたことを…… あたしをお許しください。奴隷の身のわたしがあなたに反抗したりしてお許しください。どうか、今すぐ、この奴隷を厳しくむちで打ってくださいませ」  
 一日でナルミはさらに安田に対し従属化を示した。 蜃気楼しんきろうからの脱出を承諾した。安田はその直後、たくさん、制裁だと言って、ナルミの白い柔肌にむちをいつもより多く打ち据えてやった。いつもより多くむちを打たれ、昨晩、いけなくてもんもんとしたナルミは、堰を切ったように押し寄せた快感の嵐に、身をよがらせた。  
「ご主人様、もう、いってしまいそうですーーー」  
「そんなにいいか? いっていいぞ、今日は特別のお仕置きのむち打ちだ。今度、わたしに反抗したら、むち打ちをやめてしまうぞ…… むちを打たれなくなったおまえは、気を狂わして俳人になるぞ」  
 さすがのナルミも、鬼気を放つ安田の仕打ちを初めて知って、全身が震えた。ナルミは涙目で首を縦に振り、むちを打たれるたびおえつを上げた。ナルミはこの一件から、むちを打たれるたびに、小さな快感がやってくるようになった。体が変態した。小さな快感が体に蓄積された。安田がむちを止めると、ナルミの全身に官能の嵐が押し寄せ、絶頂に浸りもだえた。ナルミは 蜃気楼しんきろう防衛隊長の職務もすんなりと捨て、安田から受けるむち打ちの快感を心から欲した。それはナルミでしか感じることのない性癖だった。  
 安田は極秘のうち 蜃気楼しんきろうを脱出するための画策をした。クウェート石油に赴任していた替え玉の安田はナルミの側近が 蜃気楼しんきろうに連行し、幽閉し、超能力を駆使し、洗脳した。替え玉の安田の、さらなる替え玉を作り上げた。幽閉と言っても、偽安田の偽安田も 蜃気楼しんきろうの女たちによる官能責めによって、あっという間にとりことなってしまい、自ら居すわり、官能三昧の生活をおう歌した。これを期に、偽安田は老人になるまで官能の毎日に溺れて生きることになる。  
「いいことをしたな。彼は幸せ者だ」  
 安田はナルミに心の底から言った。そういう画策が完了し、安田とナルミは 蜃気楼しんきろうの脱出準備を終えた。そして、日本に渡るため、クウェートに移動した。
  ナルミはクウェート空港で入国検査官にスーツに入っていたマイむち、マイ縄を発見された。
「マダム、これは何の目的で?」  
「あたしの手足を縛り、全身をたたくためのものよ」  
 その一言で、検査官はにやりと笑って言う。  
「いいご趣味ですねえ。わたしもあやかりたいです」  
「どう? これから、あなたを縛った後、その飛び出たキュートなお尻をたたいて差し上げるわよ」  
 検査官は首を振って笑うと、通行を許可した。すんなり、ゲートを通ったナルミは大きく張りのあるお尻を振りながら、検査官に投げキスを送って言った。  
「残念ね、あなたのお尻、キュートでそそるわーーー むちをたたきたくなるわ」
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