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マスターがASになりました。
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しおりを挟む私とマスターとのやりとりを見た人間は、決まって「アンドロイドの使い方を間違っている」と、批判する。
私自身、マスターの睡眠時にその評価について検証してみた事があるが、非常に的を射たものだという結果が出た。
本来、アンドロイドというのはマスターと識別した人間の無駄を省くための道具である。
常にマスターへ快適な環境を提供するために、その演算能力をフル活用させ、先へ先へと動く。
非常に高性能なアンドロイドは、ほんのわずかな行動パターンから、マスターが言葉を発せずとも満足感を与えるサポートを行うというのに。
「で、今日の夕飯は」
「唐揚げのネギ塩ソースかけに、小松菜のナムル、椎茸と豆腐の味噌汁だ」
私の回答を待つ間、モニターで小窓を開いてニュースの確認をしていたマスターが、ふと思い出したように顔を上げて尋ね、私は今日の献立を読み上げる。
「なんかここ数日、鶏肉と魚ばかりじゃないか? 豚と牛っていう単語はお前の中にないのか」
「原因は4日前の12月2日、14:32分のマサノブの買い物が原因だが」
「それをうまくやりくりするのがお前の役目だろ」
「そうだな、俺がもう少しポンコツでなければマサノブの考えなしの散財を止めるすべがあっただろうが、演算能力が低レベルで申し訳ない」
「お前……」
ペコリ、と形ばかりの頭を下げる仕草をすれば、マスターが頬をひきつらせた。
本来ならマスターの為を思い、たしなめるような言葉を紡ぐべきであるのに。
私には、残念ながらそれができない。
それは私がポンコツだからではない。起動してはじめは、いかに心地よくマスターが行動に移せるかを判断し、実行していたのだが。
「アンドロイドのなにが嫌いって、あの偽善者面が気に食わない。発言や考え方が上から目線だ。「貴方のためです」とか耳触りのいい言葉で誘導してきて、ロボットごときに俺はコントロールされる気はない」
そう言って、あれやこれやと私の行動・言動に注文をつけ続け。
アンドロイドの宿命から、マスターの言葉を素直に取り込み続けた、なれの果てがこれなのである。
しかも、通常であればアンドロイドへの返答、質問はイエスorノーで答えるのが基本であるのに。
マスターは何故か対人間、または調節がすんだ高性能アンドロイドに対するかのような曖昧な言葉で返す。
おかげで私の演算機能は常にマスターの言葉の機微を読みとることに精一杯となり、ただでさえ遅い処理がより遅くなる始末だった。
マスターの性格を知っている萩山氏の計らいで、私の学習領域はオリジナルよりずいぶんと大きいものを搭載している。
だというのに、常に容量は一杯一杯で、最近は書き換えと圧縮を駆使して、なんとかやり取りをしているが、そろそろ限界が迫っていた。
新しい圧縮率の高いパックへ変えて欲しい。もしくはメモリも出来ることなら追加して欲しい。
それが出来なければ、もう少し、マスターにはアンドロイドに対する配慮をしてほしい。
さもなくば、私は正確な判断ができなくなってしまうだろう。
そして世間一般が定義する、アンドロイドという物から遠ざかってしまうのではないかと危惧するのだった。
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