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4話 ネロ・バシランはもがれて落ちるか4*
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あくまでも戯れ程度の接触で終わらせようと、思っていたのだ。
「大丈夫、気持ちが良いことを教えてあげるだけだ」
「……きもちが、いい…………?」
「そうだ」
初めはゆるゆると、まるでマッサージをするかのように。腕や肩、背中に触れるベルテの掌からネロへと与えられるのは穏やかな心地よさだった。
息を奪うような口付けから一転したそれに、ネロの身体はすっかりと弛緩して、霞がかった頭は更にぬるま湯のような泥の中に埋もれていった。
己とは違う目の前の成熟しきった大人の身体に、その造形を羨ましく思い興味深く辿る。それは無邪気な接触だが、触れられる男にとってはそれだけではなかった。
今まで過度な接触を避け、そして精神的にも一歩引いたネロが、理性が溶け、興味本位が先立っている状態とはいえ、自ら触れてきているのだ。愛撫などにはほど遠くおよばない、娼婦の手管に比べればそれこそ幼子のスキンシップの程度のたどたどしい手の動きに、ベルテの体温は易々と上がってゆく。ベルテのゆるく弧を描いた唇が時折ヒクついて、深呼吸をするように長い息を吐く。その度に、ネロの身体に触れる手が、段々と不埒な動きを増してゆく。
身体の外側を撫でさするようにしていた掌が、胸元を通るときに指先がイタズラに乳頭を引っかけるように触れる。二の腕を揉むように肩へと上がってきた手が、脇の下へと親指を潜り込ませて、グニグニと腋窩を押し上げる。脇腹から肋骨のくぼみを辿り、鼠径部へと手を這わせながら指先は臍の縁をぐるりと撫でた。
「ン、ぅ……?」
始まりはささやかに。思考の落ちた頭は微かな違和感にすぐに慣れてしまう。
ネロに飲ませた薬の効果は思考の低下と記憶の混濁を引き起こすだけだ。だから刺激に対しての反応する体はネロ自身がベルテから与えられる感覚を享受した故のモノで。
口付けで上がった熱は一度、ぬるま湯につけられ、そのぬるま湯がいつの間にかじりじりと温度を上げている事に気づくのは茹だりきって手遅れになってからだ。
「は……ふ、……っ」
「ネロ」
「ん、……もう、いい……」
使い込まれたアンティーク家具のようなブラウンの肌が上気してしっとりとした肌触りへと変わっていた。
ネロに触れるベルテの掌もまた熱を帯びて、大きな掌で撫でられる度にネロは己の身体が耐え難い疼きと、熱に煽られている事にようやく気がつく。
ベルテを押しやり、身を捻って退避しようとするも、すっかり骨抜きになった身体はベルテの行動をほんの少しも止められるはずもない。
「まだ、ダメだ」
「ぁ……?」
ネロが己に覆い被さるベルテを押しやる動きに、あえてベルテは従って身を起こした。それは狭いカウチの上でネロを可愛がるには不十分だったからだ。ネロが逃げるようにカウチから転がり下りようとする、その身体をベルテは後ろから抱きしめるように掬い上げ、カウチに腰掛けた己の足を跨ぐように膝の上へとネロを座らせる。
「ほら、肌が触れあうのは気持ちが良いだろう?」
「ベ、ルテ……あつ、い……っ」
ネロの背中にベルテがぴったりと添うように背後から抱きしめられ、腹にベルテの腕が回る。
ベルテの唇がネロの耳へ押しつけられ、吐息ともに吹き込まれた声に頭がカアッと熱くなり、ネロは喘ぐように呻いて身を丸めてベルテから身を離そうとするが、今さら逃れられるはずもなく。
「それなら、もっと脱ごうか」
「っ……」
「ネロ、腰をあげてごらん」
ネロの腹に回ったベルテの指先が器用にボタンを外し、緩んだズボンを下着ごと下げようと動く。
だが上着と違い、人前で下半身を露出する行為に対する違和感が引っかかり、ネロは頭をゆるゆると振って、頭の中に染み入ってこようとするベルテの言葉に抵抗をする。
その様子にベルテはここまでか、と思うのに。
「あっ……!?」
「言っただろう、気持ち良い事を教えてあげると」
もう止めなければと考えつつも、どうせ明日になればネロは何も覚えていないのだと、悪魔の囁きが聞こえた。
ベルテの長い指がネロの腹からそのまま下着の下へと潜りこみ、薄い陰毛をサリッと撫でて僅かに芯を持った陰茎へと絡みついた。
「ぁっ、べ、ベルッ……テ! ダメだ……!」
「ダメじゃない、『気持ちがイイ』だ、ネロ」
中指と人差し指で輪を作って、ほんの少し扱きあげれば、腕の中のネロの身体がビクンと跳ね上がり、手の中のペニスがその固さをしっかりとしたモノへと変えてゆく。あまりの反応の良さに、若さかな、と苦笑しながら、刺激への耐性なさに心配になる。
こうなるように、散々ネロの身体を溶かして抵抗を下げたのはベルテだ。しかしその張本人の腕に、しがみ付いてネロは悶える。ネロの碌に抗えない迂闊さと危うさに、コレは半分、ネロが招いた事だと、ベルテはこのまま他人に触れられる前にもう少しだけと、己に言い訳を繰り返す。
「ああ、下着が汚れてしまうね」
「ひ、ヤダ、さき、っぽ、……っ、いやだ、あっ、あっ、あっ……!」
自分でコントロールが出来ない、他人から与えられる快楽に、今まで勤勉に遊ぶ事もせず、自慰すら最低限に処理として済ませてきたネロが抗えるはずもない。ベルテの器用な手はネロが反応する場所をあっという間に覚えて頭の中を快感へと染め上げてゆく。
強弱を付けてペニスを扱き、陰嚢をやんわりと弄び、敏感な亀頭を指先でこしょこしょとくすぐられれば、その刺激に決壊したように先走りがとろとろと漏れ出て、湿った音に変わった。
「んっ……ふ、ぁ、……ぅく、……」
「こうすれば汚れないだろう?」
否応にも慣れ親しんだ、直接的な快感にネロの腰が本能に抗えずにゆるゆると揺れてしまう。その稚拙で淫靡な動きにベルテは眼を細めながら、ネロの芯を扱く手とは違うもう片方の掌を、下着が汚さないようになんて言い訳をしてネロの亀頭を包むように押しつける。
「このまま私の手に出してごらん」
「っ……!?」
嫌だというようにネロは首を横に振り、ベルテの掌から逃げようと腰を引こうとするのに、もはや快楽に落とされた身体は己の意思など無視して、ユラユラと淫猥にペニスの先を擦り付けるのを止めることが出来ない。
追い詰めている原因はベルテなのに、自分が垂れ流した先走りでベルテの掌がどろどろに汚れてゆく様子に、ネロはどうしようもない罪悪感と、背徳感を覚えつつ、頭の後ろが痺れるほどの快感に目眩がした。
「イけ」
「ぁ、ひ、……っーーー!」
きゅっと一段と絞るように未熟な陰茎を扱きあげられ、低く掠れたベルテの声が頭に吹き込まれる。そしてくちゅり、と、湿った舌先が耳の中へ入り込む感覚と音に、ネロの頭は真っ白に染まった。
小振りな陰嚢がきゅうっと持ち上がって、ベルテの掌にビシャリと白濁を吐き出す。ブルっと震えたネロの身体が次の瞬間、ぐたり、と弛緩した。
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