蜃気楼の女

窓野枠

文字の大きさ
上 下
3 / 134
第1章 再会

3話

しおりを挟む
(進一よ、踏ん張った、偉いぞ、これは師弟愛だぞ、人の道を踏み外してはいけない)
 児玉は尚子への欲望を、自分の強い意志で止めたことを褒めてあげた。東京都未成年者に対する淫行条例違反で逮捕される元好青年、ニュースの大見出しを何度脳裏に描いたことであろう。この子も、山野櫻子同様、児玉にとって、魔性の女だ。児玉はあったこともない山野櫻子の名前をこのときから知っていた。それも、不思議な記憶で気になっていたことであるが、それ以外、櫻子に関する記憶がない。

「ほら、尚子の汗なんて、全然平気さ」  
 児玉は尚子の背中に腕を回すと抱きしめた。尚子も既に汗を全身にかいていた。児玉は尚子の柔らかな胸の膨らみと体の熱を感じた。  
「進ちゃん、また、尚子を抱きしめてくれて、嬉しいー このままずっと、このままね…… お互いの汗をピチャピチャくっつけ合おうね……」  
 そう言いながら尚子が児玉の胸に、汗だらけの額を甘えるようにこすりつけてきた。尚子のあるときは甘えた少女のように振る舞うしぐさに児玉は理性を失って興奮する。そのまま、本能に任せて尚子を抱きしめていたくなる。尚子の背中に回していた腕を急いで解くと、尚子の肩に手を置いた。尚子は児玉の胸に顔を埋めたまま動かない。児玉もこのまま尚子を抱きしめていたかった。
 しかし、意を決して、児玉の胸から尚子のあごを右手でつかみ、顔を上げさせた。驚いた尚子は児玉をじっと見つめた。児玉は吸い寄せられるように尚子の唇に自分の唇を重ねた。  
「アッ」  
 児玉はついに欲望を抑えられなかった。  
「嬉しい、やっと、振り向いてくれたね、進ちゃん、あたし、今、能力を使わなかったよ……」  
 尚子は嬉しくてもう爆発しそうだった。尚子は児玉の胸におでこを強く押しつけた。  
「お願い、このまま…… このまま……」  
 児玉は涙を流す尚子をどうして良いか分からないでいたが、それでも、気になった尚子の言葉を反すうした。君の言う、あたしの能力って、何なの? 全く、訳の分からない子だ。でも、児玉はそういう尚子が、どうしょうもなく愛おしくて抱きしめていたい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

処理中です...