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本編後の同棲に至る小話
村田君と佐々木さんち 5
しおりを挟む「僕が、好きにして良いって言ったけどね。でも、流石にどうかと思うんだ」
グチャグチャになったバスタオルやらを取り除いた、汚れのないシーツに沈みながら。眉間に皺を寄せ珍しく不機嫌さを隠さない様子で佐々木は苦言を漏らす。
「あぁ、ちょっと嬉しくって、つい」
「『つい』、じゃないよ」
「うん、悪かったって」
村田は蓋を緩めたミネラルウォーターのペットボトルを佐々木に差し出しながら謝るが。
正直なところ、その声のトーンはとても軽くて。
一回で十分ヘトヘトだったというのに。なんだかんだと仰向けにされてから一回。その後なりふり構わず過ぎた快感にぐずり泣きをしながら「無理」と訴えたのに、なだめられ横倒しになった側位でもう一回挑まれて。佐々木の意識は後半、殆ど飛びかかっていた、というか飛んでしまう有様だったのだ。
そうして意識が戻った時には後片づけも、体もきれいに拭われていたけれども。
しばらく一ミリも動きたくないほど疲れ果てていた。なんだが目が腫れぼったいし声はカスカスだ。関節は違和感があるし、あらぬところはじんじんと熱を持って疼いて落ち着かない。
そんな満身創痍な佐々木に対して。
気がついた? と、顔をのぞき込んできた村田はそれはもう、ニコニコと。とてもスッキリ晴れやか、といった調子の顔だったものだから。
じとり、と半目の視線を投げれば村田はしばし、ぐっと口の端を引き結んだが、少し間を置いて「ふはっ」と、耐えられないといった様子で吹き出した。
「村田くん」
「いや、ごめん。悪かったってホント思ってんだって。でも、それより可愛いっていうか、思い出すっていうか」
「……思い出さないで」
「やだよ、俺のオカズはしばらく今日の佐々木さんだもん」
「~~~!!」
「佐々木さんも俺をオカズにしていいけど?」
「僕は、現実の君だけで十分だよ……」
悪びれなく言ってのける村田に、佐々木は敵わない、と諦めた。
片方の口の端を上げてにやっと笑う顔は、やに下がったと表現してもいいのだろうけども。イケメンがすると、それすら様になっていてずるいなぁと思う。
佐々木は、はぁ、とため息をついて水を飲み、ずるずるとまたシーツの中に潜り込む。
そんな気だるげな佐々木様子を見て、村田はちょっと巫山戯すぎたかな、と、反省しながら。
しかし、どうしても笑みの形を浮かべてしまう唇を抑えようと片手で覆いつつ。
でも佐々木さんが可愛いことをするのが原因だから仕方がないんだもんな、とこっそりを心の中で言い訳をした。
何しろタイミングが良いのか悪いのか、佐々木とのセックスは随分とお預けで溜まっていた状態だったのだ。
普段は年の差を考慮してきちんとセーブしていたのだけれども。
ただでさえ、佐々木から同棲のお誘いという嬉しいイベントに、重ねて村田を求めてくれるような、あんな可愛い告白をされてしまったから。
佐々木の言葉で浮かれて、村田自身も気がつかないくらい、無茶をしないようにと歯止めをしていたストッパーが1、2個ほど軽快に吹っ飛んでしまったのだ。
別に、佐々木を虐めたい訳じゃない。
だが最近、セックスの時の佐々木の反応がなかなか良くなってきて。相性も結構イイほうなんじゃないだろうかと。一度は我も忘れるぐらい、恥も外聞も放り出して、出来れば後ろだけでぐちゃぐちゃにしてしまいたいな、なんて言う欲望をひっそりと抱えていたが。
別れてあげないとか、前だけじゃ足りないとか、好きにしていいとか。
年代なのか性格なのかあまり言葉として主張しない佐々木の我が儘と許しに「俺って結構、愛されちゃってんじゃん」と、知ってしまったら。今まで抑え込んでいた欲が引き留めていた手綱を振り切って、やってみたい、と思っていた事を実行してしまったのだった。
