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14話 認めてしまえば簡単なこと 【前】
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<シャルトー視点>
けたたましい咆哮。
人の背丈を超える極彩色の羽毛の塊が膨張して、そして跳躍する。
「っ!」
硬く太い脚が、すぐ脇の地面をえぐり取る。
退化した翼に反比例して、鋭さと強固を増した足爪を地面から引きぬいて。
獲物が己の下で足掻いていないのが不思議なのだろう。一瞬、怪鳥アロ・ルルは首を傾げるように足元を見て、すぐさま傍らの、襲撃をかわした俺に血走った目を向けた。
前後への機動力は高いがほぼ真横、しかも近距離の相手へのアロ・ルルの行動パターンは一つだ。
先に首を回し、嘴での攻撃をしつつ身体の方向転換。
啄むために、普段はすくめられた首が伸びる、その一瞬を。
「任せた」
つぶやきながら飛び退ると同時に、アロ・ルルの向かいの首筋から弧をえがくように血が吹き上がった。
あと少しで嘴が触れる、そんなところでかわした俺を、恨めしそうに見つめる怪鳥の瞳は、まるで己の身に起きている事に気がついていないようだった。なおも脚力でもって仕留めようと、持ち上げられた脚は、しかし放たれることなく崩れ落ちる。
「おっと」
アロ・ルルの血飛沫を避けながら、俺はウエストパックから匂い消しと、獣避けの粉を取り出す。それを血飛沫の飛んだ辺りに撒きつつ。
「ね、回収はどうすル?」
首が伸びきった一瞬にだけ現れるアロ・ルル唯一の弱点。そこを正確無比に切り裂いた、投擲用にしてはやや大ぶりなナイフを回収する、後ろ姿に問いを投げかける。
「あ゛? あー……羽毟んの面倒くせえな、核だけにすっか」
拾ったナイフを拭って、上着の中に仕舞い、代わりにサバイバルナイフを取り出したギィドは死骸を見下ろし、顔をしかめた。
いかにも、面倒臭いと言う顔。ほんと、このオッサンは感情が顔に出やすいな、と思う。
「そう。じゃ、肉は? 確か、そこそこ美味かったよ、コレ」
「今から引き上げりゃ、夕方には街に着くからいいだろ」
「明日の分はあった?」
「や、今日でしまいだ」
「……予定より早くない?」
確か、当初の撤収にはまだ後3日後だと思ったが。
王都主催の合同治安運動。それに狩りだされてはや10日。
思いの外というか。拍子抜けするほど、何事も無く。
順調だな、とは感じてはいたけども。
「報告書に記載するにはもう十分だろ。まあ、上にアピールしたいんなら別だけどな」
お前にそんな気はねえだろと、視線を投げられれば、確かに、と頷く他ない。
お上の仕事より、民間の依頼の方が性に合っている。規定をクリアしているなら、さっさと切り上げるのは、当然の判断なのに。
なんとなく、肩透かしを食らった様な心持ちというか。
正直、物足りない。
理由は、なんてわかっている。
「ほら」
「ん? なんだ」
「ナイフ、貸しなヨ」
「なんでだよ」
「なんでって、俺が核の取り出ししてアゲルって事に決まってるでしょ」
「自分のを使えよ」
「だってアンタのナイフの方が使い勝手良さそうだから」
俺の差し出した手に、ギィドは眉間にしわ寄せるが、それでも素直にナイフを渡してくる。
ここで拒否したら、自分が核を取り出さないといけないからだ。
「アンタさ、ナイフの扱い上手いくせに、核の取り出し作業っていうか、解体下手だよね」
「うるせぇ」
他人のなのに、しっくりと手に馴染むナイフを、アロ・ルルの死骸に突き立てながら揶揄すれば、不機嫌そうな声が返ってくる。
苛立っているように聞こえるが、大部分は決まりが悪いだけなのだと、最近気がついた。
ギィドはおそらく、こういった害獣の解体作業も本当は下手なわけじゃないのだろうと思う。
それなりに、出来はするのだ。
