蜃気楼の女

窓野枠

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第2章 魔性の女・安田尚子

1話

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 世田谷の住宅街に住む 児玉進一こだましんいちの家と 安田尚子やすだなおこの家は、隣り合っていた。その縁で、児玉が横幅国立大学に在学中、尚子の父・ 安田仁やすだひとしから尚子の東響大学受験に向け、家庭教師を依頼された。週2日の隔週で高校1年生の尚子の勉強を教えることだった。それが、尚子が2年になると、週4日の隔週になり、やがて毎週5日になり、尚子が予定どおり東大受験を受けたいと切り出した頃、成績が上がってきたこともあって、3年生になると、週6日で毎週となり、受験二ヶ月前にはほとんど毎日、付きっきりで尚子と顔を合わせていた。尚子が受験する東大の入学試験に向けて、児玉は尚子の部屋を訪ね、家庭教師として、高校1年生から3年生まで手取り足取り教えた。児玉は知らないうちに幼い妹のような存在だった尚子に引かれていった。児玉は、尚子が魔性の超能力を備えていたことを知る由もない。魔性の超能力を備えた尚子は、超能力を使って、児玉に関心を自分に向けさせている、と思っていた。児玉の尚子に対する感情を、尚子にコントロールされていたわけではなかった。児玉は尚子が好きだった。児玉は、教えると言うのは名目で、尚子に会いたいから毎日家庭教師を続けてきた。  
 だから、家庭教師として訪問することになって1週間後、児玉は尚子から「キスして」と切望されて、しょうがないな、という感じを出しながら、心臓をドキドキさせながら、尚子の唇に自分の唇を重ねた。児玉は清楚でかわいらしい尚子とキスができて有頂天だった。
「これ以上の関係はきみが大人になるまで待つよ」
 うかれていた児玉は尚子が好きだったから、大切な尚子と、ゆっくり愛を築けたらと願った。そんな気持ちを抱いた児玉だったが、毎日、部屋にこもって勉強していたことで、二人は一種のノイローゼ状態になり始めた。毎日こもって勉強する隔離された空間、二人の精神状態が、尚子の、生まれながらの悪魔の超能力に刺激を与え、増強させた。  
「進ちゃんってさ、尚子のファーストキスを捧げた男だから…… あたしの処女もあげるからね…… あたしの中に精液をいっぱい出してね。だから、セックスする女はあたしだけにしてね、進ちゃん…… 約束だよ……」
  異常心理状態になっていた尚子は児玉と二人きりになると、日常決して考えもしない淫らな言葉を投げかけ、児玉に「将来、あたしを抱いてほしい」と、遠回しに言った。児玉は好奇心旺盛の思春期の興味から出た冗談と思い、笑ってやり過ごした。3年間尚子から言われる「将来、セックスしよう」が呪文のように、毎日、二人の会話の中で、何回となく、繰り返された。その秘密の合い言葉が、尚子のふるさとアラビアーナ国の古くからある経典と重なり、尚子を魔性の女に導いた。「将来、セックスしよう」が呪文のごとく、尚子の脳に深く刻み込まれていった。
「分かったよ、尚ちゃんが大人になったらね……」
 進一が尚子に笑いながら返す言葉。尚子ばかりではなく、進一が発する言葉も呪文となり、悪魔の超能力を同調、増幅させた。やがて、それが進一の持っていた深層に巣くっていた魔性の超能力をも引き出し始める。進一と尚子は、互いの性欲が、互いの魔性の超能力を引き上げていった。
 二人は東大受験日の前日、魔性の超能力を最大限に刺激し、魔性力が開眼した。
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