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9話 健やか新婚生活へのススメ 5
しおりを挟むルスターの手の中で、別の生き物のようにビクビクと脈動しながら精を吐き出したアルグのペニスは。本来であればくたりと重力に従うべきだが、まるでお辞儀をする様に僅かに亀頭を垂れたと思えば、すぐさま体積と固さを取り戻していく。
その様子にルスターは驚くこともなく、しかしながら予想していた通りの展開に、自身の状態をアルグに気づかれぬよう細く息を吐いた。
己の腰にわだかまる熱から目をそらして、ルスターは「この先」について考える。
アルグが達したのはまだ2回だ。
未だ片手で足りる程しかアルグと逢瀬は経験していないが、それでもアルグの性欲が体格と体力に見合った旺盛さを持っている事を知っている。
ゆえに初めから2回ぐらいではおさまらないだろうな、とは想定していたのだが。
「っ、……」
ふっ、ふっ、と背後から荒い吐息を必死に整えようとして、それでもなかなか滾る収まらぬアルグの気配に、ルスターは視線を泳がせてどうするべきかと迷う。
なにしろ、振り返って様子をつぶさに観察は出来ぬが、ルスターを抱きしめるその腕や手が、時折、不埒に彷徨いかけては何かを我慢するかのようにまた元の位置に戻るという様子を見せていて。そして今もルスターの手の中で立派に主張するほど股間を腫らし、きっとすぐにでも股座のモノを擦り上げて快感を得たいだろうに、恐らくルスターの「許し」を待っている、そんな気配をヒシヒシと感じるのだ。
今回の目的は、アルグが何処まで我慢が出来るのか確認することだ。
そう言った意味では今の所、行為が始まると多少ルスターの言葉が届きにくく、暴走しそうな気配はチラつくが、自制が働いている範囲内からは逸脱してはいないだろう。
ならばこのまま継続すべき、と思いつつ。
「……ァ、ルグさま」
「続きを、良い……か?」
リアクションのないルスターに流石に焦れたのだろう。
ルスターを抱きしめるアルグの腕に力が入って、背中にぴったりと熱い肌が張り付く。手のひらの中の熱杭がヒクヒクともどかしそうに震える。
「?…………ルスター?」
「っ!」
それはアルグが無意識にとった行動だった。今回はあくまでも何処までアルグが暴走せずに我慢出来るか、という確認だったから。
ルスターの予想通り、アルグはしばしばルスターへ伸びそうになる手を必死に堪えていた。獣ではないのだから、如何ともしがたい体力差にルスターを付き合わせるのは違うと思っている。そして勝手に煽られもよおしたのもまた、ひとりで処理をしろといわれても仕方がない。それを、わざわざ手伝うと言いだしたルスターに対して、手を出せぬ辛さはあるが、それを遙かに上回る喜びがあったのは確かで。
ルスターの好意を無碍にしたくないし、今後とも可能であればお世話になりたいと、アルグは懸命に理性の手綱を握りしめていた。
己だけではなく、ルスターが欲に溺れる姿が見たい。自分に抱かれ、普段の理知的な姿を保てずに快感に飲まれる様を引き出したい。そう貪欲に求める本能を、アルグはなんとか飼い慣らしているつもりだった。
だから自分の手が、前回の情事を辿るようにルスターの下腹へと伸び。そこにどうして己のモノがねじ込まれていないのかと、確認するように指先がルスターの下腹部を押したのはアルグの意識の外の出来事だった。
「ん、ッあ!?」
「っ!?」
水滴の落ちる音すら聞こえるほど、静かな浴室にルスターの口からこぼれた艶めいた声は驚くほどよく響いた。
ルスターはこのままアルグの自慰を手伝って良いのか迷っていた。それはアルグの我慢の限界がどれくらいかと測りかねてもいたが、思いの他アルグの興奮が自分へと伝播している事に対しての困惑があったからだ。
壮年に足を踏み入れ、年相応に落ち着いた性欲は若いときに比べて、多少は燻れどそう簡単に燃え上がる事など無いし、また鎮まるのも早い。
だから位置の悪い素股で刺激されたとはいえど、少し呼吸を整えさえすれば平静さを取り戻すと考えていたのに。
自分とは違う肌の体温と、抑えきれぬ欲を含んだアルグの掠れた声に、記憶の蓋がザワついた。考えては駄目だと思うと余計に意識してしまった、その瞬間――アルグの指先が。ルスターが必死に気づかないフリをしていた、最近まで知らなかった腹の奥の善い場所を、無視をするなとばかりに外から押したのだ。それはアルグすら無意識の行動故に、ルスターの警戒をすり抜け、身構える間すらなく与えられた刺激は、ひっそりと根付いて芽吹き始めていた快楽の記憶を掘り起こした。
(いまの、は、――!?)
