奴隷ダンジョン

えすってぃ

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【序章】

第九話:ダンジョンに召喚された奴隷

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【地下1F階層主の広場】
 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 リキッドが白う輝く玉に触れると、薄い膜がひび割れ消えていき、中から現れたのは寝ぼけた顔をした…男なのか女なのかよく分からない奴が現れた、黒髪黒目、顔も日本人のようにも見えるが中性的なそいつは


「貴方達は……何なんですか?」

 男だった

 寝惚けた顔で話すその声は、誰もがそう認識する程声が低かった

 可愛らしい顔とは真逆な声に、リキッドもいつもの儀式を思わず忘れそうになる


「……異世界へようこそ…そしてお前の自由は奪われた」

 相変わらず容赦ない一撃を撃ち込もうとライフルの銃身を目の前の奴隷の顔に向けて横から払っていく

 常人では見えない速度の攻撃に奴隷は全く反応できないが、ナルミの目で綺麗な顔をした奴隷の頬にクリーンヒットする瞬間、光の壁のような物がそれを遮ったのが分かった



 パーーンッ!と破裂音が広場に木霊し、
リキッドの攻撃が勝手に現れた何かの壁によって遮られる


「わっわっっ、なっ何するんですか!」


 障壁によってリキッドの持つ銃身が弾かれてから何かされたと気づく奴隷君は驚き尻餅を着いて抗議するがリキッドはまるで聞いてない


「ほう…シールド持ちか…コイツは良い…俺の奴隷にしてやろう」

「どっ奴隷って、アンタ、一体何を言ってるんだ?」

「お前は運が良かったな?リキッドさんは使える奴隷には取っても優しいんだ、あっ俺の事は小口治って呼ぶんだぞ?」

 
 早速コバが嘘の名前を擦り込みしようとするが


「お前はコバだろうが、ややこしいから余計な自己紹介すんな!」

 リキッドにあっさり阻まれる

「はいっすいませんっ!……おれの事はコバさんて呼べよっいいな!」

 彼はせめて、さん付けされたいらしい

「よろしく、コバさん……それで奴隷って……ここはホントに異世界なの?」

「そうだ、お前は召喚された、そして俺の奴隷になった、胸に紋章が付いてる筈だ、見てみろ」


 このまま進むつもりなのだろう、リキッドが自分で説明を始めた


「………本当に僕は奴隷に……」

「細かいステータスは後でギルドで登録すれば確認できる、流石に今日はお前1人の収穫じゃ勿体無い、人員の補充も出来たんだ…このまま進むぞ………そういえばお前の名前は?」


名前を聞かれた男は、とても言いづらそうに自己紹介をした
「……なっ名前は……轟伊佐雄(とどろきいさお)っていいます」

((なっ名前負け半端ねえ))キドとコバは初めて意見がピッタリ重なったが、日本人の名前など知らないリキッドは

「ふーん、まぁモヤシで良いか」
 モヤシを知っている事に驚いたがその名前はピッタリだった

「ナルミ、先に進む前にモヤシに攻撃してみろ、問題ないと思うがお前の攻撃ぐらい防げないと弾除けにならないからな」

「……はい」
(だっ大丈夫なのか?)

「ぇぇぇ………おっお手柔らかにお願いします」

 リキッドには言われたが一応手加減しようと拳を作ると

「武器使わないんなら全力でいけよ?」
(マジか………しっ死ぬなよ?)


 リギットの命令に従い、ファイティングポーズを構えるナルミを見たモヤシが、一歩後退りながら聞いてくる


「ちょっと……君……それ……本職(プロ)じゃないよね?」

「………一応腹にするから力抜くなよ」


 事前に教えて置いてやるのが精一杯だった、全力でやれと言われたナルミの拳がメキメキと音を立てて腕がパンプアップして太くなっていく


「ちょっとおおおおお」
「お前は動くな!」

 逃げ出そうとするモヤシはリキッドの命令によって動けなくなり首をイヤイヤと横にふる事さえ許されずに涙目になっていく


「モヤシ!腹に力入れろおお!」
「ひぃ!!」


 空気を裂くようなボディブローがモヤシの細い腹に向かって放たれ
 ヤル気は無いがナルミの頭の中のイメージはモヤシの胴体を突き抜けるようなイメージが浮かび、頭では必死に止めるが身体が言う事を聞かない

