従者の愛と葛藤の日々

紀村 紀壱

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9話 健やか新婚生活へのススメ 3

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「アルグ様、このままお待ちしても収まるように思えないのですが」
「そう、だな……」

 あくまでもルスターは事務的な態度で。
 この状況では下手に恥じらうよりはとアルグを配慮してだが、確認する言葉に、アルグは肩を落としながら頷く。こんな調子では動じず穏やかに入浴が出来るのはいつになるのか分からない。その事実にアルグは改めて己の身を情け無く思いつつ、悲嘆にくれそうになっていると。

「では目標を変更いたしまして、これから私が処理のお手伝いを致しますので、我慢がどこまで出来るか確認いたしましょうか」
「……は???」

 聞こえてきた内容にアルグは耳を疑い、項垂れていた顔をガッと上げてルスターを見ると、かの従者は湯船から立ち上がり縁へと腰掛けた。
 アルグを慮って、ルスターはわざわざ目隠しにと腰に洗い布を巻いていたが、濡れて身体の線に沿って張り付いたソレは、下半身の形を曖昧に浮かび上がらせている。
 ハッキリと見えるより微妙に隠されている方が想像力を掻き立てられてエロい、などと酒の席で下世話な話を耳に入れた事があるが、なるほどコレがそれか。なんて、何年越しかの気づきを得ながら、アルグはルスターの言葉の意図を把握しようとするが、残念なことに視覚情報が邪魔をして上手くいかなかった。

「ルスターすまない、意味が少し理解出来なくて……?」
「そうですね、まず前提として挿入については本日は我慢して頂きたい訳ですが」
「それは勿論だ」
「だからと言って、それ以外もすべて禁止にしてしまうのも違うかと思いまして」
「……そう、か?」
「ええ。そのようにアルグ様が兆されてしまうのは、年齢と体力を顧みれば生理現象として仕方が無いので、収める努力より、むしろどれくらい抜けば落ち着くのか確認する方が早いかと」
「確かにそれはそうだが……」

 収めるよりもさっさと自慰をして抜いてしまった方が早い、という方向性は理解出来る。
 それはまさに正論ではあるが、冷静になれるまで一人で抜き続ける、というのは若干の寂しさというか虚しさのようなモノの気配を感じ、頭では分かっているが気持ちは沈む。
 しかし流石にソコはルスターも同じ性ゆえか。

「とは言え『どうぞお一人で』というのは恋人としてあまりにも薄情ですので。私もお手伝いをとしたいのですが、……懸念と致しまして自慰だけでアルグ様が我慢できない、という場合には自己申告して頂いて、私は速やかに退避する、という事が必要かなと」
「なるほど??」

「なるほど」などと口では言いつつ、アルグの内心は全くもってルスターの言葉を受け止めきれていなかった。
 引っ掛かったのは、もちろん「手伝い」と言う言葉で。

「その、ルスター。手伝い、とは……」
「すみません、口で、と言うのはまだ自信が無い為、今回は手か素股、という手段を考えたのですが」
「素ま……?」
「太ももで男性器を挟んで刺激する方法なのですが……なにしろ、肉付きが悪い男の足ですので、いささか懸念はあるのですが、疑似性交として満足度は高いと本に有りまして」

 別に、アルグが言い淀んだのは素股が分からなかった訳ではない。
 単純にルスターの提案にまたもや耳を疑ったのだが、わざわざ丁寧に説明されて、視線はふらりと女性に比べれば脂肪はないが、程よく筋肉ののったすらりと日焼けのない白い太ももへ漂い、思考が止まる。

(そこに、挟む。自分のを?)

 基本的に性的接触に対してルスターは及び腰だが、時たま妙に大胆というか思い切りが良すぎて、アルグは「コレは都合の良い夢か?」と混乱する。
 ルスターの内情としては一通りの羞恥はあるものの。アルグとの関係に腹をくくった以上は今後の事を真剣に検討する前向きさと、体力差と年齢差を加味しすぎて目的の為に手段を選ばないというか。ここのところ軟禁されて仕事が暇だった故に無駄にチャレンジ精神が高まっている所為だったりするのだが、事情を知らぬアルグにしてみれば、一体どこでルスターが積極的になるスイッチが入ったのだろうと、悩むところで。

「あまり、気が進みませんか?」
「そんな事はない! むしろ、いやその、できれば、素股を試してみたいの、だが……?」
「分かりました」
(本当にいいのか)

 このまま提案にのっかっても良いのか。悩みはするが、目の前にぶら下げられたチャンスにアルグは逆らえない。
 素直に希望を言葉にすれば、ルスターはあっさりと頷き、浴槽から出ると壁に向かい、手がつく距離を測って立つと振り返った。

「このような体勢で後ろから股の間に差し入れていただく形になるのですが……」

 腰に巻いた布を取るか、一瞬悩んだ様子を見せ、最終的に尻を隠すギリギリまで捲りあげる。その光景に「だから何故、全裸より卑猥に見えるのだ?」と解けない謎を再認識しつつ、無意識にアルグは立ち上がって、ふらふらと引き寄せられる様にルスターへ近づく。