しかし今ひとつ手元が覚束ないのは単純に慣れていないからだ。
何故慣れてないのか、なんて、推測するまでもない。
「あ、代わりに、当然だけど報告書よろしくね」
「はじめから書く気ねえだろ、お前は」
ギィドは鼻で一笑しつつ、それ以上、俺の交換条件を蹴るなんてことはしない。
こんなやり取りを、今まできっと何回も繰り返しているからだ。
解体作業の代わりに、報告書。そんな役割分担を何年も送ってきたのだろう。
「別に、報告書なんて俺は苦じゃないけどネ」
「あぁ? なんか言ったか?」
「核。ホラ、とれたよ」
血の気の抜けていない肉の中から、つるり丸い乳色と碧色のマーブルになった結晶を取り出す。
「悪かねぇな、コレで締めていいだろ」
俺の手の中の核を覗き見て、満足そうに頷くと。
さて、拠点片して、帰るか。と、ギィドが背を向ける。
その背中に。
「ねぇ、今日で撤収なら、ちょっと今夜付き合ってよ」
「はぁ?」
言葉を投げかければ、驚いたというより、怪訝な顔をして振り返られた。
「アンタのことだから、どこが良い酒だす店か押さえてんでショ」
「確かに、知っちゃあいるが……」
「こんな面倒な仕事を付き合ってあげたんだからさ、少しは俺に奢ってくれてもいいんじゃナイ? アンタ、正所属員だから俺より報酬多くでるでしょ」
だから、このオッサン、顔に考えが出すぎだ。
なんで俺が、とか、店だけ教えりゃ良くないか、という顔。その考えをそのまま声に出される前に、俺は先手を打つ。
「あぁ、もしかして、コノ程度の仕事で興奮しちゃった? べつに女買いに行ってもいいけど、盛って腰痛めないようにね、歳なんだから」
「だ・れ・が・だ……!」
ビシリ、と音をたてそうなほどこめかみに筋を浮かべて。
口をあけて、罵倒の言葉を吐き出そうとしたギィドは、しかし俺の顔を見て、口と目を閉じ、眉間を親指で押して、そこに出来たシワを伸ばした。降ろされた目蓋が上がれば、先程までの怒りはもう瞳の中から消えていた。
「嗚呼、もう、面倒くせぇ。分かった、付き合えばいいんだろ」
大げさなほどため息を吐いて。渋々と言った様子のギィドに俺は口の端を上げる。
予想通りの反応。予想通りの態度。
下手に争うより、従った方が面倒が少ない、と判断を下すだろう。そういう予想を見事にトレースした行動をとるギィドに俺は溜飲を下げる。
そろそろ、頃合いだろう。
「あ゛ーお前エグモス酒、芋で作った酒は駄目だったか?」
「いや、『俺』はイケるよ?」
「そうか」
視線を斜め上に飛ばして、きっと頭のなかの店のリストをめくっているんだろうギィドに。
もう、教えてもいい頃だ思う。
自分が、誰と組んで順調に事を進めることが出来たのか、無防備に背中を晒している相手が誰なのか。
このオッサンは少し、思い知る機会が必要だろう。
いい加減、ジャグの真似も飽きてきた。
それに、ちょうど良い物も手に入った。
血塗れた手を拭い、バックポケットに核を仕舞うふりをして、中にある薬包紙を撫でる。
その薬を調合したミミズとの再会は本当に偶然の産物だった。
『あらぁ、運がええ。毛皮屋さんじゃないですか』
それは丁度、グラバンの街に入り、ギィドと落ち合う前に宿を決めて。軽く腹を膨らませようと、宿の食堂に腰をおろした時の事だった。
しわがれた声が、俺の通名を呼ぶ。
どこか聞き覚えのある様な気がして視線を上げれば、その年老いた声に反して、幼い少年のような丸い頬と俺の肩程しかない身の丈の姿を見つけ、脳裏にするりと相手の名前が浮上した。
『ミミズか』
『おやまぁ、覚えてくだすったとは嬉しいね。以前お会いしたのはもう、4年……いや5年前ですかぁねぇ』
とぼけたようにこてん、とミミズは首をひねってみせるが、その姿は記憶の中とまるで変わらない。
ただでさえ、この男と関わる羽目になった仕事は印象深いのに、こんな姿をみせられれば、忘れるほうが難しいだろう。