まるで腹の中をアルグのモノでぐうっとゆるく押し上げられた時のような。射精が上手く出来ない苦しさともどかしさに似た、頭の後ろがじゅわっと溶けて力抜ける様な痺れが押された腹から腰へ、背骨を駆け上がり、不意をつかれて漏れた己の声に、ルスターは咄嗟に口を手の甲で押さえかけて。
「っ!」
手がアルグの放ったモノで汚れている事を、口に触れる直前で気がついて踏みとどまるが。鼻に届いた、ただ生臭いだけの筈の精液の匂いに全身から汗が噴き出した。
(何故、どうしてこんな……)
ルスターの目の前にある、手の甲がみるみる赤くなってゆく。それが手の甲だけではなく、全身に広がっているだろうという事を、身体の火照りから自覚しつつルスターは自身の躰に起きている反応に動揺したまま顎を震わせる。
そしてその事実にプラスして。
「ルスター」
耳を擽ったアルグの声に、ルスターはその身を大袈裟なほど跳ねさせた。
(――っ駄目だ!)
コレは駄目だという言葉がルスターの頭の中をグルグルと回る。その言葉が指すのはアルグの声が先ほどまでの欲を押し殺したものではなく、明らかに情事の時と同じうっとりと酩酊した声音に変わっていた事だが、しかしアルグが理性の手綱を手放しかけている根本的な原因は、自分に有るからだった。
腹に触れたアルグの手が、意思を持ってじわじわと下へと移動して、腰に巻かれた洗い布の縁へとかかる。布を取り払うことはしない。だが指先だけがほんの僅かに布の下へ潜りこんで、陰毛の生え際をサリリ、と撫でた。
――たったそれだけで。
アルグの手の向こう側で自分のペニスがヒクリと揺れ、さらに洗い布を押し上げ、存在を主張する様をルスターは見たくはなくて目をつぶった。
切っ掛けはアルグが悪戯に腹を撫でた指だ。だがそれに思いのほか情欲を引きずり出されて、飲まれかけているルスターに、アルグは気がついてしまった。
早急に制止の声を上げなければいけない。
そう思うのと同時に、【アルグは我慢が出来ない場合、自己申告をして、ルスターは退避する】などという口約束をしていたが、はたして【ルスターが先を望んだ場合】はどうなるのだろうか、などと思う。
アルグの手首を掴み、ひとこと「駄目です」と告げればアルグはまだ止まれるかもしれない。
だと言うのに、今やルスターの引き結んだ口元からは、アルグと変わらぬ熱を持った呼気が漏れるばかりで、触れ合った肌の温度も混ざってどちらが高いかなんて判断も出来ない有様で。ぎりぎりで踏みとどまっているアルグの理性を現しているかのように、下腹部に留まったまま動かない手を【もどかしい】とすら思い始めていた。
(きょうは、ここまでと、……しかし、あと一度ぐらい、なら……?)
平素なら「いえ、ここで終了の1択でしょう」という舵をルスターは切っていただろう。だがいくらアルグと比べて性欲は無かろうがルスターとて健康な成人男性で。尚且つアルグとは違い誤った素股で刺激だけされて一度も熱を放出せずして高められ続けた状態は、今やルスターの思考を濁らせるに十分だった。
おずおずとルスターが手を伸ばす。その先はアルグを制止するためではなく、己の股座から突き出した、未だ元気なアルグの砲身に向かってだ。
もう一度、手のひらでそのエラの張った亀頭を包み、もう一方の手は陰茎を押し下げ、あまり己のモノには当たらないように――と、考えて。「コレでお終いにするのなら、一度くらい自分も出して良いのでは」という声がルスターの茹だった頭に浮かんだ。同時に人間、下半身でモノを考えると碌な事がない、という声も聞こえた気がしたが、ルスターはアルグのペニスを掴む前に無意識に腰を揺らし、アルグの肉杭が会陰を擦り上げる刺激に理性を削り取られた。
「ぁ、はっ……」
「っ! ルスターッ!!」
先ほどとは違って小さく、だが悦楽に濡れた声がルスターの口から漏れたのを聞いた瞬間、アルグは堰が切れたように動き出した。
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