俺はアンドロイドなんて好きじゃない

紀村 紀壱

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マスターがASになりました。

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「結果が出た」

「……で?」

 マスターによって改悪、いや、調節された、とても非効率な判別回路の計算がやっと終わったことを告げると、マスターは横になっていたソファアから身を起こす。
 そして珍しく話を聞くにてきした体勢……つまりはちゃんとソファアに腰掛けた。

「やはり一番良いのは病院への通院だが、ASは長期治療となる場合がほぼ大多数だ。最低総額の費用の面で検討してもマサノブの好むところではないだろう。ので、この選択肢は除外すると、だ。妥当と思われる提案は2つ」

「2つ? 思ったより少ないな」

「……マサノブの金への執着を検討材料に入れると2つになった」

「失礼な、金と言うな、俺が固執してんのはバイクだ、バイク」

「生活の中でバイクと金銭欲が締める割合を考慮すると2つになった」

「言い直しても中身変わってないからな、それ」

「……一つ目はASのこれ以上の進行を防ぐ方法として、容姿の変更と、リカバリーをするという手だな。」

 無視か、と抗議するマスターをスルーして、モニターへ一番安価なプレーンタイプのスキンの装着サンプル画像を写す。
 まるで棒人間のような、凹凸の少ないつるりとした顔とボディは何とも味気なく、低評価を受ける物だが。
 人目で明らかな無機物であるという容姿は、ASには非常に効果的であろう。

 しかし。

「悪いが……正直、俺はお前の今の容姿の方が棒人間よりハードルが高い」

 顔をしかめてマスターがぼそりと言う。

「むしろ、逆に、余裕か……?」

 元々の性癖がノーマルである事を計算に入れると、現在の私の外見がマスターにとって非常にアブノーマルに当たることはわかりきった事であるが。
 モニターを見つめ、なにを想像したのか。
 マスターの心拍数が若干上昇し、すぐ元に戻る、という動きを見せたが、深くは検証しないことにする。
 追求をすると、私のCPUが非常に酷使を強いられる予測がしたからだ。

「あと、リカバリーは勘弁だな。やっと使えるようになったというのに、またはじめから教え直しなんてやってられない。だいたい、人間って言うのはアンドロイドみたいにボタン一つで『こんにちは、マスター』なんて切り替えられないんだよ。せっかくお前なら何とか側に置いといても大丈夫か、と思えてきたのに、また薄気味悪いロボット野郎へ戻すなんて、馬鹿げてる。それならもうアンドロイドなんているか」

「……」

「何だ」

「いや……すまん、少々ラグが発生した」

 マスターの言葉が推測と違って、一瞬動作不振となる。
 平素彼は、その性格から私をポンコツだとか、役立たずだとか罵ることをしても、肯定する言葉を滅多に使うことがない。
 従って今の言動についての意味合を計算したところ、はじき出された答えが余りにその前提からずれていて、思わずバグではないかと判断しかけてしまったのだ。
 しかしながらそもそも、このたびASとなったのであるから、マスターが私のこの疑似人格に対して、好意を持っていることは揺るぎのない事実である。
 その付加情報をもって、再計算にストップをかけながら。
 何故か、私のプログラムは、先ほどのマスターの音声・動画にロックをかけて保存してしまう。
 
 ……いや、理由はきちんとある。

 これはきっと、ASの進行が見て取れる貴重な資料とも言えるだろう。
 そう、位置づけて。
 マスターでは安易には触れられない領域にデータを仕舞いこむ。
 ついでにそこにも二重にロックをかけた。

「おい。それで、もう一個の提案は」

「先ほどの提案が棄却となると、もう一つの提案は、あきらめてASである事を受け入れる事だな。これなら、費用はほぼかからないと推測される」

「まあ、現状維持だからな、そうなるだろうな」

「想定されるデメリットとして大きなところは、マサノブのプライドの問題と風評被害というところだが……」

 言葉を濁せば、マスターは舌打ちをする。

「とりあえず、お前に性交機能があるか調べた時点で俺の自尊心は粉々だ、このクソ野郎」

 吐き捨てるようにそう言って、マスターは顔を両手で覆ってため息をついた。
 どうやらマスターの症状はほぼ末期レベルであるらしい。
 マスターの心理推移グラフが大きくうねっている。
 珍しく、非常にデリケートな精神状態にあるようだった。
 果たして、この状態のマスターにどのような言葉をかければ波風を立てずにすむのか、難しい判断である。
 慎重に計算を行いつつ、一方で先ほど話題に出てきた性交機能について検索をかける。
 すると追加アクセサリに『セクサロイド機能PENanlー243be型』というのがヒットした。
 追加アクセサリと言うことは、デフォルトでは私に性交機能は付いていなかったようだ。
 しかしマスターのAS発症疑惑が浮上してから、このような機能を追加された記録はない。
 そしてマスターの経済観念的につけるはずもなかった。
 では一体、何故このような機能が付いているのか。
 その検証に入る前に、プログラムへの状態確認のためのアクセスで、その仔細が判明した。
 セクサロイド機能の、概要ファイル展開をキーとして、テキストファイルが自動的にオープンとなる。
 そして、『おめでとうASの世界へ! これは僕ちゃんからのプレゼントw 上(口)も前ペニスも後ろ(アナル)も使えるよーん。是非是非活用したってね♪ あなたの気が利く友人、萩ちゃんよりw」というメッセージが、特大フォントで表示された。
 萩山氏からのメッセージを閉じながら、4日前、マスターが突如モニターを破壊した理由はこれかと判断する。
 仕様に関してのハウツープログラムも関連して出てきたが、とりあえずチェックをつけて今は機動を保留する。


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