……とは言え。
いくらきっかけが佐々木だろうと、少しやり過ぎたという申し訳なさが無いわけじゃなくって。
「茶化してゴメン、身体きついよな」
「……もうすこし休めば、歩くくらいは問題ないよ」
「アレだったらもう一回延長するから」
「そこまでは大丈夫だよ。多分」
先ほど村田がフロントに延長を連絡していた時間から残り時間を考えて、佐々木は緩く首を横に振る。それに「俺が言うのもなんだけど無理はしないでよ」と言いつつ、村田はベッドの端に腰掛けると。
「あのさ、佐々木さんって今日みたいなエッチって嫌?」
「っ、…………嫌、というか……」
さっきとは打って変わり眉を下げ、ちょっと肩をすくめた様子で村田が尋ねてきた言葉に、佐々木はぐうっと口をつぐんで悩む。
単純な言葉を使えば「嫌」だったのだけれども。それは大まかには合っているけれども、正確な答えではない。
それにきっと「嫌」と言えば村田が傷つくんじゃないだろうかとか。そしてもうしないように気を付けるんだろうなとか、そんな予感がぼんやりとして。
「……嫌、と言うか、怖いんだよ」
悩んだ末に、一番自分の心にそった答えをぽつりと零す。
その言葉に、村田は。
「怖いって、……後ろでイッたりするのが?」
赤裸々な問いに佐々木は自分の頬に血がのぼるのを感じた。
それは間違ってはいないけど、正解じゃない。
だから「それも含めて」と付け足して頷いた。
「なんて言ったら良いんだろう。……どんどん、知らなかった事を知って、慣れていくのが、怖いと言うか」
「変わっていくのが怖いってこと? 俺としては、佐々木さんにもっとエッチが好きになって欲しいんだけど」
「それは、回数が足りないっていう」
「ん~……って言うか、セックスって気持ちいいし、くっついてると幸せーってなるじゃん? あと、俺しかこんな風な佐々木さんを知らないんだろうな、って思うとめっちゃたぎるし嬉しいんだよな」
やっぱり歳の差で不満が、と思えば、思いがけない方面からストレートな内容をぶつけられて、言葉に詰まる。
今まで考えてもいなかったが、そんな風に言われてみればヘロヘロになりながらもセックスを拒まないのは、自分だって村田の言葉通り触れあう多幸感と、何の代わり映えもない中年である自分を欲しくて仕方がないといった様子の村田に自尊心をくすぐられていないとは言えなかった。
その事に気がついて、何が本当に怖いと思っているのか、佐々木はようやく分かった。
結局のところ、許してしまうのも、怖いのも。
「……どうやら僕は、村田くんのことをこれ以上好きになるが怖いのかも」
浮かんだ言葉そのままを、ぽろり、と漏らせば。
「っあ゛~~~~~~~~~~~!」
「!!?」
唐突に村田が盛大に叫びながらベッドに仰向けに倒れて驚く。
「む、村田君? どうした……」
「同棲が!! 楽しみだけど!! 不安!!」
「え!?」
顔を両手で覆い、叫ぶ村田に佐々木にオロオロとするが。
すぐさま村田は倒れた勢いを逆再生する勢いでガバッと起き上がると。
「とりあえず、週2でどう?」
「え、何が?」
「同棲したらするセックスの回数」
「え、無理!!」
「じゃあせめて週1」
「え、いや、なんで、そんな話題になってるの????」
一体どうしてこんな話題になったのかと、目を白黒させる佐々木に。
自覚無しか、と村田は思う。
佐々木は許してくれるだろうと、甘え過ぎたかな、と反省をして。しかしながらこれからの事を考えてボーダーラインを探ろうとしたのに。
結果はご覧の有様だ。
同棲をして、毎日顔を合わせれば慣れて落ち着くとは聞くけれども。
「俺の方こそ、これ以上佐々木さんの事を好きになるのが怖いよ……」
落ち着く前に我慢との兼ね合いが必要な気がすると。
村田は甘やかな苦笑と共にため息をつくのだった。
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