【完結】妖精と黒獅子

水仙あきら

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序章

昔話

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 悠遠の昔、無数の悲しい別れがあった。
 それは友人であり、親子であり、そして恋人であった。
 歴史の流れに抗うため、彼らは世界との決別を選ぶ。自らの心の引き裂かれるような痛みと引き換えに。

   



 慣れ親しんだ屋敷を出て、女は重い足取りで振り返った。艶やかなブルーグレーの髪と水色の瞳を持った、清廉な容貌の女である。
 振り向いた先には唯一愛した男がいて、慟哭を押し込めた瞳でこちらを見つめていた。

「本当に行くのか?」
「ええ。私が……私たちがいる限り争いは無くならない。もうこれ以上誰かが傷つくのを見るのはたくさんなのよ」

 苦しげな問いに、女は顔を歪ませて俯いた。その儚げな様子に男は両の拳を強く握りこむ。

「すまない……すまない。全ては人の欲望のせいだな」
「いいえ、悪いのは私。全てを捨てていく私をどうか許してちょうだい」
「泣いているのか」
「ごめんなさい。だって……悲しいのだもの」
「ああ……そうだな。ひどく、悲しい」

 女の透き通るような瞳からいくつもの涙が零れ落ちていく。
 もう二度と会えないであろうことは、共によく解っていた。

   

 そして人々は忘れていく。彼らの存在を、忘れていく——。

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