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さらなる成長を求めて

24.修行の成果

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 1つの針、それが的として置かれた丸太へと命中する。複数箇所に置かれているが、1つ1つ次々と命中していく。たった数日、それだけでここまで上達したのだ。
 彼女の場合はスピード重視の戦闘だ。その為に、ダッシュや投擲、あとは近接系で急所に狙うポイントと格闘戦、ほんの数日でこれら全てを叩き込まれた。
 実際にはまだまだらしく、彼女にとっては初期に近いらしい。その為に「まだまだ叩き込んでやるのじゃ」と言っている程だ。

「うむ。投擲は完全にマスターしたの」

 彼女にとって、投擲は早く習得した事に感心していた。もともと俺自身は物覚えや、体で覚えた事も多かった。その為、こういう動きを瞬時に覚えられた。
 前世で柔道、剣道、陸上、サバゲーなど、色んなものに挑戦していたものだ。その為にこういう投擲類もすぐに投げれるようになったのかもしれない。
 それ以外にも彼女が教える攻撃手段や移動手段なども早めに覚えたいものだ。なにせ、その特訓メニューはハード過ぎる為だ。
 彼女が用意する特訓は初心者には優しくないものばっかだ。唯一初心者向きなのはこの投擲ぐらいだろうか。

「魔力を針へと集中し、それを丸太へと投げてみるのじゃ」

 腰から抜いた針、右手に持ちながら、それに魔力を送る。狙いの丸太へと、その針を飛ばす。丸太へと刺さった数秒後、丸太へと刺さった針は突如と爆発。丸太は空へと飛んでいった。
 ここに来ては何も得なかったわけではない。このように魔力を物へと送る事や、早く走れるやり方など、覚えた事もある。だからこそ、彼女の要求は増えるばっかなのだが。

「うむ。魔力の送りには問題ないの」
「あったとしても、何かしらの事が起きるんだろ?」
「そうじゃ。送り過ぎると、途中で作動するのじゃ。逆に魔力が少な過ぎると発動することはないのじゃ」

 大きさによって、魔力の送る量は異なる。送り過ぎると、魔力の粒子状が魔力を送っている物の周囲に漂う。まあ、送っている時にその物の限界を感じ取る事が出来る為、俺にはあんまり問題ない。
 まあ、投げるのは針や短剣、あまりないと思うが槍ぐらいだろう。魔力を送る事以外に、その物へと魔法を掛けれる。例えば、電気系の魔法を投擲系の物へと掛ける。それを投げ、命中するとその魔法が発動し、命中した物に電撃を走る。
 そんな感じで魔法も応用が理論的に可能だ。どれだけの魔法を掛ける事が出来るかは知らないが、大抵の魔法は使用可能だろう。

「投擲は終わりじゃ。あとは接近戦ぐらいじゃの。では、お主の実力・・・、計らせてもらうぞ!」
「いきなり・・・か」

 現在、滝の近くにある大きな岩の上には伊達が座っているのだが、彼女はそこから立ち上がった。
 腰から刀を抜き、岩場を飛び降り、そして、そのままこちらへと走り出した。ここまで接近し、攻撃するまでは約5秒程だ。距離にして約100mぐらいだろうか。
 だが、その時間で十分だ。右手に次投げる為に持っていた針を彼女と、俺の間に投げる。地面へと刺さった瞬間に針は爆発した。
 彼女は関係なく、煙幕の中を走って接近してくる。その間に俺は右手にチェーンブレードを生成し、上へとジャンプする。彼女が煙の中から先程俺がいた所へと刀を振ったが、既にそこには俺はいない。
 だが、煙の影響でこちらの姿を確認出来ず、煙の中から既に振る準備はしていたのだろう。すぐさまに左手に3本の針を持ち、それを彼女の元へと投げ、伊達を囲むように地面へと刺さる。
 そして、彼女が動こうとした時、誘発するかのように爆発した。俺はそのまま離れた位置へと降りた。流石に空中浮遊する魔法などは覚えてないが、魔力で多少は浮く事は可能だ。
 煙から、伊達がゆっくりとこちらへと歩いてくる。その姿は服には傷がなく、爆破でダメージを一切受けてないようだった。
 風魔法では爆破は防がれたか。多分、自身の周りに風を回転しながら壁を作り上げ、爆風はそれに飲まれる形で、風に乗っかったのだろう。爆風が収まった後に、解除すれば、煙だけが周りを漂う。
 それを先程の一瞬で行ったと考えると、かなり戦闘慣れている。それも何百と数えられない程の戦闘をこなしてる程にだ。