「やはり、身長差的に立ってするの……っん!?」

 立ち上がったアルグがまた理性をぐずぐずと溶かし始めている事に、顔を見ていればルスターは気づけただろう。
 しかし残念な勤勉さが祟って、立ち上がったアルグの腰の位置と己の腰の位置との目測に集中していたものだから反応が遅れてしまった。
 ぐんぐんと近づくアルグは、ルスターの身体を挟むように両脇の壁に手をつき。まだ元気に起立したままのペニスをズルリ、と腰布に覆われた尻から腰へと擦り付ける様に押しつけた。

「ッルスター、いい、か? 触るのは、腰を掴むのは、いいだろうか……?」

 距離が近いせいで、アルグの顔を窺い知ることが出来ない。
 だがルスターの耳元に寄せられた唇から吐き出される掠れた声と吐息の熱で、その淡い青色の瞳がまたグラグラと煮えたぎっているのが分かって。

「ぁのっ! アルグ様、ちょっとお待ちを……」
「挿入は無しだ。わかっている、だいじょうぶだ。だが触れるのは、お前に触れては駄目か?」

 ルスターの尾てい骨のあたりへ、ず、ず、とアルグの熱杭がジッとしてはいられず、あくまでも身じろぎのような動きで擦られ、しかし強く存在を主張する。
 並んで立ってみると、アルグとルスターの身長差は殆どそのまま股座の位置の差だった。つまりは素股を、とは言ってみたが、ルスターの股にアルグの物を挟むとなると、必然的にアルグが腰を落とすか、ルスターがつま先立ちになるしかない。出来なくはないが、己の筋力的にもアルグの姿勢的にもよろしくないのでは。そうルスターは気がついて。
 あまり雰囲気をつくり過ぎないようにと浴室で事に及ぼうと思ったが。やはり寝台で膝をつくか、仰向けでする素股へと仕切り直しを、という願いはもう、アルグの耳に届けるのは難しそうだ。
 このまま腰へ擦り付けて処理をするつもりなのか。それとも、触れる許可を得て何かしらの策があるのか。悠長に考えている場合でも無く。

「えっと、……私の性器には触れない方向でしたらっ!?」
「すまない、まずは一度……っ」

「良いですよ」という言葉は、アルグの腕がぐっとルスターを引き寄せるように背後から抱きしめられる勢いに途切れて。
 そのまま今度は明確に、尻のあわいから尾てい骨へとアルグの肉欲が擦り付けられる。ずっと勃起していたのを触れずに我慢していたのだ、そこに許しを得た刺激を受ければ、もう止まれるはずもなく。
 無意識なのか故意なのか。ルスターを抱きしめたアルグは、ルスターの耳の後ろを嗅ぐように鼻面を押しつけ、唇がときおり耳輪を悪戯に食む。腰布により肌よりも摩擦が強いのもあってかグイグイと揺らされる腰の動きと共に耳へ届くアルグの呼気が荒くなって。

「っ、くぅ」

 アルグが低く息を飲んだ後、腰から背中にかけて湿った感触が広がった。

「ルスター、」
「……はい、大丈夫、ですよ」

 やや伺いを立てるような音色でアルグが名を呼んだ意味を正確に読み取って、ルスターは知らず知らずのうちに止めていた息を吸って吐いて、自分の身体に回された腕を優しく撫でた。
 それでルスターの真意もまたアルグに伝わったのだろう、ぬち、っと腰に吐き出された白濁が塗り込められるようにまだ芯を持った肉杭・・・・・・・が動いた。

(……コレなら私の体力は持ちそうですが、思ったよりも、なんというか……)

 アルグ自身が宣言して、そしてルスター自身も一度で済む、とは考えていなかったが。
 背中に触れるアルグの体温に煽られるように、己の身体が湯だけではなくしっとりと汗ばんでしまうのを感じて、汗なのか水滴なのか分からない雫を払うようにルスターは己の頬を指で擦る。
 性器に刺激が無ければ冷静でいられるかと思ったが、ただの尾てい骨を擦られる動きに肌が粟立つし、耳から吹き込まれる吐息も非常によろしくない。
 思った以上にアルグの興奮が伝播している気がして、落ち着こう、と深呼吸をしかけたところで。

「少し、抱えるぞ」
「え、っ……!?」

 はっ、と、熱の籠もった吐息と共に呟かれたアルグの言葉の後、ルスターを抱きしめていた腕が解ける。
 しかし次の瞬間、腰を大きな手が鷲づかみにして、持ち上げられる。足先がわずかに宙に浮き、ルスターは慌てて壁に手をつく、と。

「ぉ、は――ぁっ!?」

 ズルリ、とルスターの股座の間から己の物ではない長大な逸物が生え、ルスターは顎を震わせて驚いた。
 アルグのモノに対してではない。素股によるその衝撃にだ。
 正確に言うならば、反り返ったアルグのペニスがルスターの会陰と玉を擦りあげ、今現在も股の間を押し上げる感覚に。

(思った以上に、コレは私も刺激が強いのでは……!?)

 予想よりも随分とマズイ状況に「何事も試してみなければ分からない」と、頭の中で現実逃避の様に言葉が浮かんだ。


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