従者の愛と葛藤の日々

紀村 紀壱

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9話 健やか新婚生活へのススメ 6

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 アルグが大きく腰を引き、そのまま薄いルスターの尻へ下腹部が打ち付けられる音が浴室に響く。
 そこにくちゅっ、ぐちゅっ、と混じる湿った音がただの水音にしてはもったりとしているのは、もはやアルグの放ったモノだけが原因では無くなっているからだ。
 アルグの陰茎への刺激を増やすため、ルスターは太ももを意識的に締め付けていた。それがいつの間にか、アルグのペニスが蟻の門渡りを容赦なく苛める度、走る快感によって太ももへ力が入り、ルスターのペニスからはポトポトと先走りが伝い溢れていた。
 アルグの肉杭にルスターの手は再び添えられている。だがもはや自身への刺激を防ぐ為としてはろくに機能しておらず。ただ悪戯にルスターの手のひらを犯しているという意識をアルグに与え、興奮を煽るだけのモノに成り下がっていた。

「んっ、ん、……ぁ、アル、グさ……んぅっ……!」
「ふ、……っ、……クソッ、……っく……!」

 ほんの少しだけ、と思って我慢を辞めれば、快楽はあっという間にルスターの脳みそを蕩けさせ、理性をふやかしてしまう。
 アルグの肉杭に会陰からペニスの裏筋を擦り上げられる刺激は男として馴染んだ刺激に近く、受け入れれば簡単に快感の頂へ押し上げられてゆく。
 高まってゆく感覚にルスターの身体は自然とのけ反り、顎が上がってアルグの肩口に後頭部を押しつけた。そしてルスターの唇から熱を持った吐息がアルグの頬を撫でて。
 ルスターが耐え忍ぶ様子から、明らかに快感を享受して悶える姿に変わった事をずっと食い入るように気配を窺うアルグが気がつかない訳がなく。
 グゥッと、アルグは喉奥でまるで獣のような低い呻きをこぼし、物理的な刺激は先ほどと変わらずも視覚から入る情報に興奮が勝った様子で、2度目よりも呼気は乱れ。浴室のタイルに二人分の精液が散ったのはそれからほどなく、そして殆ど同時だった。

「……」
(…………やって、しまった)

 未だ興奮が冷めらやらぬ様子でルスターを抱きしめるアルグとは対照的に。
 一度熱を吐き出したルスターは、家出しかけていた理性が恐る恐る戻って来て、壁面から床に垂れる白濁を前に頭を抱えたくなった。
 我慢と限界を覚えましょうと、言いだしたのは自分だというのに。
 初めから完璧に上手くいくとは思ってはいないが、しかしながら自分が欲に流されるのはいかがなモノだろうか。
 ルスターを抱えるアルグの体温は未だ高く、下手をすればじわじわとその熱がまたコチラに移ってきそうなぐらいだ。しかし、若干の後悔と一度果てたおかげもあって先ほどのように引きずられまいと踏ん張りながら。
 ルスターは細く長く息を吐いて、身の内に籠もりそうな熱を逃しつつ考える。

(ココで、お終いにしなければ……)

 背後に張り付くアルグの収まらぬ――むしろルスターが誘惑に負けたせいで余計に渦巻いた情欲の気配をひしひしと感じつつ。非情とも言える言葉を投げかけ無くていけない。
 しかしながらそう思うのと同時に、ルスターの理性の端っこがほんの少しぐらついていた。
 先ほど男の性として確かに吐き出して満足している筈なのに、アルグに当てられて・・・・・いる所為か、つい先日致した影響なのか、腹の底にモヤモヤとした、物足りなさがある気がして……

「ルスター」
(っ――!)