 モヤシのお腹の全面10cmぐらいの所に光の壁が発生し
 バキィィィィィィィィィィィィィィ…………

 予想とは違う高い音が響き静かになっていく

 ナルミの拳は……直前で止まっていた

「ふむ…やはりシールド持ちで間違いないな…これでお前は前衛決定だ、頑張れよ」

 ヘナヘナと腰が抜けてへたり込むモヤシ君は涙目になったが

「何してるさっさと行くぞ!」

「はっはぃぃ……」

 命令には逆らえずフラフラしながら一緒に進み始めた

 先に進み始めるリキッドの後をついて進み始めるとモヤシ君が話しかけてきた

「……君たちも同じなのかい?」
「………ん」
 ナルミに話しかけてくるが、普段からナルミは滅多に話さない

「ナルミはあんまり話さないんだ、俺もナルミも日本人だぜ」

「やっぱり君も奴隷なんだ……奴隷から解放とか無いのかい?」
「……その手の話しは今はやめておけ、今は無事にこのダンジョンから無事に抜ける事だけ考えておくんだ」
 コバが珍しく下卑た顔から真剣な顔になって釘を刺す、今日仲の良かったビリケンがボコボコにされた後だから尚更なんだろう

「ごっごめん…」


【ダンジョン地下2F】
 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 2F…出現モンスター(コボルトのみ)

 ここでは小学生の5-6年ぐらいの身体で犬のような顔を持つモンスターが固定で現れる

(何で1Fにユニークが合わられたんだ?)
 2Fへと進む途中、キドはその事をずっと考えていた
 滅多に現れない筈のユニークが1Fに現れた理由
 何時もと違う事、何が有ったのか?

(……これまで1Fでレアボスが出たなんて一度も聞いた事が無い……なら何か理由がある筈だ……………………もしかして)


 一つの仮定へとたどり着いた木渡だが…その仮定は何度も試せない、二度目三度目と実行して本当だったらリキッドだって流石に気付くし、そうなれば対策を立てられてしまう、出来るだけ深い所でそれをヤル必要がある
 気付いた時に逃げられない場所…それが実行できる場所まで…は潜らないと駄目だと判断した



「低階層でお前も慣れておけよ?」
 地下2階に辿り着くとリキッドがマジックバックから予備の剣をモヤシに渡した

「これが剣……おっ重いぃ…」

「……お前はコッチの方が良さそうだな」

 刃渡り30cm程の片手短剣を出して交換させた

「こっこれなら大丈夫かと…」

「子供用だけどな…まあ刃はちゃんと付いてる、くれてやるから大事に使え」

 短気だが妙な所で優しい一面を見せるリキッド
 コバやビリケンが1番マシだと言う由縁だ

「あっありがとうございます!」

(Bクラスの実力者…奴隷にも優しい一面を見せる……確かに乗り移るならこれ以上無い相手だ)