「なかなかいい攻撃じゃったぞ」
「あの一瞬で防壁を作り出す程の余裕を見せているあなたには言われたくないな」
「ふむ。見えとったか」

 見えてなくとも、彼女の行動は分かる。ここ最近の相手で何回も見ているのだ。情報はいくらでも拾っている。
 今は爆破攻撃では、彼女には届かないだろう。むしろ、その威力を逆に使用してくる可能性だってある。
 だからこそ、風は脅威なのだ。今の俺では彼女を突破させれるほどの力はない。あったとしても、まだ本気の一文字も出してない彼女の事だ。それくらい捻る程度の力は持っているだろう。
 チェーンブレードを構えながら、俺は足に加速系魔法を掛け、左右へと移動しながら、前進する。相手を撹乱させる為でもあるが、彼女にはこれくらいのスピードは見えている。
 彼女の目の前まで来た後、チェーンブレードを真上から振り下ろす。伊達はそれを受け止めた。
 一撃を浴びせた後、チェーン状へと変え、地面へと落ちる前に1回転、俺を囲むように回した。すると、彼女は俺が地面へと落ちる前に刀で付いてきた。
 丁度、チェーンがそれを受け止めたが、それと同時に何かが破裂する音が響いた。そして、その衝撃で俺は後ろへと飛ばされ、地面へと当たったのと同時に転がった。
 刀の先に魔力を圧縮させてたか。そうじゃないとあんな破裂音がするわけがない。流石に戦い慣れた人物は強さが違う。
 その場で体を起こし、座る。チェーンをブレードへと戻した後、その場を立ち上がる。全身の痛みに耐えながら、無理矢理体を動かす。
 まだまだ、ここでやられるわけにはいかない。例え、体のどこかが骨折していてもだ。やられるわけにはいかない。

「ふむ。あれだけの威力、それでもお主は立ち上がるのじゃな」
「なら、前見せた特殊能力とやらで相手してもいいんですよ」
「なら、そうするかの」

 彼女は突如、呪文を唱える事なく、刀と姿が変わった。彼女から伝わる謎のオーラが俺の全身を震えさせた。
 前見えた時よりも、更に強い力を示している。彼女は本気で俺に挑もうとしている。
 左手にチェーンブレードを生成させ、2本のチェーンブレードを胸元で重ねながら、彼女を見る。
 伊達は髪の毛、装備、更には衣類までもが変わっている。1歩踏み出すだけで、先程のスピードとは思えないスピードで走ってくる。
 ほんの1秒、それぐらいで離れていたにも関わらず、俺の前へ近付いてくる。
 咄嗟に魔法を発動させ、チェーンブレードは黄色く光り出し、バチバチと電流の弾く音が響いた。
 彼女は俺の真上を飛び越え、後ろへと回り込む。
 今しかない。やるしかない。そう思い、俺は息を飲み込んだ。
 彼女が攻撃する時だ。俺は真後ろへと空中でジャンプした。伊達の攻撃は外れ、そのまま上へと視線を向ける。
 チェーンへと変え、地面へと大きく振り下ろす。電撃系魔法が加えられ、当たらなくてもその真横などに入れば、一時的だが、ダメージを与えられる。
 予想通りに伊達は真横で避けた。すると電撃が音を立てながら、彼女を襲ったのだ。流石の彼女も、それを一時的とはいえ、ダメージを負ったはずだ。

「範囲攻撃なんてね・・・」

 伊達が地面へと膝を付けた時だ。俺はもう1本のチェーンで動けない彼女へと攻撃する。今は身動きが取れないからこそ、チャンスなのだ。
 だが、その一撃は当たる事など無かった。彼女は動けたのだ。ほんの数秒の間に体へと流れた電撃を外へと放出してらしい。
 電撃を受けた時、片手に持っていた刀を後ろへと向けていた。多分だが、その時にほとんどの電撃は外へと流れていた。一時的に動けなかったのは、ほんの少し体へと残っていたと考えられる。
 そうと知らずに俺はもう片方のチェーンで攻撃を仕掛けていた。その攻撃の最中に、彼女は俺の真後ろまでジャンプしていた。

「電撃系魔法を駆使したのじゃな。だが、儂からするとまだまだじゃの」

 そう言いつつ、彼女は持っていた刀で攻撃を仕掛けようとした。急遽、右手のチェーンをブレードへと戻し、それを盾にした時、彼女の攻撃が俺を地へと叩き落とした。
 地面へと叩きつけられ、背中の痛みは大きくなっていく。

「・・・ガハ」

 立ち上がろうとした時だ。口から血を吐いたのだ。
 それでも立ち上がり、左手のチェーンブレードを解除させ、新たにツインソードを生成した。

「流石に体の限界じゃな。ここまでにするかの?」
「まだやるに・・・決まってるだろ」

 自分でも分かっていた。俺の体は限界に来ている事を。
 これ以上は無理は出来ない。こんな時、回復魔法が使えれば良いのだが、まだ完全には回復魔法を習得していない。
 その為に、最後の悪あがきを彼女へと向けるのだ

「まだやるのじゃな」

 伊達は刀を回しながら、横へと構える。彼女の表情は獲物を仕留める時に発する狂気の目とは違い、冷たく、殺意を隠した目へと変貌していた。
 ツインソードを彼女へと向け、複数の魔法を順番に発動させていく。まず電撃系のボール型の魔法を2本の刃の内側に作り出し、それを囲むかのように風の魔法で包み込む。2本の刃の内側の表面に電気を流す。
 これにより、簡易的なレールガンを作り出す事が出来る。まあ、球体状だし、レールキャノンと言うべきか。
 そして、伊達がこちらへと走り出した時だ。俺は彼女へとレールキャノンを放った。2人のいたちょうど真ん中で、伊達がレールキャノンを斬り伏せようと刀をぶつけた。
 激しい爆風が走り、電流が辺りへと飛び散る。
 ほんの一瞬だった。伊達がレールキャノンを真っ二つにし、俺の目の前まで接近した後、柄でダイレクトにお腹に一撃食らった。
 その衝撃で意識は朦朧、真っ二つになったレーンキャノンが周りに電流を流しながら、爆発したのを最後に意識はプツリと切れた。
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