 アルグの湿った声に、ルスターはきゅうっと自分の喉が物欲しそうに鳴ってしまいそうになるのを口を引き結んで押さえた。
 いま、自分は何を考えていたのか。
 今日の所はコレで終わらせないといけないと考えていたはずなのに、いつの間にか、思考があらぬ方向へと進んでいた気がする。
 もしもこの時、アルグがルスターの思考を読めていたのなら、ルスターの変化を諸手を挙げて歓迎していたところだが、生憎、つい最近まで年相応の落ち着いた肉欲としか付き合いのないルスターはまだまだ現状が受け入れられないもので。
 迷うルスターの様子に「もう一度」のチャンスを窺うアルグへ、嫌ではないが待って欲しいと。先を望みたい気もするが今日の所は少し考える時間が欲しいと訴えるにはどうしたら良いだろうかと悩むも上手く言葉が出て来ない。
 自分の現状に戸惑ってぐるぐると回る思考は以前、初めてアルグに手淫をした時と同じように頭がパンクしそうになっている状態だ。
 きっとこのままでは以前と同じように熱を出してしまうだろう。
 原因の一端はアルグだが、半分は自分でもあるのに「我慢の確認」で熱を出してしまったら、きっとアルグがまた深く落ち込んでしまうだろうと思って、ルスターは回らぬ頭のまま、おろおろと視線を巡らせる。

 ――その時。

 ルスター鼻先へ、つっと額から汗が流れ落ちてきて。

「くっしゅっ!」

 鼻がムズつき、くしゃみが一つ。
 その瞬間、ひゅうっと息を飲む音がした。

「っ!!」
「ぇっ!?」

 浮遊感に足先が浮いた、と認識した次にはルスターの身体は浴室から脱衣所に移されて。身体にぐるんと【二人分】のバスタオルが巻き付けられたかと思うと、風景はあっという間に寝室へ変わり。
 それはそれは優しくベッドに下ろされ、バスタオルの上から更にぐるんと毛布を巻き付けられた。
 それはあまりの早業で、ルスターは一体何が起こっているのかベットの上で何度も瞬きを繰り返えさらないと上手く認識出来ないほどだった。

「すまない、俺はまた過ちを……熱が出ているな、すぐに汚れを拭いて服を着よう」
「ぁ、ちょ……!?」

 アルグが手のひらでルスターの額に触れてそう言うが、火照っているのは風邪ではなく単純に血行が良くなっているだけなのだが。
 だがそんな声をかける暇というより隙すらなく、びゅんっと空気を切る音がするスピードでアルグは去ると、お湯の入った桶と布とルスターの寝間着を抱えてまたスゴイ早さで戻って来た。

「汚れを拭く為に毛布とバスタオルを捲るが寒くはないか?」

 ベット端に腰掛けたルスターの前に跪き、お湯につけた布を絞りながらアルグは聞いてくるが、部屋は入浴前にしっかりと温められているから何ら問題は無く。そもそも先ほどのくしゃみは風邪を引いた訳でもない。
 なお、この間ルスターはバスタオル2枚に毛布だが、アルグは薄っぺらい濡れた腰布一枚でほぼ全裸であるものだから、ルスターにしてみれば正直アルグの方が風邪を引かないか心配なものだ。

「アルグ様、自分で出来ますので、むしろアルグ様も服をお召しになってください」
「いやしかし、風邪を――」
「正直、アルグ様の姿を見ている方が風邪を引いてしまいそうです」
「む……」

 なおもルスターの世話を焼こうと食い下がるアルグに少し強い口調で言えば、アルグは渋々といった調子で引き下がった。
 その様子にルスターは内心溜め息を吐きつつ、よく絞られた温かな布でさっと身繕いをして寝間着を身に纏う間に、アルグは再び風のように去って、明らかに水を被っておざなりにぬぐい、ズボンを穿いた姿で戻って来た。

「ルスター早くベッドの中へ」
「……アルグ様、落ち着いてください」

 ベットの上掛けをめくり、早く安静に、と促すアルグに今度は我慢せずにルスターは溜め息を吐いた。
 良くも悪くも。
 ルスターがくしゃみを一つした後のアルグの一連の奇行――心配のおかげで、己より取り乱している人間がいると意外と落ち着いてしまうものだ。
 そして驚いたおかげで高ぶっていた感覚もすっかり元に戻って我にも返り。
 お互いに服も着たことでひと心地着き、冷静になったルスターはひとまずアルグの希望通り大人しくベッドへ入ると、高らかに宣言した。

「アルグ様、セーフワード合い言葉を決めましょう」

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