『……むしろ、そっちがよく、覚えてたね』
『えぇ、私、記憶力は良い方で。特に、お客さんになりそうな方はよぉく、覚えてますの』
にっこり、っと細められた目が、此方を見つめてキラリと光る。
その目にふと、このミミズにまつわる逸話が脳裏に浮かび上がった。
『時に毛皮屋さん、何かご入り要の物はないですか、今ならとってもお買い得で』
『ねぇ、フルオーダーってまだやってんの?』
いつもは既成の薬を買うぐらいなのだが。
『おやぁ、珍しい。毛皮屋さんは初めてのご利用じゃぁなかですか』
尋ねてみれば、ミミズの口の端が急速に引き上げられた。子供のようにしか見えないのに、その笑みは無邪気さとは程遠く、いびつな気味の悪さを含んでいた。
『フルオーダー、えぇそうですね、毛皮屋さんからならお受けしましょか。ただ、内容に見あう、此方の条件が飲めれば、の話ですが』
先ほどとは打って変わって。此方を見上げる目が爛々と光をまして、俺の言葉を興味津々といった様子で伺っている。どうやら俺は、噂に聞くミミズのお眼鏡とやらに適っているらしい。
確か通名は、薬狂師のミミズ、とかいっただろうか。どんな薬であっても、間違いなく作ってしまう、天才薬師。
ただ、注文を受けてくれるかはミミズの気まぐれお眼鏡次第。品を渡してくれるかは更に運と実力次第、という謳い文句があった。
『条件ってなに?』
『それは、まずは毛皮屋さんのオーダーをお聞きしてのお話となりまして』
一応ね、難しいご注文にはこちらも難しい条件をお願いするようにしているものでして。と、言葉だけは申し訳なさそうにしながら、ミミズは此方のオーダーをそわそわとした様子で待ち構えている。
その、まるで自分が頼まれた薬を作れないはずが無いという態度に。
俺の中で、ふつりと一つの考えが頭をもたげた。
本来なら限りなく不可能で、しかし、もしも手に入るなら。
『ねえ、例えばこんな「自白剤」って出来るの――』
けたたましい咆哮。
人の背丈を超える極彩色の羽毛の塊が膨張して、そして跳躍する。
「っ!」
硬く太い脚が、すぐ脇の地面をえぐり取る。
退化した翼に反比例して、鋭さと強固を増した足爪を地面から引きぬいて。
獲物が己の下で足掻いていないのが不思議なのだろう。一瞬、怪鳥アロ・ルルは首を傾げるように足元を見て、すぐさま傍らの、襲撃をかわした俺に血走った目を向けた。
前後への機動力は高いがほぼ真横、しかも近距離の相手へのアロ・ルルの行動パターンは一つだ。
先に首を回し、嘴での攻撃をしつつ身体の方向転換。
啄むために、普段はすくめられた首が伸びる、その一瞬を。
「任せた」
つぶやきながら飛び退ると同時に、アロ・ルルの向かいの首筋から弧をえがくように血が吹き上がった。
あと少しで嘴が触れる、そんなところでかわした俺を、恨めしそうに見つめる怪鳥の瞳は、まるで己の身に起きている事に気がついていないようだった。なおも脚力でもって仕留めようと、持ち上げられた脚は、しかし放たれることなく崩れ落ちる。
「おっと」
アロ・ルルの血飛沫を避けながら、俺はウエストパックから匂い消しと、獣避けの粉を取り出す。それを血飛沫の飛んだ辺りに撒きつつ。
「ね、回収はどうすル?」
首が伸びきった一瞬にだけ現れるアロ・ルル唯一の弱点。そこを正確無比に切り裂いた、投擲用にしてはやや大ぶりなナイフを回収する、後ろ姿に問いを投げかける。
「あ゛? あー……羽毟んの面倒くせえな、核だけにすっか」
拾ったナイフを拭って、上着の中に仕舞い、代わりにサバイバルナイフを取り出したギィドは死骸を見下ろし、顔をしかめた。
いかにも、面倒臭いと言う顔。ほんと、このオッサンは感情が顔に出やすいな、と思う。
「そう。じゃ、肉は? 確か、そこそこ美味かったよ、コレ」
「今から引き上げりゃ、夕方には街に着くからいいだろ」
「明日の分はあった?」
「や、今日でしまいだ」