 奴隷を物のように扱う探索者ならそれと同じ様に振る舞わなければならない
 それよりは逆らわなければ、【比較的】に優しいリキッドは正に理想的だった


 ……ヴヴヴゥゥゥゥ………

 モヤシが嬉しそうに短剣を振り回して素振りを始めると
 ダンジョンの奥から3匹程のコボルトの姿が現れ


 コバがそれを見て前に出て、ナルミもそれに続こうとすると

「ナルミは下がってろ、モヤシ、前に出てコバと2人で戦ってみろ」

「はいっ」「はっはぃぃ」

 へっぴり腰のモヤシが内股で前に出て行く

 明らかに弱そうなモヤシに2匹のコボルトが棍棒のような武器を振り回しながらモヤシに向かって走り出した

「ひっひぃぃぃ!」

「逃げるな!よく見て戦え!」

 細かい指示を出されて必死にコボルトの動きを見るモヤシ君は
 何とか1匹目の攻撃を短剣で受け止める、しかしもう1匹の攻撃は防御が間に合わない

 ビュンッ

 と風切り音と共にモヤシの頭に向かって棍棒が振り落とされるが当たる直前に光の壁が自動で防御した

 攻撃を弾かれたコボルトがよろめき、リキッドが追撃を命令する
「そいつだ!剣で思いっきり突け」

「はっいぃい」

 もう1匹が再度攻撃を仕掛けるが壁に防がれ届かない

 よろめいたコボルトの喉元にモヤシの短剣が突き刺さってゆく

「ガハッ…………」

 仲間がやられ、攻撃が当たらないコボルトが驚く隙に、
 自分で1匹を仕留めたコバが後ろから剣を振り下ろし、モヤシのデビュー戦は危なげなく終了した


「ふむ…悪くない…連続でのシールド発動は回数制限があるかも知れん、恐らくだけどな、余り連続では受けない様に注意しろよ?」
 リキッドが予想以上の手応えにほくそ笑みながらアドバイスを与えると

「ぇぇぇ……そっそんな…」
 ガタガタと震え出すモヤシ君

「そんな便利なスキル無制限な分けないだろ?」
 コバがモヤシに当然だと付け加えた

 その後、モヤシのスキルを検証とスキルの熟練度を上げる為にも的当てにされて行くモヤシだったが
 2Fの雑魚全て倒す頃には何となく分かってきた

 最初、連続でのシールド発動は4回迄だった
 一度使い切った後、約1分近くたってからまた1回分回復
 2回分の回復には累計2.5分
 3回分の回復には累計5分
 4回分の回復には累計10分
 と言った具合だった

 但し途中でスキルの能力が上がったのか、明らかに少し回復が早くなった
 完全に回復するまでの時間はやはり10分だった

 1回分は30秒
 2回分は1分
 3回分は3分
 4回分は6分
 5回分は10分

 この事から回数が増えても完全回復迄は10分何だろうと仮定を立てる事にした
 壁は体の周囲、約10cmに発生するので、途中でナルミが寸止めしながら計測したので、その度にモヤシの悲鳴がダンジョンに木霊した

 手数の多い敵にはまだまだ物足りないが、ダンジョンの低階層ではほぼ敵無しになった




【地下2F階層主の広場】
 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 モヤシに慣れさせる為にコバと2人で戦わせ、雑魚モンスターを全て片付け終わったリキッドのパーティは階層主が待つ広場へと入っていく

 幾つもの円柱に囲まれた広場の奥に壁面があり、地下3Fへの扉が閉ざされている

 その広場にパーティ全員が足を踏み入れると…3mは届きそうな【エルダーコボルト】がその姿を表す
 既に何度も攻略しているが、巨体の割に動きが早く一番弱そうな奴を優先的に狙う

 今まではコバがターゲットにされるのでそれを守っていればリキッドが終わらせるのがパターンだったが今回は……やはりモヤシ君が狙われた

 雑魚を多少倒したが、モヤシ君にとってはコバさえも越えられない壁のようだ

 雑魚モンスターとは違って巨大な大刀が迫力満点でモヤシ君に振り下ろされ

「ぎゃああああああああっ!!」
 意味もないのに腕でガードしようとするモヤシ君だが届く前に光の壁が弾き返す

 涙目になるモヤシ君だが、驚いたのはエルダーコボルトの方だ
 どう見ても一刀で両断できそうな奴に攻撃をはじき返されて面食らっている

 そしてその隙を逃すリキッドでは無かった

 身体にデッカい風穴を開けれられたエルダーコボルトは崩れ落ち…中心に例の白い玉が光と共に現れるがその色は燻んでいた

「あぁ……こりゃダメですね?どうします?」
 コバが一応確認するとリキッドは興味無さそうに
「いらんほっとけ、次いくぞ」

「??どういう事です?」
「見た目で大体分かるんだよ、簡単に言うと良いやつは綺麗なんだ」
「そうなんですか……じゃあ、中の人はどうなるんです?」

「…………そりゃお前………そのまま……かな?」
「ずっとですか?」
「そんな事知らねーよ!お前中に居た時の事覚えてるのか?」
「……そういえば全く」
「じゃあ良いだろ?出ても碌な事無いんだから」
「確かに」
(そうか……中で時が止まっていたら10年経っても気がつかないかも知れない……という事は俺は居なくなってから既に10年経ってる可能性が高いって事なのか?)



 コバとモヤシ君の会話に少しだけ現状を理解する事ができたような気がしたキドだった
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