「……予定より早くない?」
確か、当初の撤収にはまだ後3日後だと思ったが。
王都主催の合同治安運動。それに狩りだされてはや10日。
思いの外というか。拍子抜けするほど、何事も無く。
順調だな、とは感じてはいたけども。
「報告書に記載するにはもう十分だろ。まあ、上にアピールしたいんなら別だけどな」
お前にそんな気はねえだろと、視線を投げられれば、確かに、と頷く他ない。
お上の仕事より、民間の依頼の方が性に合っている。規定をクリアしているなら、さっさと切り上げるのは、当然の判断なのに。
なんとなく、肩透かしを食らった様な心持ちというか。
正直、物足りない。
理由は、なんてわかっている。
「ほら」
「ん? なんだ」
「ナイフ、貸しなヨ」
「なんでだよ」
「なんでって、俺が核の取り出ししてアゲルって事に決まってるでしょ」
「自分のを使えよ」
「だってアンタのナイフの方が使い勝手良さそうだから」
俺の差し出した手に、ギィドは眉間にしわ寄せるが、それでも素直にナイフを渡してくる。
ここで拒否したら、自分が核を取り出さないといけないからだ。
「アンタさ、ナイフの扱い上手いくせに、核の取り出し作業っていうか、解体下手だよね」
「うるせぇ」
他人のなのに、しっくりと手に馴染むナイフを、アロ・ルルの死骸に突き立てながら揶揄すれば、不機嫌そうな声が返ってくる。
苛立っているように聞こえるが、大部分は決まりが悪いだけなのだと、最近気がついた。
ギィドはおそらく、こういった害獣の解体作業も本当は下手なわけじゃないのだろうと思う。
それなりに、出来はするのだ。
しかし今ひとつ手元が覚束ないのは単純に慣れていないからだ。
何故慣れてないのか、なんて、推測するまでもない。
「あ、代わりに、当然だけど報告書よろしくね」
「はじめから書く気ねえだろ、お前は」
ギィドは鼻で一笑しつつ、それ以上、俺の交換条件を蹴るなんてことはしない。
こんなやり取りを、今まできっと何回も繰り返しているからだ。
解体作業の代わりに、報告書。そんな役割分担を何年も送ってきたのだろう。
「別に、報告書なんて俺は苦じゃないけどネ」
「あぁ? なんか言ったか?」
「核。ホラ、とれたよ」
血の気の抜けていない肉の中から、つるり丸い乳色と碧色のマーブルになった結晶を取り出す。
「悪かねぇな、コレで締めていいだろ」
俺の手の中の核を覗き見て、満足そうに頷くと。
さて、拠点片して、帰るか。と、ギィドが背を向ける。
その背中に。
「ねぇ、今日で撤収なら、ちょっと今夜付き合ってよ」
「はぁ?」
言葉を投げかければ、驚いたというより、怪訝な顔をして振り返られた。
「アンタのことだから、どこが良い酒だす店か押さえてんでショ」
「確かに、知っちゃあいるが……」
「こんな面倒な仕事を付き合ってあげたんだからさ、少しは俺に奢ってくれてもいいんじゃナイ? アンタ、正所属員だから俺より報酬多くでるでしょ」
だから、このオッサン、顔に考えが出すぎだ。
なんで俺が、とか、店だけ教えりゃ良くないか、という顔。その考えをそのまま声に出される前に、俺は先手を打つ。
「あぁ、もしかして、コノ程度の仕事で興奮しちゃった? べつに女買いに行ってもいいけど、盛って腰痛めないようにね、歳なんだから」
「だ・れ・が・だ……!」
ビシリ、と音をたてそうなほどこめかみに筋を浮かべて。
口をあけて、罵倒の言葉を吐き出そうとしたギィドは、しかし俺の顔を見て、口と目を閉じ、眉間を親指で押して、そこに出来たシワを伸ばした。降ろされた目蓋が上がれば、先程までの怒りはもう瞳の中から消えていた。
「嗚呼、もう、面倒くせぇ。分かった、付き合えばいいんだろ」
大げさなほどため息を吐いて。渋々と言った様子のギィドに俺は口の端を上げる。
予想通りの反応。予想通りの態度。
下手に争うより、従った方が面倒が少ない、と判断を下すだろう。そういう予想を見事にトレースした行動をとるギィドに俺は溜飲を下げる。
そろそろ、頃合いだろう。
「あ゛ーお前エグモス酒、芋で作った酒は駄目だったか?」
「いや、『俺』はイケるよ?」
「そうか」
視線を斜め上に飛ばして、きっと頭のなかの店のリストをめくっているんだろうギィドに。
もう、教えてもいい頃だ思う。
自分が、誰と組んで順調に事を進めることが出来たのか、無防備に背中を晒している相手が誰なのか。
このオッサンは少し、思い知る機会が必要だろう。
いい加減、ジャグの真似も飽きてきた。
それに、ちょうど良い物も手に入った。
血塗れた手を拭い、バックポケットに核を仕舞うふりをして、中にある薬包紙を撫でる。
その薬を調合したミミズとの再会は本当に偶然の産物だった。
『あらぁ、運がええ。毛皮屋さんじゃないですか』
それは丁度、グラバンの街に入り、ギィドと落ち合う前に宿を決めて。軽く腹を膨らませようと、宿の食堂に腰をおろした時の事だった。
しわがれた声が、俺の通名を呼ぶ。
どこか聞き覚えのある様な気がして視線を上げれば、その年老いた声に反して、幼い少年のような丸い頬と俺の肩程しかない身の丈の姿を見つけ、脳裏にするりと相手の名前が浮上した。
『ミミズか』
『おやまぁ、覚えてくだすったとは嬉しいね。以前お会いしたのはもう、4年……いや5年前ですかぁねぇ』
とぼけたようにこてん、とミミズは首をひねってみせるが、その姿は記憶の中とまるで変わらない。
ただでさえ、この男と関わる羽目になった仕事は印象深いのに、こんな姿をみせられれば、忘れるほうが難しいだろう。
『……むしろ、そっちがよく、覚えてたね』
『えぇ、私、記憶力は良い方で。特に、お客さんになりそうな方はよぉく、覚えてますの』
にっこり、っと細められた目が、此方を見つめてキラリと光る。
その目にふと、このミミズにまつわる逸話が脳裏に浮かび上がった。
『時に毛皮屋さん、何かご入り要の物はないですか、今ならとってもお買い得で』
『ねぇ、フルオーダーってまだやってんの?』
いつもは既成の薬を買うぐらいなのだが。
『おやぁ、珍しい。毛皮屋さんは初めてのご利用じゃぁなかですか』
尋ねてみれば、ミミズの口の端が急速に引き上げられた。子供のようにしか見えないのに、その笑みは無邪気さとは程遠く、いびつな気味の悪さを含んでいた。
『フルオーダー、えぇそうですね、毛皮屋さんからならお受けしましょか。ただ、内容に見あう、此方の条件が飲めれば、の話ですが』
先ほどとは打って変わって。此方を見上げる目が爛々と光をまして、俺の言葉を興味津々といった様子で伺っている。どうやら俺は、噂に聞くミミズのお眼鏡とやらに適っているらしい。
確か通名は、薬狂師のミミズ、とかいっただろうか。どんな薬であっても、間違いなく作ってしまう、天才薬師。
ただ、注文を受けてくれるかはミミズの気まぐれお眼鏡次第。品を渡してくれるかは更に運と実力次第、という謳い文句があった。
『条件ってなに?』
『それは、まずは毛皮屋さんのオーダーをお聞きしてのお話となりまして』
一応ね、難しいご注文にはこちらも難しい条件をお願いするようにしているものでして。と、言葉だけは申し訳なさそうにしながら、ミミズは此方のオーダーをそわそわとした様子で待ち構えている。
その、まるで自分が頼まれた薬を作れないはずが無いという態度に。
俺の中で、ふつりと一つの考えが頭をもたげた。
本来なら限りなく不可能で、しかし、もしも手に入るなら。
『ねえ、例えばこんな「自白剤」って出来るの――』
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本作品はキルキのオリジナル小説です。
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